SERIES 2021.03.16 │ 12:09

真島ヒロインタビュー②

『週刊少年マガジン』に王道のバトルファンタジーという新風を吹き込んだ『RAVE』、そして先日、11年にわたる長期連載を終えた『FAIRY TAIL』など、少年マンガの世界に確固たる足跡を残す真島ヒロ。その創作意欲とサービス精神はどこからやってくるのか?じっくりと話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

※雑誌Febri Vol.44(2017年11月発売)に掲載された記事の再掲です。

大変だったしゃべれない主人公

――その『RAVE』の連載と並行して、プルーを主人公にしたスピンアウト作『プルーの犬日記』が始まっています。
真島 詳しい経緯までは覚えていないんですが、月刊7ページなら楽勝だろうと思って引き受けた記憶があります(笑)。ただ、実際にやってみると、非常に苦労しました。しゃべれない主人公がこんなに大変だとは思わなかった(笑)。実は、その苦労があったから『FAIRY TAIL』のハッピーが生まれたんです。「とにかく次の作品の相棒キャラは、絶対によくしゃべるヤツにしよう!」と(笑)。

――プルーはそれこそ、デビュー作にも顔を出しているキャラクターですが、ルーツはどこにあるんですか?
真島 実は、自分でもよくわかっていないんです。元をたどると、中学生くらいの頃に描いた落書きから生まれたキャラなので。多分、吉田戦車先生のマンガに出てくるような、ああいう角のついたキャラが原型だと思うんですけど。

――ああ、なるほど!
真島 ギャグマンガに関しては、吉田戦車先生の影響をすごく受けていると思います。中学生くらいのときに、『週刊ビッグコミックスピリッツ』で『伝染るんです。』が連載していて。

――他に影響を受けたマンガ家というと、どなたがいますか?
真島 大きいのはやっぱり鳥山明先生とゆでたまご先生。あとは田中宏先生とか。本当にたくさんの先生方から影響を受けていると思うんですけど、プロになってからはやっぱり森川ジョージ先生ですね。中学生のときから好きで、ずっと作品を読んではいましたけど、自分とは絵柄が違いすぎたので、先生に影響を受けるとか憧れるというよりは純粋に一読者として作品を楽しんでいたんです。でも、同じ『マガジン』で連載をすることになって、ご本人にお会いするようになってから—もちろん、作品もすごいんですけど、それ以上に先生は人間としてすごい。「作家とはこうあるべき」ということを、言葉ではなく背中で教えてくれるというか。

『FAIRY TAIL』はゲームからインスパイアされた

――『RAVE』の連載を終えてから1年ほど間を空けて、2本目の長期連載『FAIRY TAIL』が始まります。いくつか候補となったネタがあったんでしょうか?
真島 ネタはたくさんありました。『RAVE』の後半から、いくつもネタを描きためていて、次はどれを描こうかなと迷うくらいだったんですけど……。何だかんだで1年間、ダラダラしちゃいましたね(笑)。

――では、『FAIRY TAIL』に決めたきっかけというと?
真島 『RAVE』の後半、決戦前に酒場で仲間たちが賑やかに盛り上がるシーンがあるんです。それを描くのがすごく楽しくて、今までにないくらいの高揚感があって。そのときに、次は酒場に仲間が集まってワイワイする作品が描きたいなと思ったんです。ただ、『RAVE』が『マガジン』流の王道のバトルファンタジーだったこともあって、それとは変えなければいけない、という意識もあった。結果、仲間が全員そろっている状態から物語が始まって、なおかつ、ひとつの職業の人たちが集まるコミュニティ――ギルドを舞台にしようと。そのふたつをコンセプトにしました。

――ギルドが中心に据えられていることもあって、ゲームっぽい雰囲気もある作品ですよね。
真島 ゲームからインスパイアされた部分は大きいですね。『RAVE』の連載が終わったあとにオンラインゲームにハマったこともあって、その楽しさをマンガに落とし込めないかな、と思って。

――内容が決まって、すぐに連載用の原稿に着手したのでしょうか?
真島 いや、これも最初は難航しました。主人公のナツという名前は決まっていたんですが、もともとは運び屋ギルドをモチーフにした設定で考えていたんです。それこそ『マッドマックス』みたいな荒廃した世界が舞台で、国と国との境界が仕切られていて、手紙や荷物が簡単には届かない。その中で、ナツたちが非合法的に運び屋の仕事をやっている、という。自分の絵柄とは全然合わないんですが(笑)、ポストアポカリプス的なストーリーだったんです。

――そうだったんですね!
真島 編集部からもゴーサインが出たんですけど、そのときに改めて自分でネームを見直してみたら「俺はこの世界に行きたくないな」と思ってしまった(笑)。で、一から作り直させてほしい、と頼み込んだんです。

――ちょっと『RAVE』の連載開始時と似たシチュエーションですね。
真島 近いですね。ただ、『FAIRY TAIL』はもっと夢のある世界が描きたくて、「運び屋ギルド」という設定を「魔法ギルド」に切り替えて。前作と被るので、作中で魔法を扱うという設定を避けていたんですけど、「魔法だけならアリだろう!」と思って(笑)。そうしたら途端に楽しくなって、次から次へと魔法やキャラクターのアイデアが湧いてくるんですよ。だったら、これでいくしかないと思って、急遽全部描き直しました。

マンガ家は読者に対するサービス業

――真島先生の作品には変身するキャラクターがよく登場しますよね。
真島 変身ものが好きなんです。困ったら変身させてしまおう、という手癖の部分もあるし、僕自身が変身に憧れているというのもある。多分、思春期に読んだ『ドラゴンボール』、中でも超サイヤ人の印象が強かったんだと思います。あらかじめ超サイヤ人という単語が作中では出てきていて、おそらく悟空が超サイヤ人なんじゃないか?って伏線も張られているんですけど、実際にそうなったときのビジュアルの衝撃といったらなかった。

――ついに、真の姿が明らかになった!という気持ちよさがありますよね。
真島 そうですね。なので『FAIRY TAIL』のエルザは、僕の変身好きからきているキャラクターなんです。

――なるほど。では最後に、真島先生が「マンガ家をやっていてよかった」と思うのはどういう瞬間ですか?
真島 よかったことはたくさんあるんですが、一番は読者から「面白い」と言われること。その瞬間のためだけに描いていると言っても過言じゃないです。自分で描き上げて満足することはあまりなくて、読者からの手紙やSNSを通して「面白かった」と言ってもらえる。そのひと言で、本当に救われます。

――単行本のカバー下にラフの絵が入っていたり、真島先生はすごくサービス精神が旺盛だなと思います。
真島 基本、マンガ家は読者に対するサービス業だと思っているんです。それは森川先生から学んだことでもあるし、若い頃から担当編集に叩き込まれてきたことでもある。最終的に真島ヒロという作家は、とにかく読者を楽しませるためだけに存在しているんだ、と。そういうところに向かっていると思います。体力が続く限り、サービスを続けていきたいですね。endmark

真島ヒロ
ましまひろ。1977年生まれ、長野県出身。98年、『MAGICIAN』で週刊少年マガジン新人漫画賞に入選。タイミングをほぼ同じくして、『マガジンFRESH』に『BAD BOYS SONG』が掲載され、マンガ家デビュー。翌年から連載が始まった『RAVE』はテレビアニメ化されるなど、大きな反響を呼ぶ。2005年からは長期連載2作目『FAIRY TAIL』がスタート。2009年には同作で講談社漫画賞の少年部門を受賞。
作品名掲載誌(掲載年)
MAGICIAN週刊少年マガジン(1998)(○)
BAD BOYS SONG週刊少年マガジン(1998)(○)
RAVE週刊少年マガジン(1999)
プルーの冒険日記(2000)(●)
MPマガジンFRESH(2000)(○)
プルーの犬日記コミックボンボン(2002)
フェアリー・テールマガジンFRESH(2002)(○)
COCONA週刊少年マガジン(2003)(○)
プルーの冒険日記Ⅱ週刊少年マガジン(2003)(○)
混合戦隊ミクスチャー週刊少年マガジン(2003)(○)
Xmas hearts週刊少年マガジン(2003)(○)
MONSTER SOULコミックボンボン(2006)
FAIRY TAIL週刊少年マガジン(2006)
モンスターハンター オラージュ月刊少年ライバル(2008)
星咬の皐月週刊少年マガジン(2014)
FAIRY TAIL ZERØ月刊 FAIRY TAIL マガジン(2015)
○:『ましまえん』に収録  ●:雑誌未掲載(単行本収録)  ※スピンオフ作品、関連書籍は割愛します