決められた運命に抗い続けるアッシュの生き様に惹かれた
――『BANANA FISH』は、瓜生さんがずっとアニメ化したかった作品なんですよね。
瓜生 そうなんです。学生のときに原作マンガを読んで大好きになって。アニプレックスに入社したのち、先輩たちから「何をやりたいの?」って聞かれると必ず「『BANANA FISH』がやりたいです!」って答えていました。なので、宣伝部から制作部へ異動になったとき、すぐに企画に取り掛かりました。吉田秋生先生にお手紙を書くことから始まり、映像イメージをプレゼンするなど奔走したところ、運も手伝ってアニメ化の許諾が得ることができたんです。そこから内海(紘子)監督をはじめとする素晴らしいスタッフの皆さんにお集まりいただき、さらにMAPPAさんの制作をお願いしてと、企画が動き出してから放送までに約5年の月日がかかりました。時間はかかりましたが、それだけに印象深い作品になりましたね。
――そもそも瓜生さんは『BANANA FISH』のどんなところに惹かれましたか?
瓜生 いちばんは、決められた運命に抗い続けるアッシュの生き様ですね。アッシュが必死に生きる姿は鮮烈で、ものすごく惹かれましたし、そんな彼の唯一の心の支えになっている英二もいいなと。あとはやっぱりラストシーンのインパクトですね。初めて読んだときは「こんな結末があるんだ」と、しばらく茫然自失というか、動けなかったです。
――原作は全19巻という長編ですが、アニメではうまく2クールにまとめていますね。
瓜生 そこは脚本の瀬古(浩司)さんが本当に頑張ってくださいました。瀬古さんご自身も原作の大ファンで。尺の都合上、脚本会議ではいつもどこを削るかが焦点だったんです。これは残したいけど、あっちも残したいという堂々巡りで、いちばん時間をかけたところでした。出来事や展開だけをつないでいっても十分物語として成立するのですが、やっぱり優先すべきはアッシュという人間の生き様であり、英二との関係性なので、みんなで粘りながら着地点を見つけていきました。舞台を現代に移しつつも、原作が持つ独特の雰囲気はしっかりと表現できたかなと思います。
英二が棒高跳びで壁を越えるシーンは期待以上だった
――アッシュと英二の描写の他に、とくにこだわったところはありますか?
瓜生 キャラクター同士のちょっとした楽しい掛け合いはなるべく削らないようにしました。シリアスで重たい展開が続くので、癒しになるシーンはあったほうがいいなと思いましたし、アッシュの年相応の姿も見せたかった。あと個人的に月龍(ユエルン)がすごく好きなので、彼のシーンも絶対に残したくって。それもあって「どこを削ればいいんだ?」っていうのは余計に大変でした。
――とくに思い出深いシーンはどこでしょうか?
瓜生 第2話「異国にて」で、英二が棒高跳びで壁を越えるシーンです。このときにアッシュの瞳のアップが描かれ、そこに空を跳んでいる英二の姿が映っているんです。これは内海監督の演出なんですけど「自分はそこには届かない」というアッシュの心情も表れていますし、シーンとしてもとても綺麗で感動しました。このシーンはふたりの関係性の起点となるところなので、印象的なシーンになればいいなとは思っていましたが、期待以上でした。もうひとつは、やはり第24話のラストシーンです。
――原作ファンも納得の、完璧なラストシーンでした。
瓜生 ありがとうございます。私としては「とうとうこの瞬間が来てしまったか」と、見ていて辛すぎて現場で何度も泣きました(笑)。でも、フィルムとしては最高に美しい仕上がりで、幸せな気持ちと悲しみと感謝と切なさと……なんとも複雑な気持ちでしたね。
――念願だった作品をアニメ化して、プロデューサーとして得たものや変化したことはありましたか?
瓜生 少しわがままになったかもしれません(笑)。大変なことも多かったですし、制作中は不安で寝ることができない日が続きましたが、それは私が折れなかったからだと思うんです。あのとき少しでも妥協していたら、このかたちにはなっていなかったと感じることも多くて。『BANANA FISH』のTVアニメ化は私の悲願でもあったので、そのときはごく自然とそういう気持ちになったんですが、プロデューサーである以上、すべての作品でその気持ちを持たないといけないなというのは痛感しました。今の担当作品も、そのくらいの熱量と粘り強さをもって取り組んでいるつもりで、そこは大きな収穫だったと思います。
KATARIBE Profile
瓜生恭子
アニメーションプロデューサー
うりゅうきょうこ 2008年にアニプレックス入社。宣伝部から制作部へと異動し、プロデューサーとして活躍。プロデューサーを務めた主な作品は『UniteUp!』『BANANA FISH』『SK∞ エスケーエイト』『王様ランキング』『WIND BREAKER』など。