Febri TALK 2021.10.13 │ 12:00

鈴木貴昭 企画/文芸/脚本

②設定の重要性を知った
『天地無用! 魎皇鬼』

豊富なミリタリー知識を生かし、『ストライクウィッチーズ』をはじめ数多くの作品で世界観設定や軍事考証などを務めるライター・鈴木貴昭が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の2本目は、よくできた「設定」に魅せられた『天地無用! 魎皇鬼』。

取材・文/岡本大介

ハマりすぎて生まれて初めて聖地巡礼に

――『天地無用! 魎皇鬼(りょうおうき)』は1992年制作のOVAです。どのようなきっかけで見たのでしょうか?
鈴木 仕事でパイオニアのLD(レーザーディスク)の発表会に行ったときにたまたま知って、気になったので見てみたら、もう第1話で完全に虜になりました。大学時代、アニメ好きな先輩の家に遊びに行っては、80年代のOVAを見せてもらっていたので、なんとなくピンときたんですよ。これは百花繚乱のOVA全盛時代を締めくくる作品かもしれないと。少なくともAICの集大成が見られるだろうと思って(笑)。

――鋭い嗅覚ですね。具体的にはどんなところに惹かれましたか?
鈴木 ひと言に集約すると「設定」です。この作品は日本の「鬼の伝説」と「宇宙人」をじつにうまく融合させているんですよね。それまでにも面白いSFアニメは数多くありましたが、日本的な和のテイストをここまで取り込んでいる作品はなくて、それが衝撃的でした。宇宙船も、船内に巨大な樹木が生えていたり、水が流れていたりしていて。猫の外見をしたマスコットキャラの魎皇鬼が宇宙船に変身するなど、そんなものはこれまでに見たことがなかったですし、目にするものすべてが斬新だったんです。「世界観」や「設定」の大切さをヒシヒシと感じました。

――「世界観」や「設定」というと、今の鈴木さんの仕事にもつながってくる話ですね。
鈴木 そうですね。当時はまだ自分がアニメの仕事をすることになるなんて夢にも思っていませんでしたが、今になって思うと私にとっては非常に大切な出会いでした。ただ、そのときは純粋にひとりのアニメファンとして感動していて、ハマりすぎて生まれて初めて聖地巡礼に行ったくらいです(笑)。

――1992年当時に「聖地巡礼」という風習があったんですね。
鈴木 そういうカルチャーが生まれたばかりで、最初期ですね。この作品の聖地は岡山県なんですけど、柾木(まさき)神社のモデルになっている太老(たろう)神社をはじめとして、ちゃんとアニメのシーンと対応する場所があるんです。キャラクターたちの名前も岡山県の地名が冠されているなど、アニメファンが聖地巡礼したいと思えるような仕掛けが施されていて、そういうスキームを考えたのもすごいなと思いました。

ファンが聖地巡礼したいと

思わせる仕掛けがあって

そういうスキームを考えたのは

すごいなと思いました

――本作はSFであるとともに、ラブコメやハーレムものの要素も強いですよね。魎呼(りょうこ)を筆頭に多くのヒロインが登場しますが、鈴木さんは誰がお気に入りでしたか?
鈴木 個人的な本命は砂沙美(ささみ)ちゃんで、彼女が主人公として活躍するスピンオフ『魔法少女プリティサミー』もガッツリと追いかけていました。ただ、それでもやっぱりメインヒロインの魎呼は圧倒的に魅力的だなと思います。『うる星やつら』のラムちゃんもそうですが、「一途で強気な鬼娘」っていうのは私のなかではもう鉄板です(笑)。『天地無用! 魎皇鬼』を見たときは「ラムちゃんが帰ってきた!」っていう、懐かしくもうれしい気持ちが湧き起こりました。

――とくに印象深いシーンはありますか?
鈴木 第五話「神我人襲来」で、祠に封印されていた魎呼が、赤ん坊の頃からずっと天地のことを見守っている回想シーンがあって、そこがすごく好きですね。あそこでグッと魎呼に感情移入して、絶対に天地とうまく行ってほしいなと思いました。そうなってくると阿重霞(あえか)がすごく邪魔に思えてきて、つくづく「報われない子だなあ」って(笑)。決して彼女のことを嫌いというわけではないだけに、その不遇さには哀れみをおぼえます。

――『天地無用!』はかなり長いシリーズで、作品ごとにテイストもガラリと変化していますが、なかでも最初の第1期が好きなんですか?
鈴木 そうです。よくできた世界観と魅力的なキャラクターの組み合わせという部分に感銘を受けたので、個人的に好きなのはOVA第2期までです。

――練りに練られた世界のなかでキャラクターが自由奔放に暴れまわるという図式は、これまでに鈴木さんが参加している作品ともとても似ていますね。
鈴木 僕はもともとゲーム畑の人間なのでとくにそう感じるんですけど、僕がやりたいことって、つまるところは「世界を創る」ことに尽きるんです。フィクションではあっても、その世界の人々はどんな暮らしをしているのか、何を食べていて、どんな歴史や文化があるのか。そういう枠組みを作って、その場所に多くのクリエーターやプレイヤーの方々を招いて、そこで自由にドラマを作ってもらいたいという気持ちが強いんですね。そういう意味では、私はいつもみなさんに面白がってもらえる「遊び場」を提供したいと思っています。僕自身が脚本を書くこともありますけど、主に世界観設定やSF・軍事考証をお手伝いさせてもらっているのは、その気持ちが中心にあるからだと思いますね。『天地無用! 魎皇鬼』はまさにその「設定」の醍醐味を最大限に発揮している作品で、だから大好きなんです。endmark

KATARIBE Profile

鈴木貴昭

鈴木貴昭

企画/文芸/脚本

すずきたかあき 北海道出身。『LAST EXILE』の脚本・文芸担当として初めてアニメ制作に携わり、以降多くのSF・ファンタジー作品で世界観設定や軍事考証などを務める。代表作は『ストライクウィッチーズ』『ガールズ&パンツァー』『ハイスクール・フリート』など。

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