TOPICS 2024.01.31 │ 12:00

出渕裕に聞いた
『メタリックルージュ』ができるまで③

人造人間の少女・ルジュが、バディのナオミとともに「インモータルナイン(政府に敵対する9人の人造人間)」の殺害任務にあたるテック・ノワールSF『メタリックルージュ』。総監修&シリーズ構成を務める出渕裕に、本作の誕生秘話を聞いてきたインタビュー連載。締めくくりとなる後編では、本作のテーマや今後の見どころに迫る。

取材・文/岡本大介

制作途中で時代が大きく動いてしまった

――バディもののポップさもありつつ、全体的にはハードボイルドな雰囲気も漂っている本作ですが、このややドライな肌触りは、今の時代性を考えてのことでしょうか?
出渕 そこはあまり深く考えなかったですね。肌触りは直感でやっているところがあって、SFでアンドロイドが主人公と決まった時点で、自然と「格差」や「分断」というテーマが生まれ、フィルムの雰囲気も決まっていったというのが正直なところです。

――フィクションではありますが、今の世界情勢にかなり通じるところがありますね。
出渕 「格差」や「分断」は普遍的なテーマですから、これも特別意識したわけではないんですよ。世の中を見渡せば、そういう問題はつねにどこかで起こっていますから。とはいえ、ハマスとイスラエルの戦闘が始まった際は「まさかこんなことが起きるとは……」と驚きました。第3話の舞台となっているネアン自治区は、まさにガザ地区を含むパレスチナ自治区をイメージしていたんです。劇中でも、問題が起きれば武装した警察が乗り込んで武力で制圧する描写がありますが、まさにそれ以上の悲劇が起こってしまったわけじゃないですか。現実がフィクションを追い越すというのは時折あることですけど、こればかりは起きてほしくなかったですね。

物語の核はあくまでルジュとナオミの友情

――それだけに人造人間(ネアン)の自由を求める戦いや、それによる悲劇や分断などが、より実感をもって迫ってくる気がします。
出渕 ネアンは人間ではないですから、その点の違いはあるんですけど、構造は似ていますよね。作中設定として「アジモフコード」というネアンに施された制御機能があるんですが、それがなくなってネアンが自由になったら、いったい世界はどうなってしまうのか。未来は誰にもわからないので、そこにいろいろな考え方が生まれるのは必然だと思います。作中でネアンも人間も一枚岩ではないように、現実の政治や宗教を見ても、政党や宗派ごとに方針が異なっていたりして、これらは世界のあちこちで今も実際に起こっていることですよね。

――対立や分断を避けつつ、問題をどう解決していくのか。これは人類がまだ解決を見いだせていない問いですね。
出渕 そうですね。みんなが同じ意見で同じ方向を向いていたら、それはそれですごく気持ち悪いですし。弱者といっても、権力に歩調を合わせる弱者もいれば、権力にあらがう弱者もいて、すべてをあきらめている弱者もいる。これを完全に解決することはできないですよ。ただ、だからといって境界ごとに壁を作って生きていくということにもしたくない。完全にわかり合うことは無理でも、どこかに共通項を見いだして歩み寄ろうとする姿勢は、壁を作って引きこもるよりはずっといいんじゃないかって。まあ、こういうことを声を大にして言うと説教くさくなるのでやめます(笑)。「こんなテーマも含んでいますよ」くらいの気持ちで見てください。物語の核としてはあくまでルジュとナオミの友情だったり、新たな仲間との絆だったりするので、もう少しライトな気持ちで楽しんでもらえるとうれしいですね。

移り変わる舞台と、ルジュたちのバックボーンを楽しんでほしい

――このインタビューの公開時には第3話まで放送されている予定なのですが、第4話以降の見どころについて聞かせてください。
出渕 本作はロードムービーでもあるので、第4話以降はまた舞台が変わっていきます。第1話はラスベガス的な火星の大都市から始まり、第2話では荒野を疾走して、第3話ではネアン自治区のような場所があり、さらに次からは客船だったりと次々にステージが変わっていくので、そこは見どころだと思います。場所が変わればキャラクターの役回りも変わりますし、それによってドラマ構造も変化していきますから。あとは、ルジュたちが追っているインモータルナインの残りは誰で、いったい何を狙っているのかというのもストーリーの縦線になっていますので、そこは謎解き感覚で楽しんでもらえればと思います。

――それらと平行してルジュやナオミのバックボーンも次第に描かれていくのでしょうか?
出渕 もちろんそういう展開もあります。なぜルジュが作られたのかというお話だったり、ナオミの裏事情なども明かされていきます。終盤では急展開も待っていますから、そのあたりにも注目してもらえたらと思います。

――終盤の展開まで話して大丈夫ですか?
出渕 まあ、これ以上言わなければ大丈夫でしょう(笑)。とにかく一度見てもらわないことにはどうしようもないですし、見てもらえたら絶対に楽しんでいただける作品になっていると思っています。先ほどはちょっとシリアスな話もしちゃいましたけど、基本的にはルジュとナオミの魅力的な掛け合いを楽しんでもらえたらと思います。僕が手がける作品は、わかっていてもついつい要素を詰め込みすぎてしまう悪癖があるので、そこは雰囲気として捉えてもらって、深く考えずに受け取っていただければ(笑)。

――『ラーゼフォン』のような盛り上がりを起こしたいですね。
出渕 2クールで最初は夕方枠だった『ラーゼフォン』と違ってこちらは最初から深夜帯の作品だし、短いシリーズですからね。ただ、僕らも最後までしっかりと走りきろうと思っていますし、皆さんにも最後までお付き合いいただけるとうれしいです。とはいえ、実際のところ、僕は総監修なので、放送がスタートしてしまうと意外とやることがないんですよ(笑)。その分、自分は取材や宣伝で頑張らせていただく感じですね。放送回を見逃しても、遅れて配信などでも視聴できるようなので、ぜひよろしくお願いします!endmark

出渕裕
いづぶちゆたか 1958年生まれ。東京都出身。メカニックデザイナー、キャラクターデザイナー、アニメ監督、イラストレーター、マンガ家。1978年に『闘将ダイモス』でメカニックデザイナーとしてデビュー。以降、『ガンダム』シリーズや『機動警察パトレイバー』、スーパー戦隊シリーズなどでデザインを担当。監督(総監督)作に『ラーゼフォン』『宇宙戦艦ヤマト2199』がある。
作品情報


TVアニメ『メタリックルージュ』
フジテレビ「+Ultra」他にて毎週水曜24:55~放送中!

  • ©BONES・出渕裕/Project Rouge