「見えないもの」を表現する一貫としてのイメージショット
――仁菜の「トゲ」や、第2話の空を飛ぶ鳥のイメージをはじめ、象徴的なイメージショットを重ねていくのも酒井さんの演出スタイルの特徴ではないかと感じます。
酒井 そのあたりは大それたものではなく、全部「気持ち」です。キャラクターの心情……「見えないもの」を表現するためになんとか工夫した結果、出てきたものですね。ただ、表現の仕方やリアリティラインをどこに置くかは結構考えました。何も考えずにやると昔のドタバタものみたいになってしまうし、かといってリアルにこだわりすぎるとカチカチのつまらない感じになってしまう。とくに悩んだのは、第4話で桃香がすばるに肘打ちをくらって一時的に幽霊になるところ。やったあとに「これはちょっと古い表現で違うかもしれん」と思いながらも、まあ、いいか、と(笑)。あそこは実験的に、この表現が今の視聴者の皆さんに受け入れられるのかどうかを見るために、あえてやってみました。
――「見えないもの」を見えるようにする、そのイメージの広げ方はどういう風に着想していくのでしょうか? たとえば、第2話の鳥は、最終的に第11話のライブシーンで合流していく5羽の鳥に結実していきますよね。
酒井 絵コンテを描く際、まず僕はラフを全部描くんです。その段階で花田さんの脚本の意図が、アニメーションの画面としてちゃんと伝わっているかを見る。そこで「ここはちょっと現実に落ちすぎているな」と思ったら、イメージ的な要素を入れていきます。第2話のあそこは、桃香は孤高の鳥だから、どこにも巣がなくてひとりで飛んでいる……という連想から生まれた表現でしたね。塀内夏子先生の『フィフティーン・ラブ』(発表当時のペンネームは塀内真人)というテニスマンガが好きだったんですけど、その中に「鷹はひとりで飛ぶ」という表現があったのをずっとおぼえていて、それが元になっています。孤高の鳥だった桃香に、最終的には仲間が合流して、群れになった……という流れですが、このあたりは本当に脚本から受け取ったイメージを飛躍させていっただけです。イメージを広げやすかったという意味でも、今回、脚本が面白くて、とても助かったなと思っています。
「キャラクター感」あっての「かわいさ」
――花田さんがSNSで「第7話のルパのヒップアタックは脚本ではケンカキックだった」と書いていましたが、脚本から表現を変える際にはどんなことを考えるのでしょうか?
酒井 さっきも説明したように、まず絵コンテのラフを描いて、それを見ながら「もうちょっとここはいける」と感じた部分に、脚本の流れから逸脱しない範囲でドラマに強弱をつけて手を入れていくのですが、第7話のあそこは「ケンカキック」だと映像としてかなり暴力的かなと思ったんです。ルパもかわいくないしな、と。
――キャラクターの印象を「かわいく」する一貫だったんですね。他にはどんなところを変えていたのでしょう?
酒井 各話ともそのまんま、という場面はじつはほとんどないんですが、なんといっても第1話の「とってもおいしかったです。ありがとうございました!」(と言って中指を立てる仁菜)ですよ(笑)。もちろん、脚本あっての表現ではあるものの、あそこは味付けというか、演出的にかなり盛りました(笑)。
――あはは。それにしても、前回から繰り返し語られている「かわいさ」について、酒井さんの中で何が「かわいい」につながるのかを、あらためて聞いてみたいです。「こういう仕草を描くとかわいく見える」といった方針のようなものはあるのでしょうか?
酒井 そうですね……たとえば、手描きアニメだと、アニメーターが「俺は絵がうまい」と見せつけるような描き方をしてくることもあるんです。そういった場合、クオリティが高くても、キャラクターのかわいさを見せる上では邪魔になることがある。たとえ画としてのレベルを落とすことになっても、キャラクターの仕草は、その子らしいものの枠の中に収めたいという意識はあります。あくまで「キャラクター感」あっての「かわいさ」で、そのあたりはこだわっているかもしれません。たとえば、桃香はよくガニ股で座っているけど、どの子がどんなカットでもそうやって座っていいわけじゃない。そういう細かい仕草は、キャラクター性を見ながらしっかりチェックしています。
- 酒井和男
- さかいかずお 1972年生まれ。熊本県出身。アニメーターを経て演出家となり、2007年に『ムシウタ』で初監督を務める。主な参加作品に『ラブライブ!サンシャイン!!』(監督)、『機動戦士ガンダムAGE』(助監督)、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(絵コンテ)など。
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