TOPICS 2021.09.09 │ 12:00

中国アニメの新たな地平を開く『天官賜福』
黒﨑静佳プロデューサーインタビュー②

日本語吹替版放送のクライマックスに向けて、注目の展開が続くアニメ『天官賜福(てんかんしふく)』。そのローカライズを手がけた一人である黒﨑静佳プロデューサーインタビューの後編をお届けしよう。今回は、ローカライズならではの収録現場の様子にもスポットを当てつつ、お話の軸となる謝憐(シエ・リェン)と三郎(サンラン)の関係や今後のストーリーの見どころを聞いていく。

取材・文/犬地リコ

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

キャスト陣と意見を交換しながらの収録現場

――アフレコまわりで印象的な出来事などはありますか?
黒﨑 神谷さんから第一話の「飛昇」以外にも、いろいろと質問をいただきました。前提になる設定がわかりづらいということだったので、まずは中国の宗教的な世界観など物語の背景をお伝えして、ひと通りご説明したらすぐに理解してすごくうまく演じてくださいましたね。神谷さんと、三郎役の福山潤(ふくやまじゅん)さん以外のキャストはオーディションなどで選ばせていただいたのですが、扶揺(フーヤオ)役の小林千晃(こばやしちあき)さんは「アニメの吹替はあまりやったことがないのですごく新鮮です」と楽しんで演じてくださったのをおぼえています。

――第一印象としては全体的に皆さん声のトーンが落ち着いているように感じたのですが、ディレクションでとくに意識した部分などはありますか?
黒﨑 基本的に過剰なディレクションはしていません。やっていることは外国映画の吹替と同じなので、落ち着いて聞こえるのはそのためかもしれませんね。吹替では収録時に原音(中国語のセリフ)を聞きながら演じることになるので、キャストさんが事前に台本を読んで作ってきたお芝居に重ねて、原音のテンション感を踏襲してくれているのだと思います。

――中国版のテンション感も残っているのですね。
黒﨑 基本は原音のテンションを踏まえていますが、日本のアニメだったらこっちのほうがいいなと思う部分は変えることもあります。実際にキャストさんの声を入れてみたらやっぱりこっちのお芝居感や言い回しのほうがいいなと感じることがあったり、このセリフだと口の動きにどうしても合わないからこうしたほうがいいんじゃないですか?とキャストさんからご提案いただくことも多くて、普段のアニメのアフレコ現場よりもキャストさんたちとキャッチボールをしながらやっている感じは強いです。

――主演の神谷さんと福山さんの演技についてはどのような印象を持っていますか?
黒﨑 謝憐も三郎も、まだ描かれていない側面や過去があったりして、いざ演じるとなるととても複雑で難しい役なのですが、おふたりともすごく的確に演じてくださって感謝しています。作中では激しいアクションや、ほのぼのした場面もあるのですが、私はこのお話は「ダークファンタジーの皮をかぶったラブロマンス」が本質であり、全体的にしっとりしたニュアンスを含んでいる作品だと思っています。いかに謝憐と三郎の関係値や感情が変化していくかに主眼を置いている話なので、主演のおふたりもそういうアプローチをしてくれているように感じています。

連鎖する謎の先に待つものは――?

――第十話では大変気になるところでお話が終わっていますが、クライマックスに向けた作品の今後の見どころや注目ポイントを教えてください。
黒﨑 アニメ『天官賜福』は原作小説にとても忠実に作られている作品で、キャラクター同士の距離感やそこから生まれる絆の描き方をとても丁寧に描いています。そのため、最近の日本のアニメ作品と比べると情報の出るペースがジワジワとしていたり、物語の進行スピードがゆったり感じられたりして、もどかしく思っていた視聴者の方もいらっしゃるかもしれません。第十一話では第十話に引き続き謝憐の過去の一部が描かれ、人間界にいた800年の間どうしていたのかが明らかになり、謝憐というキャラクターの別の魅力や新たな謎が出てきます。各々の過去や抱えているものが明らかになり、お話やキャラクターの深みが増していく一方で、ひとつの謎が解けると「あのときのアレはなんだったの?」と新たな謎が生まれてきたり、「じゃあ、あのキャラクターは?」「あのときの仕草の意味は?」と、新たな点に気づいていく。連鎖していく謎の先に何があるのか、気になって早く続きが見たくなる、それこそが本作のストーリーの醍醐味だと思いますので、視聴者の皆さんにはぜひ一緒にその謎解き・推理劇を楽しんでいただければうれしいです。それと同時に、神様であるキャラクターたちの人間くさい部分など、新しい側面もどんどん描かれていくので、そちらも注目してください。

――個人的には、第十話の時点で謝憐と三郎が「今」お互いをどう思っているのかもとても気になりました。
黒﨑 信頼しあっているけど、どこか距離があるというか、まだ疑いも晴れきっていないような雰囲気ですよね。キャラクターの仕草や表情、お互いの言葉やその時々の距離感さえも伏線なので、そういった部分も見逃せないです。

――では、最後まで見終わったあとで、もう一度最初から伏線を確認するという楽しみもありますね。
黒﨑 1クール目だけでも最終話まで見たらまた見たくなると思います。謎が明かされて「そういうことだったんだ!」と思ったら、第一話の描写はこういう意味だったのかな?と気づいて確認したくなったり。繰り返し見れば見るほどお話やキャラクターのことがわかっていって、どんどん深みにハマっていく「沼」みのある作品ですので、この先の展開もぜひ楽しみにしていてください!endmark

黒﨑静佳
くろさきしずか。アニプレックス所属。『Fate』関連作品や『活撃 刀剣乱舞』など女性人気の高い作品のプロデュースを数多く手がけてきた。
作品情報

『天官賜福』
好評放送中
Blu-ray Disc BOX上下巻にて10月13日(水)/11月24日(水)発売!
詳細はこちら

  • ©bilibili