TOPICS 2022.03.29 │ 12:00

日本のアニメファンに衝撃を与えた『時光代理人 -LINK CLICK-』黒﨑静佳プロデューサーインタビュー①

中国アニメのイメージを大きく塗り替えたオリジナルアニメ『時光代理人 -LINK CLICK-(以下、時光代理人)』は、クライマックスの展開でも大きな話題となった。制作元である中国の動画配信プラットフォームbilibiliでは、すでに第2期の制作も決定している今、ローカライズを手がけた黒﨑プロデューサーにあらためて第1期全話数を通じての作品の魅力や、ローカライズで重視したポイントを聞いた。

取材・文/犬地リコ

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

第2期に向けての「期待」と「懸念」

――インタビューを行っている現時点では、第7話までが放送されています。SNSなどでの視聴者の反響を目にしての感想は?
黒﨑 想像以上に多くの反響をいただけてうれしいです。もともと海外のアニメ作品が好きという方だけでなく、シンプルにお話の面白さを評価して見てくださっている方の感想もよく目にして、ありがたく思っています。

――お話の展開を考察しているツイートも多いですね。
黒﨑 日本のアニメのトレンドとしてはストーリーの気持ちよさやテンポのよさを重視した作品が受ける傾向にあるので、本作のようにお話の作り込みに重きを置いた作品を楽しんでもらえるのは、業界全体の多様性につながる気がして、アニメ事業に関わる人間としてもうれしく思います。

――第12話の展開は大変衝撃的でしたが、黒﨑さんが初めて第12話を見たときの感想はいかがでしたか?
黒﨑 事前に第2期の制作予定があることは聞いていたので何かあるとは思っていたのですが、これまでのお話をひっくり返すような展開の大胆さに驚かされました。いち視聴者として、私も第2期を楽しみにしています。

――スタッフやキャストの皆さんもやはり驚いていましたか?
黒﨑 全員「どうなるの!?」と驚くのですが、誰も答えを知らないので「どうなるんでしょうね」「続き(第2期)の日本版もやれたらいいですね」という感じでしたね(笑)。

――中国での第2期制作が予定されていることで、他の作品との違いや苦労したことはありましたか?
黒﨑 第1期のどこかに伏線があるんじゃないのか、翻訳の解釈が本当に合っているのか、と第2期が始まらないとわからないことが多く、翻訳者の方には本当に苦労をおかけしました。翻訳したものを中国の権利元に戻してチェックしてもらうことはほとんどないので、正解がわからないんです。

――以前のインタビューでは口語やスラングの翻訳が難しいとのことでしたが、やはり翻訳で大変な部分が多いんですね。
黒﨑 この作品でいちばん大変だったことは翻訳と、テクニカルな面になりますが、放送のために尺を調整したことです。日本のTVシリーズの放送フォーマットは24分と決まっているのですが、『時光代理人』はネットの配信作品なので各話の尺がバラバラだったんです。視聴者の方が気づかない程度に尺を短くした話数もありますが、ほとんどの場合は尺が不足していたので、冒頭にトキ/程小時(チョン・シャオシー)(以下、トキ)とヒカル/陸光(ルー・グアン)(以下、ヒカル)の作品解説を入れることで調整したりしています。

文化の違いは、細かい部分にこそ現れる?

――第6話では挿入歌の部分でトキたちのイラストが流れる演出がありましたが、あれも尺の調整のためだったのでしょうか?
黒﨑 中国版では、あのパートには別の映像が入っています。bilibili動画での第6話の配信日が中国の「恋人の日(5月20日)」に近かったことから、あの話数は「愛」をテーマにしたエピソードになっているのですが、挿入歌部分では視聴者の方から同様のテーマで募集した写真などで構成した映像が入っていたんです。日本でそのまま流してしまうと「この映像は何だろう?」となってしまうので、別の映像に差し替えさせていただきました。日本版の映像に使用しているのは既存のイラストなのですが、作品内で(キャラクター原案を担当した)INPLICKさんのイラストをお見せする機会があまりなかったので、いいタイミングだったと思います。

――そこにもローカライズならではの理由があったんですね。
黒﨑 中国ではアニメやゲームといったサブカル界隈の空気感として、制作者とファンの距離がすごく近いように感じます。

――本編を見ているときに意識することはほとんどないのですが、ふとしたところに中国ならではのポイントがあると。
黒﨑 そうですね。これは日本版ではわからない部分なのですが、第6話の原音(中国版の音声)ではヒロインのお父さんがカンフーの達人ということにちなんで広東語を話すなど、方言を使うことで特色を出している部分もありました。第3話~第5話では四川方言を話していたので、作中の日にちが明かされる前に四川の地震の話であることを察した人もいたかもしれませんね。日本の方言にしてしまうと意味合いも変わってしまうので、日本版では基本的には標準語に翻訳していただいています。

――地方色や、今のリアルな中国の環境が落とし込まれているんですね。
黒﨑 お話の中で起こる事件も、調べると実際の中国の社会問題を取り上げています。細かい部分ですが、第8話で誘拐犯がトキがダイブした豆豆(ドウドウ)に殴り飛ばされて怒るシーン。殴られた誘拐犯が「道に放り出して見世物にしてやる!」と叫ぶのですが、最初の翻訳だと「物乞いにしてやる!」というセリフだったんです。「物乞い」だと言葉が強すぎるかと思って聞いてみたら、実際に子供を誘拐し、憐憫の情を引くような姿にして物乞いにさせるということがあったそうです。かといって、あまり印象的な言葉を使って視聴者に引っかかりすぎてしまうのは良くないので、少しマイルドに調整して今のようなセリフになりました。

――セリフの内容そのものではなく、そこに含まれる社会的背景も考えないといけないんですね。
黒﨑 文化的な差異を日本版でどの程度残すか、というさじ加減は難しかったです。endmark

黒﨑静佳
くろさきしずか アニプレックス所属。『Fate』関連作品や『活撃 刀剣乱舞』など女性人気の高い作品のプロデュースを数多く手がける。
商品情報

Blu-ray&DVD
時光代理人 -LINK CLICK- 1
【完全生産限定版】
2022年3月30日 発売
(vol.2:4月27日、vol.3:5月25日発売)

Blu-ray:¥13,200(税込) ANZX-15151-2
DVD:¥11,000(税込) ANZB-15151-2

■収録内容

本編ディスク2枚組
収録話:1~4話(ノーカットオリジナル版)
収録音声:日本語吹替音声・中国語音声
※オープニング・エンディングは日本語吹替版の内容です。

■完全生産限定版特典
◆三方背BOX
◆特製ブックレット
◆特典映像
・ノンクレジットオープニング・エンディング映像
・オープニングアイキャッチ
・TV版冒頭映像
・各話予告映像
※仕様・特典は変更となる可能性がございます。

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