TOPICS 2022.10.20 │ 12:00

『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 小野ハナ監督に聞く新シリーズ制作の裏側②

フェルトのパペットを使ったコマ撮りという、特殊なスタイルのアニメ『PUI PUIモルカー DRIVING SCHOOL』のメイキングを紹介するインタビュー。後編では人気作を引き継ぐことへの思いや、新シリーズの見どころを小野ハナ監督に語ってもらった。

取材・文/浅野健司

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

この盛り上がりを途切れさせたくない

――小野さんは、第1期では絵コンテを担当され、新シリーズからは監督という立場になりました。人気の高いシリーズだけに、監督という立場になったことへのプレッシャーもありそうです。
小野 プレッシャー……ある意味では、納得感もあるんですよ。自分たちの会社であるUchuPeople(2017年に人形アニメーション作家・当真一茂とともに設立)でも、フェルトパペットの映像作品に注力していましたから。日本で同じような作り方ができるところは少ないですし、話作りもとなるとさらに狭(せば)まると思います。お話をいただいたとき「我々ならお手伝いできるかな」という思いがありました。

――これまでやってきた自負というか。
小野 原案者であり、前シリーズで監督を務められた見里さんのお人柄も知っていたので、手元の想像がついたというのはありましたが、監督としての参加が決まったときにいちばん強く考えたのは、第1期の盛り上がりやチャンスみたいなものを途切れさせてはいけない、ということです。危機感に近いものでもあるのですが、コマ撮りアニメで仕事を続けることの難しさを知っていたので、それがシリーズになってたくさんの方に届くこと自体、とても素晴らしいというか感動的で。熱の冷めぬうちに期待に応えたいという気持ちがありました。

――先ほど名前が出た、第1期の監督である見里朝希(みさとともき)さんもスーパーバイザーとして参加しています。
小野 教習所が舞台というアイデアは、見里さんが昔から温めていたものです。そうしたネタをご提供いただきつつ、それをどう実装するかの部分では私がたくさんの案を出して、お互いのアイデアを練り上げながら基礎となる部分を作っていきました。各話の制作でも、プロットまでの段階はほとんど見里さんとの共同作業です。たとえば、第1話では「みんなが事故を起こして教習所へ行く」という部分までは見里さんで、「みんながどういう事故をおこすのか」という部分、つまり些細なことがつながって最終的にビルが倒れてしまうというところは私が、という感じでした。

見里さんのエンジンを使って私が走る

――小野監督が見里さんと対談している動画で「見里さんの世界観を保つことを意識している」という発言がありましたが、具体的にはどういった点を大切にしていますか?
小野 たとえば、思考回路のような部分でしょうか。ベースに優しさがありつつも、だからこそ際立ってくる人間の愚かさや冷たさのようなものが、この物語の中にあると思うんです。

――たしかにその印象はあります。
小野 それから、画面としての「てんやわんや感」というか盛り上がりみたいなものを、見里さんは大事にしていらっしゃるんです。たとえば、カーチェイスのシーンなどで、アクション映画のような構図や演技を、かわいらしい世界観の中にぶち込んでくる大胆さがありますよね(笑)。日常から非日常へ突然飛び込むのだけれど、見ていると違和感なく引き込まれる。そういうスピード感であるとか、山あり谷ありの感じは、非常に見里さんらしいなと思います。

――そうした部分は、新シリーズにも引き継がれていると。
小野 見里さんがくださったアドバイスがあるんですよ。「モルカーは大切にしている作品だけど、だからといって、ただ言うことを聞いて同じようなものを作ろうとするのでは、決して面白くはならない……」というのを何回もおっしゃってくださいました。だから見里さんの夢やビジョンをエンジンにして、血肉の部分には私が持っているものをぶち込みながら走ってきた感じです。

一歩先へと進んだモルカーを見てほしい

――今作では教習所が舞台になったことで、シチュエーションが固定される面もある思うのですが、ストーリー作りにも影響はありましたか?
小野 見里さんがやりたいイメージの中に、もっといろいろな場所へ行ってほしいというのがあったので、教習所を出て行く話も用意しました。だから場所が決まっているせいで苦労したという感覚はあまりないですね。むしろ同じ場所だからこそ愛着が湧くとか、そこに帰ってくるという演出ができるようになりましたし。

――ベースとなる場所があることで、逆に作品に広がりが出るようになったと。背景セットという部分ではいかがでしょう。
小野 第1期の作り方は、カットに合わせて、パズルのようにビルを置き換える形だったと見里さんから伺っています。今回は同じ場所で固定されているので、小学校みたいな現場感を演出できるように作りましたね。

――この記事が掲載された時点では、第2話まで放送されています。それぞれの回に込めた思いなどを教えてください。
小野 第1話は、新シリーズがスタートするためのエネルギーとなる部分なので、見里さんとも入念に打ち合わせを重ねて、練り込んだ回です。日常から非日常へといつの間にか引きずり込まれる見里さんの魔法を、かなり反映できたかなと思うので、そこを楽しんでいただきたいなと。

――第2話は?
小野 こちらは教習所での日々の始まりになるため、ここがどういった場所で、このシリーズではどんなものを描いていくのかを伝える回になっています。ギャップを大事にしながら日常感も大切にした、第1話と第2話という感じですね。モルカーたちが、また元気にやっているところを見ていただければと思います。

――それでは最後に、新シリーズへの意気込みをお願いします。
小野 スーパーバイザーである見里さんのお力添えもあり、ベースからコンセプトまで突き詰めて作ることができました。今回もモルカーのかわいらしさを楽しんでいただけると同時に、新しい側面も広げることができたのではないかと思います。第1期からさらに進化した『モルカー』として、楽しんでいただければ幸いです。endmark

小野ハナ
おのはな 1986年生まれ。岩手県出身。東京藝術大学在学時からショートアニメーションを制作・発表。以降、多くの映画祭などで受賞を重ねる。2017年には自身の会社“UchuPeople”を立ち上げ、精力的な活動を展開している。
作品情報

毎週土曜日あさ7時より テレビ東京「イニミニマニモ」内にて放送中
放送終了後 あさ8時からは公式YouTubeで見逃し配信中

■『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 あらすじ
ある日、大騒動を起こしたポテトたちが連れてこられたのは…ドライビングスクール?!
まるでテーマパークのようなその場所で巻き起こる新しい出会い、ドライバーとの絆、試練…?
今度のモルカーはモルシティを飛び出して…? プイプイ!ワクワク!大暴走?!

■スタッフ情報
原案・スーパーバイザー: 見里朝希
監督: 小野ハナ(UchuPeople)

アニメーター: 小川翔大 高野 真 三宅敦子 垣内由加利
当真一茂 阿部靖子 小西茉莉花
美術: UchuPeople アトリエKOCKA パンタグラフ スタジオビンゴ
音楽: 小鷲翔太
音響: 小沼則義
声の出演(モルモット):つむぎ パイムータン

『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 ロングPV

  • ©見里朝希/PUI PUI モルカーDS製作委員会