特撮で得た知見をアニメにフィードバック
――人造人間(ネアン)同士のバトルについてですが、戦闘形態に変身したり、それぞれに特殊能力があるなど、特撮ヒーローっぽさも感じます。
出渕 それは意識してやっています。僕は特撮関係の仕事もしているので、それをアニメに逆輸入している感覚ですね。もともと僕が特撮作品のキャラクターデザインに誘われたのは「特撮にアニメ的なセンスが欲しいから」という理由だったんです。僕自身、もともと特撮好きではありましたが、そこで実際やってみて得た知見もたくさんあって。特撮の感覚をアニメにフィードバックするというのは、じつは80年代からアプローチをしていた人たちはいて、たとえばOVAの『戦え!!イクサー1』なんかもそうですね。でも、今はそういうムーブメントも去って。だから世界観こそテック・ノワールSFですが、特撮テイストも共存しているのは、今の視聴者には新鮮に映るかもしれないなと思って。まあ、完全に直感なんですけどね(笑)。逆にその頃を知る人たちには懐かしく思えてくれれば、それもいいかなと思っています。
――特撮テイストと世界観とのギャップが、本作ならではのオリジナリティになっていますよね。
出渕 特撮がなんとなくSFにも調和しちゃうのは、日本人のDNAのどこかに特撮的な感覚が染み込んでいるからだと思うんです。もともと特撮ヒーローたちのポージングも歌舞伎の「見得」から来ていますしね。だから、当初は調子に乗ってルジュたちにお決まりの口上セリフみたいなものも言わせようかなと考えたんですけど、さすがに最終的には思いとどまりました(笑)。
敵キャラがそれぞれ特殊能力を持っているのも日本っぽい
――ジャロンの「擬態」など、敵キャラクターそれぞれに特殊能力があるのも面白いですね。
出渕 それも特撮っぽいですよね。もっとさかのぼれば山田風太郎の『忍法帖』シリーズなどもありますし、ジャンルを問わずに日本の伝統芸という気もします。先ほどの「見得」と同じく、トラディショナル・ジャパニーズスタイルだなと。
――ちなみに変身の原理について裏設定などはあるんですか?
出渕 とくにありません(笑)。現代の我々の技術ではとうてい不可能だけど、宇宙人から超技術を授かっているという設定ですから。ただ、そこは後付けでなんとでも説明できる自信があります。なので必要があれば作ろうと思いますが、そもそもそれを丁寧に解説していくのがテーマの作品でもないですからね。
――その宇宙人についてですが、劇中では「来訪者」と「簒奪者」という2種類の宇宙人の存在がほのめかされています。これはストーリーに絡んでくるというよりも、あくまで世界観構築のためのギミックでしょうか?
出渕 今後のストーリーに関わってくるのでハッキリとはお答えしにくい部分ですけど、彼らの存在をこのまま一切スルーするということはないです。「来訪者」と「簒奪者」、それぞれの思惑はある程度見えてきますし、具体的にどんな行動をしているのかもチラ見せするつもりです。それが物語の本筋ではないにしろ、そういった広がりのある部分も楽しんでいただけると思います。
戦闘形態のコンセプトは「鎧っぽく」
――メタルルージュをはじめ、各キャラクターの戦闘形態(グラディエーター)のデザインもカッコいいです。デザインは竹谷隆之さんと篠原保さんが担当していますが、どのような流れで出来上がったのでしょうか?
出渕 方向性は正直言って自分も迷っていたんですよね。でも、おふたりとも素晴らしいセンスの持ち主なので、僕のほうからは「こんな感じでお願いします」と大雑把な方向性を伝えて、そこからは基本的におまかせしていますね。打ち合わせの際には、口頭で「鎧っぽく」とお願いしました。ただ、鎧ではあるんだけど、同時にメカっぽさや生体的な部分も出したいので、機械や金属のテイストを出して、身体的シルエットは残してほしいとオーダーしていた気もします。ジャロンについては僕の中になんとなく道化師的なイメージがあったので、簡単なラフを渡しています。あと伝えたのは色ですね。メタルルージュは「赤」だし、ヴァイオラは「紫」など、戦闘形態時の名前はすべて色が名前のベースになっています。由来は英語とは限らなくて、たとえばジャロンの場合はイタリア語で黄色を指す「giallo」から名付けています。色分けについては最初から明確に決まっていました。
――では、そのうえで竹谷さんと篠原さんが分担してデザインしているんですね。
出渕 僕もディレクションはしていますが、彼らも「出渕さんならこうかな?」と僕の好みを理解してくれたうえで、それぞれの持ち味を落とし込んでデザインしてくれるので本当にありがたいです。
――数としては、メタルルージュとインモータルナインなどなので、10体以上のデザインということになりますか?
出渕 そうですね。ルジュは竹谷君、第1話に登場したヴァイオラは篠原君……といったように半分ずつ担当してもらって、それぞれフィニッシュまで作業をお願いしました。もちろん、アニメーションとして動かすにはアニメ用の設定が必要なので、それは別の部署で起こしているんですが、そこでデザインが変わっているわけではないので、最後までお願いしたと言っていいと思います。立体化前提の実写畑のふたりなので、どうしても線が多くなってしまうんです。CGだと問題ないんですが、今回はアクションも作画メインで。村木(靖、特技監督)君の凄腕チーム主体で担当してもらっているのですが、線を減らそうとしてもどうしても他作品より多くなってしまって。そこは村木君たちには申し訳なかったです。
――バトルシーンでは歌ものの楽曲もかかって盛り上がります。劇伴は岩崎太整さん、yuma yamaguchiさん、TOWA TEIさんと豪華な面々ですよね。
出渕 僕は今回、総監修という立場なので、音楽に関してはほとんどおまかせなんです。最初に言ったのは、エンニオ・モリコーネのようなメロディアスな曲もいくつか必要なんじゃないかなということと「不思議ソング」みたいなものが一曲欲しいね、と言ったくらい(笑)。
――「不思議ソング」と言うと『宇宙刑事シャイダー』の!?
出渕 そうそう。あのカーニバルの間抜けたような曲がじつに味わい深いんですよね。ただ、これは単なるアイデアとして出しただけなので、実際に採用されているかどうか、現時点では僕もわかりません(笑)。監督の堀(元宣)さんはすごく音楽好きな方なので、基本的には彼がイメージしている音楽を優先させるべきだと考えました。実際に上がってきた劇伴を聞いたら「なるほど、すごいな」と思いましたし、おまかせして正解でしたね。
- 出渕裕
- いづぶちゆたか 1958年生まれ。東京都出身。メカニックデザイナー、キャラクターデザイナー、アニメ監督、イラストレーター、マンガ家。1978年に『闘将ダイモス』でメカニックデザイナーとしてデビュー。以降、『ガンダム』シリーズや『機動警察パトレイバー』、スーパー戦隊シリーズなどでデザインを担当。監督(総監督)作に『ラーゼフォン』『宇宙戦艦ヤマト2199』がある。