TOPICS 2022.06.30 │ 12:00

2期放送直前!『メイドインアビス』を振り返る特集
シリーズ構成・倉田英之インタビュー

小さな“探掘家”が超ド級にハードなストーリーを繰り広げる、異色ファンタジー『メイドインアビス』。一切妥協しない描写の数々が話題を呼んだこのアニメ版は、いったい何を達成したのか。アニメ化にあたり原作の物語を見事に再構築した脚本家・倉田英之。彼が見た『メイドインアビス』の世界観とは?

取材・文/宮 昌太朗

※雑誌Febri Vol.44(2017年10月発売)に掲載されたインタビューの再掲です。

脚本家として気を使ったのは、ナナチよりもミーティ

――劇中でリコは、お母さんと会うためにアビスに行く、と話していますよね。
倉田 そこに関しては、わりと最初のほうの打ち合わせで、つくし先生に聞いちゃったんです。「母親に会いたい」って言っているけど、本当に会いたいと思っているんでしょうか?と。だって、そもそも2歳のときに別れていて記憶もあまりないわけじゃないですか。だから「お母さんに会いたい」というよりも「アビスに潜りたい」という欲求のほうが強いんじゃないか。オーゼンも言っていましたけど、リコは一度死んでいるわけで。アビスで生まれたものは、本能的にアビスの中心に戻ろうとしている、というのであれば、リコがアビスに行こうとする動機は、そこにあるのかもしれない。考えれば考えるほど、設定がしっかり作り込まれているんです。そういう部分の考察をすることも楽しい作品ですね。

――なるほど。終盤では、原作でも人気のナナチが登場しますが、倉田さんはどんなキャラクターだと考えているのでしょうか?
倉田 原作ファンを含めて登場が期待されていたキャラクターなんですけど、僕としては特別な思い入れはないんです。ケモナー属性がないというのもわりと大きいんですけど(笑)。ナナチはヒントが多いというか、「こういう子です」と示唆してくれる描写が多いキャラクターなんです。原作ですでに、こういうところで暮らしてきて、こういう過去があるということがナナチの主観で描かれているので、性格もわかるし、考えていることもわかる。お話の中のキャラとして、すごく腑に落ちる形で処理ができるんです。もっと言えば、ナナチが持っているエモーショナルな部分にぐわーっと入り込みすぎてしまうと、独りよがりなものになりかねない。なので、必要なセリフは必要だし、いらないセリフはばっさりとカットする――という感じで、冷静に判断しようと思っていたところはあります。

――十分エモーショナルなキャラクターだからこそ、脚本家として客観的に見ていこう、と。
倉田 むしろ僕が気を使ったのはミーティのほうなんです。登場する回想シーンも、あくまでナナチの目を通して描かれているので、これだけ短い時間でなぜ、こんなにもミーティはナナチに対して思い入れができたのか。ナナチがああいう環境の中で生き残ったのは、他でもないミーティのおかげなんですけど、ミーティはナナチをどういう風に捉えていたのかは、原作の中には出てこないんですよ。

ナナチは負い目や罪悪感を抱えているからこそ、読者も感情移入できる

――なるほど。
倉田 そもそもミーティは何を考えているのかわからない――というか、劇中でナナチは「ただの反応だ」って言っていますけど、それもナナチの意見でしかないわけで、実際は植物人間にも意識があるのかもしれない、というのと似たところがある。なので、個人的にはそちらのほうに興味が湧きました。あと、最終話のレグがミーティを撃つシーン。原作の中でも盛り上がる場面のひとつですが、やはり意識的に人の命を奪うというのは、すごく難しくて。レグがベニクチナワを撃つときとミーティを撃つときで、感情的に何か変わるところがあるのか。命を奪うという行為そのものに関して言えば、どちらも同じわけですよね。そこを考え始めると、どんどん思考があらぬ方向にいってしまう。ナナチは「自分が死んだあともミーティだけが残されるのは、あまりに不憫だ」って言うんですけど、これって安楽死だよな、とか。

――ある意味、命を奪うことを正当化できるのか、というところですよね。
倉田 しかも、その選択が本当に正しいかはわからないし、原作の中でも答えは出ていません。このあとの展開でわかりますが、ナナチ自身は孤独で、ビビりで、意気地なしで、ボンドルドの下で生きていくために、いろいろな人を犠牲にしていたりする。そういう負い目とか罪悪感を抱えているキャラクターで、だからこそ読んでいる人も感情移入できる。人ってやっぱり自分と似たような弱さを持っている相手を見つけると、シンパシーを抱くものなので。個人的には、リコみたいにガーッといっちゃう人間のほうが、見ていて楽しいんですけど(笑)。でも、皆がナナチを好きになるのはよくわかります。『アビス』のストーリーが広がるにあたり、とても重要な役割に担っていることは理解していたんですけど、だからこそ過剰に思い入れないようにしようと意識していました。

――では最後に、ファンの方たちに向けて「ここを楽しんでほしい」というポイントをお願いします。
倉田 今まで話してきたような考察だったり、あるいはあとから見直してみて「こういう意味があったのか」と気づいたり想像するのが楽しい作品だと思います。なので、ぜひ繰り返し見ていただければ。あと、ファンの皆さんとしてはやっぱりボンドルドが見たかったと思うんですよね。もちろん、僕たちもボンドルドの活躍が見たかったんですけど、そこはやはり皆さんの〝度し難い〟支持があれば(笑)。このままだと本当に「俺たちの冒険はこれからだエンド」になってしまうので(笑)、今後とも応援をお願いします。endmark

倉田英之
くらたひでゆき 1968年生まれ、岡山県出身。『R.O.D』を初め数多くの作品を手がける脚本家。近年の主な作品に『灼熱の卓球娘』『DRIFTERS』『純潔のマリア』などがある。
作品情報

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』
2022年7月6日より放送

  • ©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会