『ANEMOME』で『エウレカセブン』の世界線をすべて許容する作品になった
――いよいよ公開が目前に迫った『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション(以下、EUREKA)』。渡辺さんは最初のTVシリーズにも、制作デスクとして参加していますね。
渡辺 2005年放送開始だから、もう16年前ですね。今回の『EUREKA』で『ハイエボリューション』シリーズは完結を迎えますし、だからこそいいものを作らねばという気持ちもあります。ただ、僕にとっては2作目(『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』)が大きかったんですよ。というのも2作目の段階で『EUREKA』は、これまでの『エウレカセブン』――最初のTVシリーズはもちろん、そのあとの劇場版『ポケットが虹でいっぱい』や『エウレカセブンAO』の世界線をすべて許容する作品になったんです。ちょっとMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)的というか、この世界線の“エウレカ”はこうだけど、別の世界線ではまた別のありようをしている。それらをすべて包括する世界観になったんですね。
――いくつも並行世界が存在することを許容する、そういう世界観になった。
渡辺 なので、京田(知己)監督をはじめ、今、制作しているチームとしては、今回の『EUREKA』でひと区切り。もし、次を作ることがあれば、新しい人たちにバトンを渡せて『エウレカ』と名前がつけば『エウレカ』になるような、そういう結末が迎えられたらな、と。僕個人としては、勝手にそんなふうに思っています。
京田監督がやりたいことを全部作品に落とし込んでほしかった
――少し1作目(『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』)のことを聞きたいのですが、どういう経緯で携わることになったのですか?
渡辺 ボンズには何人かプロデューサーがいるのですが、自分から「やります」と手を挙げました。というのも、他の現場のプロデューサーはみんな僕より若くて、ロボットアニメで育ってきたのは僕だけなんですね。そういう意味では、自分がいちばん合っているのかなと感じていましたし、もし、またロボットでエンターテイメント系の作品ができるのならやりたいな、と。
――そこから実際に制作が始まって、渡辺さんとしてはどんな思いで取り組んでいたのでしょうか?
渡辺 これはどの作品でもそうなのですが、監督の「今回はこういうふうにしたい」という思いや、ひらめきを尊重したいと思っているんです。とくにこの『エウレカセブン』は、最初のTVシリーズを合議制で作っていて――言い換えると船頭が多い現場だったので、次々と出てくるまわりの意見に対して、京田監督がいつも頭を抱えながら作っていた印象が強いんです。その感じは続く劇場版『ポケットが虹でいっぱい』のときにも少しありましたし、『エウレカセブンAO』のときもあった気がします。それが『ハイエボリューション』になって、ようやくまわりからのオーダーがなくなり、京田さんのやりたいことができるようになった、という印象があったんですね。だから、これまでやりたいのにできなかったことや新しく思いついたこと、制作していてひらめいたことを全部作品に落とし込んでほしい。そこはプロデューサーとして感じていました。
能力がなくなって、普通の人間として生きるエウレカが描かれる
――なるほど。今回の『EUREKA』はタイトル通り、ヒロインのエウレカが主人公として登場するわけですが、渡辺さんから見た彼女の魅力は何でしょうか?
渡辺 これはTVシリーズのプリプロをやっていたときの話なんですけど、デザイナーが集まって「ああでもない、こうでもない」とやっているなかで、キャラクターデザインの吉田(健一)さんからデザイン画が出てきたんです。そのときは本当にびっくりしました。水色の髪でショートカットの女の子って、それまでそんなに見たことがなかったし、やっぱり吉田さんはスゴいな、と。
――まずルックスの新鮮さに惹かれたわけですね。
渡辺 そうですね。最初はルックスに衝撃を受けたというか、すごく感動しました。エウレカは、最初のTVシリーズでもしょっちゅうルックスが変わるじゃないですか。初めて出てきたときのピチッとしたルックスもあれば、スカブコーラルが剥き出しになったり、あるいはスカブに吸収されたときには眉毛がなくなっちゃったり……。あらゆることを物語に強いられるキャラクターなんです。そういう意味で「次は何をやらされるんだろう?」という不安は毎回ありました。
――『エウレカセブン』に出てくるキャラクターの中でも、生々しさをいちばん背負っているのがエウレカなのかなと思います。
渡辺 そうですね。性格的な部分は、京田監督も「いちばん難しかった」とおっしゃっていました。もともとスカブコーラルと人間がコミュニケーションを図るための仲介役みたいな役割があって、物語が進むにつれてどんどん人間らしさを要求されていく。なので、大変な運命を背負ったキャラクターだなと思うんですけれども、ただ今回の『EUREKA』では、ついにその能力がなくなって、普通の人間として生きているエウレカが描かれる。キャラクターデザインも奥村(正志)さんに代わって、他の人間と同じように歳を取っていくところから、またちょっと新しいエウレカ像を描けているのかな、と思います。
- 渡辺マコト
- 1971年生まれ。東京都出身。アニメプロデューサー。サンライズを経て、ボンズに入社。これまで手がけてきた主な作品に『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』3部作、『亡念のザムド』『トワノクオン』などがある。