TOPICS 2022.10.18 │ 13:59

『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 小野ハナ監督に聞く新シリーズ制作の裏側①

モルモットが車になった、愛らしい“モルカー”たちが帰ってきた! このインタビュー記事では、教習所を舞台に繰り広げられる新シリーズの裏側を、小野ハナ監督とともに深掘りしていく。前編では、あの映像を生み出す撮影手法に迫る――。

取材・文/浅野健司

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

パペットが、どれだけ生き生きとして見えるか

――小野監督は第1期から絵コンテで参加していますが、新シリーズが決まったことに対する気持ちはいかがですか?
小野 第1期が放送されたとき、ファンアートなども含めて、たくさんの反響をいただきました。「フェルトのパペットを使ったコマ撮りアニメ」という特殊な作品が、多くの人に楽しんでいただけたというのは、非常にありがたいことです。ここまで来られたのはファンの皆さんのおかげだと、とても感謝しています。

――モルカーたちの動きを見ていると、制作の舞台裏が気になります。撮影過程ではどういったことに気をつけているのでしょうか?
小野 セリフがない分、表情や小さな動作がすべてなので、そこでどれだけ演じられるかというのはポイントだと思います。それゆえ要になるのは、パペットを動かすアニメーターさんが「いかに生き生きと演じてくれるか」というところなんです。

――とくに重要な役割であると。
小野 コマ撮りにおけるアニメーターは、パペットと1対1で向き合い、そこに精神や重量感みたいなものを宿していく仕事です。なので、できるだけ彼らが想像したことを、そのまま反映できる状況を作ることを心がけました。打ち合わせでも「この瞬間にこういうポーズをさせてください」というのではなく、「こういう気持ちの場面なので、思うようにやってください」というやりとりをしていました。そうすると、パペットがより生きてくるんです。

――モルカーの頬など、細かな部分もかなり動いています。ああした動きは、実際にパペットを膨らませたりしているのですか?
小野 はい。フェルトを潰してみたり、持ち上げてみたりと、少し触っただけでも表情が豊かに出てきます。これは逆にいえば、ちょっと触っただけで、前のフレームと表情が変わってしまうということでもあります。繊細なコントロールを行いながら動きを演じるというのは、本当に職人技なんです。

――この作品は何フレームなのでしょう?
小野 1秒24フレームですね。

――ということは「動きをつけて写真を撮る」といった作業を24回繰り返して、ようやく1秒分の映像になる。1話あたり、どのぐらい撮影期間がかかるのですか?
小野 だいたい1カ月ちょっとでしょうか。1日につき数秒というペースで、少しずつ積み重ねていきます。撮影中は座ることもままなりませんし、体力も根気もいる仕事ですね。

必要なことを考え、工夫していく撮影現場

――ここからは撮影時の写真を見ながら具体的なお話を聞かせてください。まず写真①は?
小野 これはアニメーターさんと相談しながら、セットの微調整をしているところです。右の白いトレーナーの人物(UchuPeople 当真一茂)の脇の下にカメラがあるんですが、これで画角やライティングを見ながらファーストカットをテスト撮影し、それを私が確認して、問題がなければ撮影を始めてもらいます。

――撮影に入るための、全体的な準備を整えているんですね。
小野 右上にPCモニターが見えますが、写り具合をリアルタイムで確認しながら、どうすればいいのかを考え、その場で作っていくことが多いですね。あらかじめ画角の参考のためだけに1枚テスト撮影したものをお渡しし、再現してもらうやり方もありました。

――②はモルカーが蔦(つた)のようなものを登っていますが、これは実際のシーンの撮影でしょうか?
小野 そうですね。合成が必要なカットなので、ブルーバックで撮影しているところです。モルカーと蔦につながっているロボットのような器具は、それぞれを固定するための「タンク」という装置で、これがないといい具合のところで静止してくれません。狙いどおりに撮影するためには、しっかり固定することが重要なので、大活躍しています。

――③の写真もモルカーが固定されていますが、器具の形が違いますね。
小野 先ほどとは違って、回転が必要なカットでした。そのため、固定器具の真ん中に回転機構がついています。よく見ると、円柱の部分に物差しのマスキングテープが貼ってあって、角度が確認できるようになっているんですよ。コマ撮りなので、360度を秒数とフレーム数で割って計算し、必要な角度だけ動かしてカシャッ、また動かしてカシャッ……と撮影していくんです。

――なるほど。普通の動画のように、回っている様子をただ録画するわけではないですからね。
小野 3度ずつとか、ちょっと動かしては写真を撮っての繰り返しで。

――こういった細かいところも、どうすれば撮影できるかを工夫して編み出していくと。
小野 はい。こういった器具自体、どの作品でも使い回せるわけではありません。パペットの重さや関節の仕組みは素体ごとに違うので、その都度、開発が必要になります。モルカーは柔らかいフェルト素材なので、ブスッと刺して固定する方法が有効なんです。

――④はモルカーを制作しているところですね。
小野 一般的な羊毛フェルトの作り方と基本は同じですが、芯の部分に発泡スチロールを入れたり、関節などの動かす部分にはワイヤーを使ったりして、骨にしています。演じるときの可動域がここで決まってくるので、見えない部分も重要です。

――⑤と⑥は背景や小道具が印象的です。
小野 フェルトを使ったセットです。けば立てたものを柔軟に貼り付けることで、臨場感を出しています。⑥の写真では固定器具が見当たりませんが、じつはモルカーやゴミは、見えないようにピンで留めているんです。フェルトもそれなりに反発力があるので、しっかり固定しないと押し戻されてしまい、映像になったとき「なんだか浮いているように見える」ということが起こり得るので。

監督として“アニメーターを生かす”

――違和感のない映像を作るために、相当な気配りと工夫を凝らさないといけないんですね。
小野 スタジオの空調も非常に大切です。エアコンで温度が変わると、撮影している間にワイヤーが曲がったりという物理的な現象が起きる可能性があるんです。なので、固定に対してはかなり意識します。

――もし、ミスが起きた場合はどうするのでしょうか?
小野 撮影後に途中の1フレームだけ再撮影して差し替えることはできないので、よほどの場合のみですが、それ以降のフレームはボツになります。どうしてもつながらなくなってしまうので。

――緊張感のある現場ですね。監督は、撮影時にどんな点を重視していましたか?
小野 「とにかくアニメーターさんの邪魔をしない」ということです。うかつに様子を見に行って、床を揺らしてしまうと、それでおじゃんになってしまうこともあるので。もう、とにかく静かにしていよう、と(笑)。あとはやっぱりアニメーターさんが集中できると同時に、楽しく撮影に挑めるような環境作りです。そのために撮影前後の段階を調整していく。そうしたこともあって、わりと自由度の高い、独特な現場になったかもしれません。

――そうやって撮影した素材を編集でまとめ、デジタル的な演出などを足していくんですね。
小野 物を実際に撮影するより、デジタルのほうが向いているなというカットは、積極的に取り入れています。そこはコマ撮りにこだわりすぎずに、混ぜて使っていますね。endmark

小野ハナ
おのはな 1986年生まれ。岩手県出身。東京藝術大学在学時からショートアニメーションを制作・発表。以降、多くの映画祭などで受賞を重ねる。2017年には自身の会社“UchuPeople”を立ち上げ、精力的な活動を展開している。
後編(②)は10月20日公開予定
作品情報

毎週土曜日あさ7時より テレビ東京「イニミニマニモ」内にて放送中
放送終了後 あさ8時からは公式YouTubeで見逃し配信中

■『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 あらすじ
ある日、大騒動を起こしたポテトたちが連れてこられたのは…ドライビングスクール?!
まるでテーマパークのようなその場所で巻き起こる新しい出会い、ドライバーとの絆、試練…?
今度のモルカーはモルシティを飛び出して…? プイプイ!ワクワク!大暴走?!

■スタッフ情報
原案・スーパーバイザー: 見里朝希
監督: 小野ハナ(UchuPeople)

アニメーター: 小川翔大 高野 真 三宅敦子 垣内由加利
当真一茂 阿部靖子 小西茉莉花
美術: UchuPeople アトリエKOCKA パンタグラフ スタジオビンゴ
音楽: 小鷲翔太
音響: 小沼則義
声の出演(モルモット):つむぎ パイムータン

『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 ロングPV

  • ©見里朝希/PUI PUI モルカーDS製作委員会