TOPICS 2022.12.09 │ 12:00

衝撃作『アキバ冥途戦争』の制作舞台裏 シリーズ構成・比企能博インタビュー①

10月より放送中のオリジナルアニメ『アキバ冥途戦争』。蓋を開ければ「メイド×任侠もの」――しかも任侠成分濃いめの、予想をはるかに上回る衝撃作が飛び出した。ここでは、第10話放送後のタイミングでシリーズ構成の比企能博に本作への思いを語ってもらった。前編は脚本会議のことや描写のバランスについて。

取材・文/細川洋平

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

メイドものの仮面をかぶった任侠もの……に見えるけど芯はメイドもの

――まずは本作に参加したきっかけを教えてください。
比企 自分が株式会社ピタという、杉浦(理史)さんが代表をしている脚本家の事務所に所属していまして、Cygamesさんと杉浦さんでアニメを作ることになって、そこに脚本家として呼んでいただきました。最初は4人でシリーズ構成を立てずに半年くらい打ち合わせをしていたんですけど、やっぱりシリーズ構成を立てようという話になって、自分を指名していただいたという流れです。

――経歴を拝見すると、TVアニメのシリーズ構成は初めてですね。
比企 そうですね。シリーズ構成もだし、TVアニメの脚本を書くのも初めてでした。だから知らないことも多くて、それを恥ずかしいと思っちゃったんですよね。プロデューサーや脚本家たちで脚本を考えていくのをアニメ業界では「ホン読み」って言うじゃないですか。僕、昔は演劇をやっていたんですけど、演劇で「ホン読み」と言ったら役者さんが来て読み合わせをすることなので「え、もう役者さん来るの!?」とドキドキして行ったんですよ。そうしたら普通にいつもの面々で……。あ、そういうことかと(笑)。

――比企さんが座組みに入ったとき、「メイド×任侠もの」という骨子はフィックスしていたんですか?
比企 そのワードだけがありました。プロデューサーの竹中(信広)さんがいちばんイメージを持っていらっしゃったのですが、最初、僕はそれがつかめなくて。脚本を書いていたのはトータルで2年半くらいなんですけど、最初の1年は竹中さんのイメージを脚本に落とし込むために作品を理解する時間、という感じでした。

――時代設定が1999年というのが印象的ですよね。
比企 世紀末の日本の感じが好きだと竹中さんがおっしゃっていて。僕は『龍が如く』(プレイステーション用ゲームシリーズ)に通じるところがあるとも思っていました。ごちゃまぜ感があって、「今と比べたらめちゃくちゃやっていたよね」という時代感ですね。とはいえ、作中の秋葉原の空気感を絵としてうまく表現できたのは、増井(壮一)監督や作画スタッフのおかげです。

――メイドと任侠のかけ合わせを、比企さんはどんな風に捉えたのですか?
比企 僕の中では全12話を通して見ると、メイドものの仮面をかぶった任侠もの……に見えるけど芯はメイドものだよ、と(笑)。ミルフィーユみたいな感じで層が重なっているイメージがあって。各話では意図的にメイドに寄っている回と任侠に寄っている回といった具合にバランスを変えていて、どちらかだけに偏(かたよ)ることはないよう意識しています。

――たしかに第9話のお萌えさま登りの回(「秋葉生態系狂騒曲! メイドの萌え登り!!」)は任侠がほとんどないです。
比企 そうですね、あれはメイドものなのかもわかんないですけど(笑)。最初は現代的なフェスの設定だったんですけど、任侠っぽいニュアンスがほしいよねということで祭りにした記憶があります。祭りだとちょっとソッチの雰囲気があったりするじゃないですか。一方で第6話(「姉妹盃に注ぐ血 赤バットの凶行」)はすごい任侠寄りになっています。

視聴者に笑ってほしいのか、シリアスに見せたいのか

――任侠ものに振る際、描写のバランスをどのように調整したんですか?
比企 難しいところですけど、暴力的な描写に関してはかなり抑えました。何よりも「これを笑ってもらえたら僕たちはうれしいです」ということが、視聴者の方に伝わるよう意識しました。とはいえ、僕は文字で脚本を書いているだけなので、それを絵で表現する増井監督がすごく気を使ってくださっています。増井監督は僕らのあとに制作に合流したんですけど、暴力描写に関して、笑ってほしいところなのかシリアスに見せたいのかは細かく擦り合せました。

――第6話でねるらが死んでしまうシーンはシリアスでせつなかったです。
比企 ですよね。第10話(「メイド心中 電気街を濡らす涙雨」)もシリアスですし。それに対して第8話の野球回(「鮮血に染まる白球 栄光は君に輝キュン♡」)は真逆ですよね。

――P.A.WORKS恒例の野球回かと思いきや「全員何考えているの?」と思いました(笑)。
比企 竹中さんが「人が死ぬ野球回をやりたい」とおっしゃって(笑)。本当は最後のほうで店長が死ぬ流れだったんです。ホン読みでみんなが店長を退場させたがっていて。でも、さすがに笑えなかったのでなくなりました。

――第8話では宇垣が死んだあともみんなが「死んでない」って言って野球を続けるじゃないですか。そこに凄みがありますよね。
比企 この作品のそういうところが好きですね。第5話(「赤に沈む! 三十六歳生誕祭!」)で、とんとことんメンバーは万年嵐子に喜んでもらうためにサプライズの準備をしていたはずだったのに、いつの間にか「節約頑張ったんだから」とか「ケーキが台無しになる」ということでメイドシープを潰しにいっちゃう。目的と手段が逆転するんですよね。endmark

比企能博
ひきよしひろ 株式会社ピタ所属。東京都出身。脚本、マンガ原作、映画監督。主な作品に『ナリカワリ』(マンガ原作)、『混血のカレコレ』(原作・YouTubeアニメ脚本)など。TVアニメの脚本・シリーズ構成は『アキバ冥途戦争』が初となる
作品情報

TVアニメ『アキバ冥途戦争』
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