TOPICS 2022.08.30 │ 12:00

『リコリス・リコイル』
足立慎吾が初監督作で描きたかったこと③

TVアニメ『リコリス・リコイル』で監督・シリーズ構成を務める足立慎吾へのインタビュー連載。第3回は、いよいよ佳境に差し掛かかるストーリーに触れつつ、作品のバックボーンに迫った。

取材・文/岡本大介

千束には自分の考え方が投影されている

――このインタビューの掲載時点では第9話までが放送されている予定なのですが、千束(ちさと)の秘密が明らかになったことで、彼女の本質がようやくわかってきました。
足立 そうですか? 足立にも本質はよくわからないですよ。彼女のような立場になったことはないし、推し量ることしかできませんからね……。千束の時間はたしかに短いけど、じつは我々も同じかもしれない。明日終わっちゃうかもしれませんしね。そういう意味では、我々も千束と同じ問題を抱えているけど、気がつかないようにしているだけですよ。千束のことを考えるとき、「死」と「時間」は避けて通れなかった。さまざまな哲学的見地にも触れたし、頭がおかしくなりそうでしたよ。「人は死を考えるのは死ぬことよりも恐ろしい」って話もあるくらいですからね。千束は幼少期からその恐ろしさを抱えてこれまで来たわけで、それでもあの明るさを今も持ち続けられるのは、何を得ているからなんだろうか? それをずっと千束に尋ねていた気がします。

――第9話では千束とたきなのおでかけと別れが印象的でした。
足立 あのシーンでは自分も特別な体験をしまして、じつは脚本と絵コンテではたきなは雪を見たあと、駆け出してそのまま去っていたんですよね。でもコンテチェック時にあらためて考えると、どうしてもたきなが千束を振り返るんですよね……。変な話と思うかもしれないんだけど(笑)。千束に見せたかった雪が降ってきたわけだから。直前で千束に言われた「全力でやればいいことが起きる」という言葉が今、現実になっているわけですよね。振り返ると、千束が「ほらね」みたいな顔で立っているわけですよ。千束を救うために正しい道を行っているかどうか、不安に思うたきなにこれ以上ポジティブなエールはないと思う。また聞こえたんじゃない? 「まだ途中だよ」って。これがよく聞く、キャラが勝手に動くってことなのかなぁ……とか思ったり(笑)。

――ふたりの仲のよさが際立ったOPアニメがあるだけに、別れの描写は本当に切ないですね。
足立 それもOPアニメの役割のひとつですね。本当はもっともっとふたりの時間はあるはずだけど、本編でそれを全部描くことはできないですからね。これは『ソードアート・オンラインⅡ』の『マザーズ・ロザリオ編』(OPアニメの絵コンテ・演出を担当)のときも考えていたことなんですけど、本編で描ききれなかったイメージをOPで描いて、千束とたきなの時間は視聴者の想像力もお借りして作れればいいなって。

――OPの話題が出たので聞きたいのですが、EDアニメはたきなの部屋ということでいいんですよね?
足立 そんな感じ(笑)。たきなは世間知らずで趣味もないので自分では何も買わないんですが、千束がいろいろとすすめてくるんですよ。EDテーマの歌詞もそういう内容なので、そこからイメージを膨らませて作っています。フラワーロックも千束が買ってきたもので「これ、音楽に合わせて踊るんだよ?」「意味なくないですか?」「でも、面白いじゃん!」みたいな流れで部屋に置くことになったんじゃないカナ? あんな数は迷惑だと思うけど……(笑)。断れなかったか……たきな。

「味方」と「敵」、「善」と「悪」がクロスした物語

――ストーリーも終盤に入ってきました。ここから真島とDAの直接対決になりそうですね。
足立 そうですね。真島さんどうですかねぇ……みんな彼のことどう思うのかなぁ。

――真島の真意はまだ明らかになっていませんが、彼なりの道理はありそうで単純な極悪人というわけではなさそうですよね。
足立 人間は自分が悪である認識には耐えられないと思うんですよね。誰しも自分こそが正義の側だと思っていますよ。そんなもんでしょ? DAは日本の平和を守る機関ではありますが、国民には認可されていませんからね。真島としてはそれが気に入らないわけだし。利己的な正義のぶつかり合いですよね。

――情報隠蔽を「悪」とするか、表面上の平和を「善」とするかですね。DAという組織が孕(はら)んでいる矛盾は第1話の冒頭ナレーションからも明らかになっていますし、難しいところですね。
足立 まあまあ、そんな難しいことは考えないでほしい(笑)。理不尽な世界の中で、千束とたきなのふたりがどう動くのかを見てもらいたいというのが願いではあるんですけど。

あくまでも作品で描きたいのは千束とたきな、でも……?

――展開がどれだけシリアスになっても、根幹にはふたりのかわいさを感じてもらいたいというのは、見ていてよく伝わってきます。
足立 かわいさもだけど、儚さ? 千束やたきなの主観で考えれば、大人たちがやっていることはメインの問題じゃないと思う。彼女たちを包む社会の問題や事件はいろいろ提示してはいるけど、今回はあくまでふたりの少女の視点であることは忘れたくない。仮に本作で次の機会があるのだとしたら、また別の観点での物語を作ってもいいかもですけどねぇ……。

――この作品にそういった需要はあるのかはさておき、たしかに作れそうですね。
足立 血糊ベッタリの床を掃除しながら「こいつら、いつも現場を散らかしやがる……」とブツブツと文句を垂れるクリーナー(掃除人)たちの日常とか! え? 要らない?(笑)

――それで言えば、喫茶「リコリコ」の日常回も楽しそうですね。
足立 リコリコを舞台としたショートストーリーはもっとやりたかったですね。第8話に登場した「たきなスペシャル」のようなスイーツメニューもいろいろと用意していたんですが、あんまり描けなかったです……無念。熱烈な応援をいただければ、いずれそのあたりを描く機会も得られるかもしれないですね。皆さん、よろしくお願いします!endmark

足立慎吾
あだちしんご 大阪府出身。アニメーター、キャラクターデザイナー、アニメーション監督。代表作は『WORKING!!』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『映画大好きポンポさん』(キャラクターデザイン)など。
作品情報


『リコリス・リコイル』
毎週土曜23:30~ TOKYO MXほか各局にて放送中!

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