母親から「一護は絶対にかっこよく描け」と脅されました(笑)
――マンガの『BLEACH』はリアルタイムで読んでいたそうですね。
田口 そうですね。当時は「週刊少年ジャンプ」を毎週読んでいたので、お気に入りのマンガのひとつでした。お洒落でハイセンスと形容されることの多い作品ですが、僕も同じ印象でした。とにかくキャラクターもストーリーもいい意味で尖っていて、他のジャンプマンガとは少し違う雰囲気を感じて、そこがすごく好きでした。当時単行本も買っていましたね。
――今回『BLEACH 千年血戦篇(以下、千年血戦篇)』の監督に決まったときはどんな気持ちでしたか?
田口 ファンの熱量が高い作品ですから、もちろんプレッシャーはありました。いちばん身近なところでいえば、僕の母親が大ファンで、監督に決まったことを伝えるやいなや「一護だけはカッコよく描かないと許さないからね!」と脅されました(笑)。近年のジャンプアニメはどれもレベルが高いですし、『千年血戦篇』もそれと並ぶクオリティを目指さないとファンの方に納得してもらえないだろうという感覚があったので覚悟を決めて挑みました。
原作の感動をアニメでも最大限に感じられるように
――田口監督の中で、ビジュアルやルックの方向性には明確なものがあったのでしょうか?
田口 はっきりとビジョンが浮かんでいたわけではないのですが、方向性としてはこれまでに自分が手がけてきた作品の延長線上にある気がしていましたし、この10年で撮影技術や3D技術もかなり進歩してきたなという感覚があって。『BLEACH』はそういう尖った演出を許容してくれる器の大きさがあるので、そこは挑戦しがいがあるなと思いました。
――実際、ハイクオリティーな映像と斬新な演出が組み合わさって、想像以上に尖ったアニメになりましたね。
田口 ありがとうございます。でも、これは僕の映像センスというわけではなくて、あくまで原作が持っている魅力だと思います。マンガを読み進めながら感じた「なにこれ、超カッコいいじゃん!」という気持ちをアニメーションとして最大限に引き出すことに専念しました。
――たしかに、どんなに尖った演出もベースには『BLEACH』らしさがあって、そこは原作準拠な感覚があります。
田口 そう感じていただけたなら、僕としてはいちばんうれしいです。たとえば、第7話で一護が朽木白哉から「尸魂界(ソウル・ソサエティ)を護ってくれ」と言われた際、一護の身体に降りかかる雨が蒸発して水蒸気になる演出がありますが、あれはアニメオリジナルなんです。シーンそのものは原作に準じているんですけど、ああいうワンポイントが入ることでグッと引き締まるというか、一気に雰囲気が出るんですよね。久保先生の繊細な筆致や描線は、どう頑張ってもアニメで完全に再現することはできないのですが、代わりにそういう演出を加えることによって、原作を読んでいた際の印象がふっとよみがえってくる気がするんです。
――なるほど。コアなファンに刺さる演出が盛りだくさんな一方、アイキャッチの用語解説など、初心者にも配慮が見られますね。
田口 これはプロデューサーからの提案です。前のTVシリーズから10年が経っていますから、ここから新たに『BLEACH』の世界へと入ってくる視聴者もいることを考えつつも、丁寧に本編内で用語を説明するとテンポ感を損なってしまう可能性があります。そのバランスを考慮した結果、今回のTVシリーズでは難しい説明セリフは最小限に絞って、そのあたりはアイキャッチや公式サイトでフォローする方針を取っています。
卍解の詳細は久保先生が直々に解説
――さらに要所にはアニメオリジナルのシーンもありました。原作者の久保帯人先生とはどのようなやり取りをしたのですか?
田口 最初は緊張しました。多少なりとも原作に手を加えることになるので、久保(帯人)先生にどう思われるかな?というのがいちばんの心配事でした。ぶっちゃけて言えば「怒られたらどうしよう?」と(笑)。幸いにも久保先生はすごく気さくな方で、こちらの要望に対しても前向きに協力していただけることになって、そこは安心しましたね。
――具体的にはどんなところで協力してもらったのですか?
田口 原作と異なる部分はもちろんですが、原作通りに描く場合であっても、セリフや設定などいろいろとご協力いただいています。というのも、マンガでは違和感なく成立していても、アニメにする際には「これってどうなっているの?」と思うところがどうしてもあるんですよね。たとえば、第10話で描かれた卯ノ花烈の卍解「皆尽(みなづき)」は、原作ではその能力や効果が細かく描かれていなかったりするんですよ。でも、剣八との戦いをちゃんと描くためにはどうしても必要ですから、あらためて久保先生から細かい設定を教えてもらいました。他にも、今後登場する阿散井恋次の卍解「双王蛇尾丸」のビジュアルについてもどういう構造になっているのかがわからなかったので、久保先生に伺ったら「こんな感じです」と解説してくださいました。さらには動きのイメージまで説明してくださるなど、至れり尽くせりでありがたかったです。
- 田口智久
- たぐちともひさ 1985年生まれ、岡山県出身。大学卒業後、アニメインターナショナルカンパニーで制作アシスタントを務める。2014年、『Persona4 the Golden ANIMATION』にて監督デビュー。主な監督作品は『双星の陰陽師』『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』『アクダマドライブ』など。