「仁菜って、あなたそのものだよね」と言われてしまった
――前回(第1回)のインタビューからの続きとなりますが、当初、新メンバーのふたりが動き出す予定だった第4話をまるまる使って、花田さんが仁菜を説得する必要があったわけですね。
花田 第4話は安和すばるがメインのエピソードでしたが、「こいつ(仁菜)には『自分の思っていることがすべて正解じゃないんだぞ』と思わせないとダメだな……」と思いながら書いていましたね。そのあとの第5話でようやく前向きになってくれて「仁菜、お前ひとりに5話も使っちゃったよ……」というのが、そこまで書き上げたときの心の底からの感想でした。視聴者の皆さんもおっしゃっていましたけど、「メンバーが全員揃うのが第6話じゃ遅いよ!」と自分でもツッコんでいました(笑)。
――井芹仁菜というのはそのくらい破格のキャラクターだった。書いている人ですら説得するのが大変って、よっぽどですよね。
花田 でも、吉野弘幸さんと第2話か3話まで放送したくらいのタイミングで会ったときに、開口いちばん「『ガルクラ』見てるよ。仁菜って、あなたそのものだよね」と言われたんですよ(笑)。僕はその認識が全然なかったんだけど(笑)。でも、それを言われて仁菜が面倒くさい理由がなんとなくわかりました。俺だからか、と(笑)。
――あはは……。
花田 ある意味、この作品を書きながら、延々と自分との対話をしていたのかもしれないですね。でも、「こいつ、面倒くさいヤツだけど、飽きないなぁ」というか、今までに書いたことがない主人公なので楽しい感触がとても強くあったんです。とくに第2話を書いたときにそう感じたのと、次の第3話で桃香がライブの直前に言う「お前は成功しようが失敗しようが、どっちにしろ後悔する」というセリフ。あのセリフを書いたときに「このキャラクターはこれだ!」とつかめて、その先のストーリーを書いていく勢いがついた。そうした体験もあったので、仁菜のキャラクター性へのこだわりが強かったのかもしれないです。
「学校じゃないところでの話を作りたい」と思っていた
――桃香についても聞かせてください。彼女のキャラクターはどこから生まれたんですか?
花田 桃香は「自分と同じ精神性を持っているんだけど、自分より前を歩いていて、先に挫折を経験してしまった人」を主人公に対して置きたい、という意図で設定したキャラクターです。仁菜から見て、現実を知っている人、大人の世界を知っている人であることを、書くときはつねに意識していましたね。これも、最初からこの作品でやりたいことのひとつだったんです。「学校じゃないところでの話を作りたいな」と。
――ああ、学生と社会人の差ですか。
花田 ずっと学校が舞台の話を書き続けていましたからね。主人公が学校から飛び出したことで、学校ではない、社会をちゃんと知っている人と初めて接する……そこは仁菜と桃香を書くうえでずっと意識していました。改稿を重ねるうちにけっこう削ってしまったんですけど、桃香がバイトに行ったり、ご飯を奢ってくれたり、そういうところで仁菜がその差をたびたび感じる瞬間を入れていたんです。それで「桃香さんから見たら私たちって仲間に見えていないんじゃないか? 子供に見えているんじゃないか?」と仁菜が意識して「やっぱり大人ってすごいな」と思わざるを得なくなる。こういう話も、いつかどこかで書きたいとずっと思っていたんです。
――そこにも強い思いが込められていたんですね。
花田 ただ、その一方で桃香自身の中には当然、葛藤もある。挫折を経験して「現実はそんなに甘くないぞ」とわかったうえで「どうにかしなきゃ」ともがいている20才そこそこの女の子でもある……それが第8話で浮き彫りになるのですが、あの展開も、脚本を書き始めた頃からぼんやりと考えていました。上京してすぐの頃の無敵感というか「頑張ればどうにかなる」と思えている仁菜に対して「そんな簡単じゃない」とずっと不安を抱えている子として描きたかった。ダイヤモンドダスト(ダイダス)というガールズバンドがあって、仁菜が彼女たちのファンだったという設定を作ったのが、順番としてはあとでしたね。
――第8話で仁菜が桃香を説得する際の「私を言い訳にするな」というロジックがとても好きなんですが、ふたりの関係性を決めた時点で、ああいうやりとりがどこかに入るとイメージしていたのでしょうか? それとも、脚本を書くうちに膨らんだ要素なのでしょうか?
花田 脚本を書く際は「ハコ書き(脚本のシーンごとの要素や展開をまとめたもの)」を作るんですが、僕の場合、会話に関してはそこで先に書いちゃうと、絶対に面白くならないんですよ。だからあまり決めないで書いていくことが多いんですけど、ストーリー的に、とにかく桃香に対して仁菜が「私がいるんだから、その初期衝動で行けよ!」とひたすら迫るかたちにしようとは決めていました。「本当にお前、あきらめるのかよ!」と突きつけられる話にしよう、と。「かわいいな〜」と思って仁菜に接していたら、思った以上にグイグイきて、近づけば近づくほどに面倒くさい……漠然としたイメージはそんなものでした(笑)。面倒くさいというか、自分の中で曖昧にして隠している部分をとにかく覗こうとしてくる、みたいな。
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