TOPICS 2021.12.07 │ 12:00

蒼のカーテンコール 最終章
『ARIA The BENEDIZIONE』 総監督・佐藤順一インタビュー①

2015年より始まった『ARIA』TVアニメ10年目記念プロジェクト「蒼のカーテンコール」。その最終章『ARIA The BENEDIZIONE』が公開となった。15年を超える歴史のなかで、監督やシリーズ構成としてアニメ全作を統括してきた佐藤順一に本作の見どころや今の想いを語ってもらった。

取材・文/田中尚道

『ARIA』はいろいろな奇跡が起きる

――「蒼のカーテンコール」も『ARIA The BENEDIZIONE(以下、BENEDIZIONE』)で最終章となりますが、完成を迎えて率直な感想を聞かせてください。
佐藤 『ARIA』シリーズはもはや平常心で作り続けている感があって。今回は名取(孝浩)君に監督をまかせて『ARIA The CREPUSCOLO(以下、CREPUSCOLO)』に続いてやりきった感慨はあったのですが、「ああ、また『ARIA』の空気に触れられたな」という感覚が強いです。それも含めて『ARIA』という作品はすごいんだなと実感しています。

――「すごい」というのは具体的にどのようなことでしょう?
佐藤 最初のシリーズから好きだという方はもちろん、途中から好きになってくれた方もたくさんいて、続いていくにつれて、見る側・作る側の垣根がだんだんなくなっていっている。最初はキャストが『ARIA』を好きになり、やがてスタッフからも『ARIA』だったらやりたい、という声を聞くようになりました。冗談交じりでよく「『ARIA』はいろいろな奇跡が起きる」と言っているのですが、これが作品の持つ力なんだと思うし、だからこそこれだけ長い間続けてこられたんだろうなと思っています。

藍華の昇格シーンをいかに描くか

――前作『CREPUSCOLO』がオレンジぷらねっとのストーリーだったのに対して『BENEDIZIONE』は姫屋のストーリーでしたが、これが決まったのはどのタイミングだったのでしょうか?
佐藤 『CREPUSCOLO』の脚本が完成して、絵コンテ作業中に『BENEDIZIONE』の脚本に入ったと思います。原作の天野(こずえ)先生が『CREPUSCOLO』の原作のネームを完成されて、それから『BENEDIZIONE』のネームに着手されていたので、こちらもその流れで進行していました。ですから『CREPUSCOLO』のアニメの作業途中では、姫屋の話がどのようなものになるのかはわかりませんでした。以前から「本編では描かれなかった先輩視点の話にしたい」とはおっしゃっていて、『ARIA The AVVENIRE』ではARIAカンパニーでそれを描いたので、次はオレンジぷらねっとと姫屋でやるのだろうなと漠然と考えていましたが、基本的にはワクワクドキドキしながら待っていた感じですね。

――天野先生からのネームを見ての印象は?
佐藤 藍華の昇格シーンは過去にアニメでは少しだけ描いていたのですが、天野先生から上がってきたものがそれを詳細にした感じだったので、どうしようかなと。ふたりが最後に号泣するところはアニメのシーンに合わせてくださっていたので、それをどうやって『BENEDIZIONE』のストーリーに組み込んで成立させるかが最初の関門でした。

個人的に気に入っている晃のシーン

――昇格試験は晃と藍華の追いかけっこでしたが、アニメーションに落とし込むうえで難しい点などはありましたか?
佐藤 画作りに関しては、名取監督がとにかく苦労していましたね。ストーリーや演出的には、追いかけっこが決着する夜明けまでに、お互いがどんな想いを抱いているか。それを表現するためにどんな回想を入れるべきか。そして、そこにどういう音楽を入れるかが勝負どころだと思っていました。映像はアクティブなのですが、音楽は藍華と晃の師弟関係を彩るような温かい曲が流れています。

――他に印象的なシーンはどこでしょうか?
佐藤 藍華が最後に「自分が目指したのは晃さんです」と言ったときに、晃がクイーン(愛麗=藍華の母)にお礼を言うのですが、そこがとくに印象に残っています。晃のセリフは脚本にはなくて、絵コンテの段階で出てきたものなんです。そのシーンで晃がふいに素直な気持ちを語った感じで、個人的にもしっくりきて気に入っています。こういうことは『ARIA』だとよくあるんです。たとえば、『ARIA The ORIGINATION』の最終回で引退するアリシアが降りたゴンドラを見ているときに、グランマ(天地秋乃)に「プリマ昇格おめでとう、アリシア」と言われたことを回想するシーンがあるのですが、あれもコンテを描いているときにふわっとグランマが出てきてアリシアに言葉を贈ってくれたんです。あの感覚に近かったですね。

16年の間に変わったもの、変わらないもの

――TVアニメ1stシーズン『ARIA The ANIMATION』から16年が経ちますが、制作上で変わったこと、あるいは変わらないことは何でしょうか?
佐藤 技術的にはゴンドラが手描きでなくてもよくなったことが大きいです。いろいろな角度に自由に動かせる。ゴンドラは形状が複雑なので、初期はどうしてもアングルや動かし方に制限があったのですが、それが立体感のあるかたちで描けるようになったのは技術の進歩のおかげですね。空気感を含めた街の風景などにも同じようなことが言えて、昔は限られた資料から想像しながら描いていたのですが、今では名取監督がネットを駆使して訪れたことのない街を描いている。これも16年前にはまったく想像もできなかったことです。一方で1stシーズンに関わっていたスタッフたちが『BENEDIZIONE』でも「やりたいです」と集まってくれました。この熱意はずっと変わらないものでしたね。endmark

佐藤順一
さとうじゅんいち 1981年、東映動画に入社。1983年『ベムベムハンターこてんぐテン丸』で演出家デビュー。『メイプルタウン物語』『悪魔くん』『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』でシリーズディレクターを手がけ、フリーランスとなってからは『カレイドスター』(原案・監督)、『ケロロ軍曹』(総監督)、『たまゆら~hitotose~』(原作・監督)などの作品を世に送り出している。
後編は12月9日掲載
作品情報

『ARIA The BENEDIZIONE』
絶賛公開中

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