TOPICS 2022.02.03 │ 12:00

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身近になった「未来の宇宙」を軽やかに描く『地球外少年少女』

まだ目新しかったAR(拡張現実)技術を大胆に作中に採り入れ、話題を呼んだ『電脳コイル』。そんな意欲作を手がけた磯光雄監督の新作が、現在2週間限定上映&全世界配信中。「民間による宇宙開発」が進んだ2045年の近未来を舞台に、少年少女たちが未曾有の危機に立ち向かう。ユニークな未来描写と骨太なストーリー展開に注目の一作だ。

文/宮 昌太朗

身近になった「未来の宇宙」を軽やかに描く

イーロン・マスクやジェフ・ベゾスが民間による宇宙船を打ち上げるなど、近年、注目を集める「宇宙の商業利用」。その影響もあるのだろうか、2010年代に入ってから、それまでのSF映画とは毛色の異なる「宇宙映画」がいくつも公開されるようになってきた。火星に取り残された宇宙飛行士が孤軍奮闘するマット・デイモン主演の『オデッセイ』、宇宙での船外活動中にデブリに襲われた宇宙飛行士が、地球への帰還を目指す『ゼロ・グラヴィティ』あたりが代表格だろうか。いずれも、宇宙飛行が身近になった世界を舞台に、ある種のリアリティを持って、危機と対峙する人々を描いているのが特徴だ。

そしてこの『地球外少年少女』もまた、そんな「新しい宇宙映画」の流れに乗りつつ、磯光雄監督らしい奔放なイマジネーションと、ヒネリの効いた作劇が楽しい一作だ。

舞台は人類が宇宙進出を果たした2045年。物語は、人類で初めて月で生まれた子供たち――相模登矢(さがみ・とうや)と七瀬・Б・心葉(ななせ・べー・このは)が暮らす商業ステーション「あんしん」に、宇宙体験キャンペーンに当選した美笹美衣奈(みささ・みいな)たちがやって来る場面から幕を開ける。

すでに全話配信が始まっているが(前後編に分け2週間限定で劇場でも上映中)、まずはその細やかなディテールの積み重ねに舌を巻く。冒頭、ベッドらしきところから起き上がった途端に、よろけそうになる登矢。もともと月生まれで、無重力状態が普通の登矢にとっては、重力のある環境のほうが不慣れ。わずかな描写で「未来」の空気を感じさせる演出が面白い。

そうかと思うと、美衣奈たちが宇宙船の窓から眺める「あんしん」の外観も強烈だ。スポンサーである服飾メーカーのロゴマークが外壁に大きく掲げられ、巨大なカニの看板が器用に手足を動かす。企業の宇宙進出が「広告」という形で表現されているわけだが、そのどこか間抜け(だけど、現実にもありそう)な見せ方もうまい。この他、登矢や美衣奈たちが使う携帯端末・スマート(手のひらや甲にコンピュータの画面を投影する仕組み)など、ありうる(かもしれない)未来の姿を描き出す描写の数々。その「近未来の宇宙」の姿に心惹かれる。

もちろん、本作はそんな「楽しく愉快な未来の宇宙」を描くだけの作品ではない。宇宙ステーションに急接近する彗星。降り注ぐ隕石によって、登矢や美衣奈たちは生命の危機にさらされることになる。次々と襲いかかるトラブルを、いかにして登矢たちは乗り越えていくのか。手に汗を握るスリリングな展開と、危機的な状況で培われていく子供たちの絆。堂々とした筋運びがなにより楽しい。

しかも物語は、宇宙ステーションからの脱出劇だけでは終わらない。後半では物語はここから大きく展開し、思いがけない飛躍を見せることになる。その鍵を握るのは、登矢たちの冒険を陰で支えるAI群。……なのだが、この先は実際に見てのお楽しみ。まずは今、上映されている前半部をご覧いただければと思う。endmark

書籍情報

『地球外少年少女プロダクションノート』

原作・脚本・監督を務める磯光雄氏の書く初期シナリオ案や企画段階で制作されたアイデアスケッチの数々、本編では描かれなかった幻の設定などを収録予定。『地球外少年少女』の圧倒的な世界がどのように作られたのかを徹底検証した一冊です!!

A4変形判/192ページ/定価3,900円(本価3,545円+税10%)
2022年8月31日(水)発売

好評発売中

  • © MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会