TOPICS 2024.09.30 │ 12:00

シリーズディレクター・酒井和男が振り返る
『ガールズバンドクライ』の画づくり①

TVアニメ『ガールズバンドクライ(以下、ガルクラ)』のキーパーソンへのロングインタビュー企画。先月公開した花田十輝に続いて、今回はシリーズディレクター・酒井和男に、フル3DCG作品として野心的な内容となった本作の制作舞台裏を尋ねる。初回は企画の立ち上げから、映像の大きな方向性を決めるまでの苦闘について。なお、取材にはプロデューサーの平山理志も同席し、補足的に発言してもらった。

取材・文/前田 久

目に見えないものをちゃんと描きたい

――平山プロデューサーから企画の打診があったとき、まずどのようなお話があったのでしょうか?
酒井 現在の「時代性」も含めて、ひとつの「ものの見方」のようなものを今を生きる子たちに示したい。そこに対して、アニメーションでできることがあるんじゃないのか……という話を平山さんから最初に聞きました。だから、まずはそのテーマに沿って、(シリーズ構成の)花田(十輝)さんも交えた3人でブレストをやっていこうか……という感じでしたね。

――平山プロデューサーは他の取材で「2022年の東京オリンピックのあとの放送になるので、世の中が暗い方向に向かっているかもしれないと考えていた」と話していますが、そこについてはどのように考えていましたか?
酒井 平山さん、花田さんとご一緒した前作(『ラブライブ!サンシャイン!!』)よりはリアリティに重きを置いて企画を進めていこうか、とは話していました。今もそうかもしれませんが、企画を練り始めた頃はファンタジーものが流行っていたり、現代を舞台にしたものでも、地面から何センチか浮いているようなストーリーが好まれる風潮があったんです。でも、この企画ではもう少しどっしりと構えた、人間の芯を食うようなストーリーが作れるんじゃないか?という漠然とした可能性を感じたんですよね。

――酒井さんの作家性のベースは「地面から何センチか浮いている」ような作品と、『ガルクラ』のような地に足のついた作品の、どちらに近いのでしょうか?
酒井 基本的に、企画に好き嫌いはまったくないです。ファンタジーであっても「地面から浮いている」ような現代劇であっても、監督することはできます。自分は作家性で売っているわけではない、職業演出タイプだと思っているので。でも、そうした仕事の中でも、自然と出てくる自分の個性というのは絶対ありますよね。

――具体的にどんな部分でしょうか?
酒井 「目に見えないものをちゃんと描きたい」、そうした思いがずっとあるんです。たとえば、「この子はコーヒーが嫌い」という設定があるとするじゃないですか。それが「嫌いだったけど、飲めるようになった」とか「このときだけは飲めた」みたいな、変化やある瞬間の意外な行動にキャラクターの息吹があると感じるんですよね。……要するに、キャラクターを「お人形」にしたくないんです。それぞれに人生がちゃんとあって、画面に登場していないときでも、意思を持って動いているように描きたい。そのあたりは平山さんも同じで、前々からウマが合うと感じていました。キャラクターがどういう場所に立って、何を判断して、何をするのか。そうしたものの積み重ねを通じて、ひとつの人生を作品の中に見ることが僕は好きだし、演出としても、そういうことを描くのが本分なのかなと思いますね。

「3Dでドラマを作ることができるのか?」という問題

――企画の内容を固めていく過程では、どのような話し合いがあったのでしょうか?
酒井 テーマは変わっていないんですけど、最初のうちは『ガルクラ』とはまったく違うかたちの別のお話で呼ばれていたんです。フル3Dでやることだけは決まっていて、そこは絶対に曲げないと決めた上で、半年くらい別の企画が走っていました。でも、結論としては「面白いかもしれないけれど、最初の目論見とこれはやっぱり違うんじゃないか」と。そこで停滞しそうになったところで、花田さんから「上京してくる女の子を主人公にしたバンドもの」というご提案をいただいたんですが、じつは最初、僕と平山さんは二の足を踏んだんです。

――なぜでしょう?
酒井 最初に構想していたお話は、VRに関連した設定があったりしてSFチックなものだったんです。そういう要素は、3Dで作る上でストロングポイントになるじゃないですか。それが「バンドもの」になると別で、「芝居」と「ドラマ」をやらなきゃいけない。3Dでドラマができるのか。これが花田さんから提案があったとき、僕の喉元に突きつけられた最大の問題でした。ロボットに乗ったり、宇宙空間に飛び立っていくような企画と、地に足をつけて、キャラクターが泣いたり笑ったりして、ライブをやって、音楽で問題を解消していく企画では、求められるものが違うんです。

――3DCGで制作する利点があるかどうかわからない、と。
酒井 そうです。でも、フル3Dでやることだけは、企画の前提として変えるつもりはなかった。だから、これは挑戦でした。どう作ったらお客さんが喜んでくれるものになるのか、未知数だったんです。でも、最終的には平山さんが「やったことのない、見たことないものだからこそ、面白いんじゃないか」とゴーを出した。そうなったからには、いいものになると確信できるまで脚本を練るしかない。そうやってどんどん直していくうちに、面白いアイデアもいっぱい出てきて、今のかたちに落ち着いたという印象です。この作品ができたのは「あきらめなかったこと」がいちばん大きかったんじゃないかなと思います。

作品情報


TVアニメ『ガールズバンドクライ』 Vol.5<豪華限定版>
[品番]
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UMBK-9316(DVD+CD)
[価格]
¥8,800(Blu-ray+CD)
¥7,700(DVD+CD)
[発売日]
2024年10月30日


トゲナシトゲアリ 3rd ONE-MAN LIVE『咆哮の奏』

[開催日時]
2024年11月2日(土) 開場17:00/開演18:00

[会場]
TOKYO DOME CITY HALL

[ライブ・チケット詳細]
https://girls-band-cry.com/live/post-4.html

 

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