TOPICS 2021.04.22 │ 12:00

孤独を感じたときに読むマンガ① 夜とコンクリート

孤独を感じたとき――
あなたは何をするだろうか。
孤独であることをさびしく思い、
自嘲したり、自問するかもしれない。
もしくは、たまにはとその感覚に浸り、
普段は読まない本を手に取ったり、
ラジオをつけたりするのかもしれない。

第1回は町田 洋による『夜とコンクリート』

文/岡本大介 リード/編集部 バナービジュアル/ななうえ

大人はみな「孤独の賜物」なのかもしれない

日常生活が激変して一年以上が経つ。外出を控え、密を避け、人と会わずにひたすらテレワーク。最初こそ寂しさをおぼえたものだが、今や「こんな生活も悪くないな」と感じている自分がいる。飛沫の飛び交う狭い居酒屋で、最後に友人と飲み交わしたのはいつだったか、もはや思い出せないが、まあいいか。時間のロスも人間関係のわずらわしさも減った気がするし、すごく自由な気がするから……。

今回紹介する『夜とコンクリート』は、そんな「孤独に慣れてしまった」あなたに贈りたい作品。きっと「孤独」についてあらためて考えるきっかけを与えてくれるだろう。本作は表題作「夜とコンクリート」を含む4編の読み切りエピソードが収録された短編集。擬音やトーン、効果線といったマンガ的技法をほとんど使わず、シンプルなコマ割りとミニマムな線で描かれており、その世界は静謐そのもの。2014年に刊行された作品だが、仮にこれが1950年の作品と言われても、あるいは2021年の作品だと言われても納得してしまう、時代性を感じさせない不思議な趣きがある。背景やキャラクターも同様で、まるで心象風景を幾何学的アプローチによって図像化しているかのような感覚があり、それは作者が抱えている孤独感そのものなのかもしれない。

夜とコンクリート(p.120)

4編はすべて「自分と他者との隔絶」をテーマに描かれており、主人公たちはそれに抗ったり、受け入れたりしつつ未来へと歩を進めていく。たとえば、『夜とコンクリート』の主人公は建築士。同僚との交流はなく、ひとりを好む性格で、仕事へのたいした不満もない。それゆえ、自分ではストレスフリーな生活を送っているつもりだが、どういうわけか原因不明の不眠症に悩まされている。そんなとき、「建物の声を聞くことができる」と話す不思議な男と出会う。男の話を信じるわけではないが、「建物も眠る」と聞いて夜明け前のベランダに出ると、たしかに建物が眠っているように感じ、すると自分自身もぐっすり眠ることができた、というもの。なんということはないストーリーではあるが、これは誰しも心の奥底に秘めている感情ではないか。仕事も家庭も順調で、さしたる不満はないものの、どこか満たされない想いが積もっていく。これはもしかしたら、無意識下で感じている「孤独感」が原因かもしれない。主人公の場合、自身と社会のつながりを感じられずにおり、それが不眠症という形で表れていた。だが、自分が設計した建物たちがしゃべり、夜更けには眠りにつくという感覚を得たことで社会とのつながりを実感し、眠ることができたのだ。実際にヒトは、孤独を感じることであらゆる疾患のリスクが高まることが証明されている。新生活にすっかり「慣れた」と思い込んでいる私たちも、そのじつ、無意識にストレスを溜め込んでいる可能性は十分にある。孤独というものには、決して慣れてはいけないのだ。

夜とコンクリート(p.18)

また、このほかのエピソードでも、SFやファンタジーを交えながら主人公たちはさまざまな形で「孤独」と向き合う。自分も世界も、変わらないものなんてないことに気づくことを「成長」と呼ぶのならば、人はみな孤独であるという事実を受け入れることが「大人」であり、それでもなお、他者とのつながりを求め続けることが「人間」なのだと、作者自身がこれでもかと叫んでいるようにも思える。それは絶望か、あるいは歓喜か。極限まで無駄を削ぎ落とした絵だからこそ、ピュアなメッセージとなって伝わってくるはずだ。

ちなみに町田洋の最新作は2020年6月に公開された『船場センタービルの漫画』。これを原作とした短編アニメーション『忘れたフリをして』のどちらもWebで公開されているので、強くオススメしたい。町田洋の世界観に触れ、お気に召したなら、ぜひ『夜とコンクリート』もお試しあれ。endmark

書籍情報

夜とコンクリート
著/町田 洋
発行/祥伝社

  • ©町田洋/祥伝社