TOPICS 2023.10.30 │ 18:00

イラストレーター・LAM×Febri オリジナル企画
太陽に仕える12人の星娘たち

Febriでは、大人気イラストレーターLAMによる描き下ろしイラストを毎月お届けするオリジナル企画を連載中。テーマは、太陽系の惑星をモチーフにした「星娘(ほしむすめ)」。これまでに6枚のビジュアルを描いてきたLAMに、テーマに対するアプローチや、それぞれの「星娘」に込めた想いを聞いた。

取材・文/編集部

連載は2023年4月からスタート。これまでに水星、火星、地球、月、火星を描き、今月は木星を掲載中。インタビューは木星制作前に行われたため、火星までの5人の「星娘」について聞いている。

神秘的なものへの知的好奇心から生まれた「星娘」

――「太陽に仕える12人の星娘たち」の連載ですが、2023年9月に公開した「火星」で5人の星娘の制作が終わりました。ここまでの率直な感想を教えてください。
LAM  もともと「宇宙」をテーマに何か描けないかと考えていたので、こういったかたちで表現できる機会をもらえたのは、とてもうれしいですし、楽しく描いています。

――LAMさんは宇宙や星が好きですか?
LAM 星座に詳しいとか宇宙が好きということではないのですが、人類が未到達なエリアなど、ある種オカルティックなものに興味があるんです。よくある話だと、宇宙には人間がまだ観測できていないものがたくさんあって、銀河系にはもしかしたら知的生命体がいるかもしれない、みたいな。そういった神秘的なものへの知的好奇心が昔からありました。その気持ちが今回のテーマ選びにつながっていると思います。

――ロマンですね。ちなみに今回の連載をやってみて普段のお仕事との違いは感じますか?
LAM  アニメやゲームのキャラクターデザインを行うときとは違うルールでデザインしています。普段であれば、デザインをするキャラクターの設定の中で大事にしたいところを2~3個決めて、そこを強調するデザインをしますが、今回は設定を踏まえながらも、手が動くままに描いていることが多いなと感じています。

――この連載では、イラストをいわば無意識的に描いている、ということでしょうか?
LAM そうだと思います。ありがたいことに、ここ数年は商業のお仕事をやらせていただく機会が多く、オリジナルの創作物をなかなか発表できなかったんです。それがフラストレーションになってしまうこともあったのですが、今回の連載では好きに描いてくださいとおっしゃっていただけたので「言語化できないけどなんかいいと思うもの」を、頭を空っぽにして描いている感覚です。

見た瞬間に恐ろしさや興味が湧くイラスト

――ここからは、これまでに描いた星娘たちについてお話を聞いていこうと思います。最初は「水星」です。
LAM 「水星」にはこの連載全体のフォーマットを決める役割もあったので、かなり悩みました。僕は音楽からヒントをもらうことがあるんですが、惑星や宇宙をテーマにした楽曲はたくさんあるので、自分にとっての「水星」にどの曲が合うかなと考えてみたりもしましたね。

――音楽からインスピレーションを得ることもあるんですね。
LAM あります。今回も曲から得たインスピレーションに加えて、「水星」という惑星が持つ特徴と、自分が持っていた「水星」へのイメージをミックスしながらデザインを固めていきました。

――こだわった部分はどこでしょうか?
LAM イラストを見た瞬間に、ちょっとした恐ろしさや興味が湧くようなキャラクターにしたいと考えていたので、「水星」の場合はキャラクター自体に黒を使って、水色を差し色として使うなど、試行錯誤しました。

――次は「金星」です。「水星」とは雰囲気ががらっと変わった印象があります。
LAM 「金星」は名前の通り、女神のイメージが強かったのですが、深く調べていくと、思ったよりも過酷な星だということがわかって。もともと持っていたイメージと実際の環境の乖離が大きいところが面白いと思ったので、美しいきらびやかな女性のイメージを持たせつつ、グロテスクな側面を見せられるように意識しました。

――印象としては、華やかさの中に、ちょっとオリエンタルな雰囲気も感じました。
LAM 「金星」と聞いたときにエキゾチックな踊り子のイメージがあったからかもしれません。「水星」を無機質なイメージで描いたので、「金星」は活発で生命力が満ちている印象にしたいなと思い、ドレスを優雅に着こなす、セクシーなお姉さんに仕上げました。

――次は「地球」について聞かせてください。「水星」「金星」ときて、これまた雰囲気がまったく違う星娘です。
LAM じつは、今回の連載でいちばん 悩むのは「地球」だろうと連載前から思っていました。その上であらためて地球について考えてみると、地球にはたくさんの文化や大勢の喜怒哀楽が詰まっているなと感じて。そこからデザインを起こしていきました。

――「地球」はハート型のサングラスやフェイスペイントが印象的ですが、衣装についてもこだわりがあれば教えてください。
LAM ベレー帽に僕のアイコンイラストを使用した缶バッジをつけました。このアイコンは8月から使用しているんですが、「地球」は6月に公開されたので、じつはこれが初お披露目でした。

――これは気がつきませんでした! イラストをもっと細かく見てみようと思う方が増えるかもしれませんね。
LAM  描かれていないボトムスや足元はどうなっているのだろう?と、細かいところまで興味を持っていただけるようなイラストになっていたらうれしいです。

12人の星娘がそろったときに完成する連載

――続いては「月」について。「月」は「地球」の衛星ですが、関係性は意識しましたか?
LAM 惑星を擬人化していくときにそれぞれを姫だと考えていたので、衛星は姫ではない別の見せ方が必要だろうと考えました。「月は無慈悲な夜の女王」というタイトルの小説もありますが、「月」には美しくてクールなイメージが昔からあって。「地球」が楽しげでカラフルなテンションの高いイメージだとすれば、「月」は多くを語らず静かに佇んでいるイメージ。「地球」と対比のきいたキャラクターを目指しました。

――うさ耳のかわいらしさとクールな表情のギャップにも惹かれましたが、衣装についてはいかがですか?
LAM 星娘たちの衣装は素材についてもこだわっていて。「水星」は鋼鉄の鎧ですが、「金星」はシルクっぽい、なめらかで綺麗な生地のイメージ。「地球」はどちらかというとポリエステルとか人工的な素材で、「月」はレザー素材をイメージして描いています。

――最後は「火星」です。
LAM クトゥルフ神話や「宇宙戦争」の影響もあってか、僕にとって「火星」はとてもなじみ深い惑星なので、タコ型宇宙人、そして彼らを統治している強いお姫様がさほど悩まずに思い浮かびました。自分の中で「火星」=火というイメージがとても強いので、今回はわりとストレートに描いています。

――たしかに髪やドレスの色からも火のイメージが強く伝わってきます。デザイン面でこだわった点はどこでしょうか?
LAM 胸元のところが少し破けているのは、落ちぶれた姫だから。僕が考えた設定では、もともと火星には人間のような生物が住んでいたのですが、何らかの影響で環境が悪化して、この子だけが唯一生き残った。タコ型宇宙人たちにとっては、過酷な星で一緒に育って生活をしてきた彼女は特別で愛すべき存在なんです。

――キャラクターが持っている背景を聞くと、イラストをより楽しめますね。 さて、地球型惑星(主に岩石と金属で構成されていて、いわゆる地面がある)は「火星」までとなり、今月からは主にガスで構成された木星型惑星、そして大きな氷の星である天王型惑星へと続いていきます。これからの意気込みを聞かせてください。
LAM これまでと性質が異なる惑星を描いていくことになりますが、この連載でやりたいことは変わりません。12人全員の星娘がそろったときに完成する連載だと思っていますので、最後まで楽しみながら彼女たちを描いていきたいです。引き続き、よろしくお願いします! endmark

LAM
ラム イラストレーター。ゲーム会社に勤務後、2018年からフリーのイラストレーターとして独立。キャラクターデザインやビジュアルワーク、書籍イラストなど国内外問わず幅広く手がける。配信中のアプリゲーム『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』ではキャラクターデザインを担当。