ナディアはもう、本当にグーパンしたくなる!?
――『ふしきの海のナディア(以下、ナディア)』でハマったキャラクターというと誰になりますか?
錦織 年を取るとやっぱりサンソンとかハンソンがいいなあと思うんですけど、当時は……エレクトラさんかなあ(笑)。おねえさんキャラクターでもあり、女性の情念もあって、ネモ船長との関係性とか子供の目からは少し大人のドラマに見えていましたね。あとはマリーが好きでした。お話に軽さを加えていて、キャラクターとしてもいいんですけど『ナディア』はわりと演じている声優さんのパーソナリティというか個性がキャラクターを転がしていく、みたいなところがある。そういう意味でも、水谷(優子)さんが演じていたマリーは『ナディア』を象徴している感じがしますね。
田中 途中からは遊び出しているもんね(笑)。
錦織 たぶんネモ船長も、デザインから見ても最初はああいうキャラクターになるはずじゃなかったと思うんですよね。大塚(明夫)さんの叫び声とかに引っ張られて、どんどん体育会系に転がっていった感じがある(笑)。そこは面白かったですね。
田中 僕は、当時はとにかく「カッコいい大人が大好き!」みたいな感じだったので、ネモ船長やサンソンでしたね。だから女子はあんまりというか……。ナディアとかはもう、本当にグーパンしたくなるくらいの感じで。
錦織 中学生くらいだと、そうだよね(笑)。
田中 ざけんなよ、コイツ!みたいな(笑)。
錦織 昔は今ほど少女マンガが男の子の文化に入り込んでいなかったので、「女の子が好きだ」みたいな感じも出せなかったですからね。
田中 だから、ジャンがナディアの歌を唄う回があるじゃないですか。
錦織 「いとしのナディア」(第34回)ね。
田中 あの回なんかは、もう超絶お通夜ですよ(笑)。たとえナディアのいい止め絵があろうが「ふ~ん」って感じで。……と言いつつも、肌の面積の多さに惹かれる男子中学生ゴコロもあって、気になる存在ではあって。
錦織 赤い服の下は、下着っぽいのを身につけているしね(笑)。しかもアトランティスの話になると、裸になったりもするじゃないですか。NHKを見ているのに、やっぱりちょっと気まずい感じはありましたよね。まさか、そういうのが画面に出てくると思っていなかったから。
田中 そうそう。それこそ家族の食事時に見ていたりするわけで。第12回の水着に着替えるところとか、あのときは画面よりもまわりに誰がいるかのほうが気になっていました(笑)。
ギミックが多いメカがとにかく好きでした
――『ナディア』はメカもいろいろ出てきますが、好きなメカは何になりますか?
田中 どれも好きですけど、グラタンとか敵のガーフィッシュも含めて、ギミックが多いメカがとにかく好きでしたね。ノーチラス号にしても、やられたあとに「こんなところも分離できるの? ここにこんな機能がついていたの?」という箇所がどんどん出てきて(笑)。だからノーチラス号が活躍するところも好きだったんですけど、むしろノーチラス号が海に沈んでからのほうが何度も見ましたね。ネオ・アトランティスの空中戦艦にしても、リボルバー拳銃のシリンダーみたいなのがついていて……。
錦織 あれはスゴイよね。シリンダーから殲滅爆弾を落としていくんだけど、じつはシリンダー自体も大きい爆弾だった、っていう。あとモロU字磁石のスーパーキャッチ光線(笑)。
田中 『ナディア』以降、ああいうものが見たくてメカものを見ていた感じはありましたね。何かあったときに「いろいろ分離してくれないかな」みたいな(笑)。そういう欲求の気持ちよさを教えてくれたのが、『ナディア』だったと思います。
――具体的なシーンがいくつも挙がってはいますが、あらためて好きなエピソードというと何になりますか?
錦織 中盤の「さよなら…ノーチラス号」(第21回)から「裏切りのエレクトラ」(第22回)のあたり、それから「ブルーウォーターの秘密」(第35回)以降は、ことあるごとに見てしまいます。あとはグラタンが活躍する回とか、活劇っぽい雰囲気が強いエピソードは勢いがあって好きですね。グランディス一味の話が好きなのかもしれないですけど、『ナディア』の中ではちょっと軽快な話というか、大きい話の流れのなかで小さい集団が活躍するエピソードが好きなのかな、って。
田中 僕はさっきのメカの話とも絡むんですけど、グラタン2号の話がすごく好きなんですよ(第30回「地底の迷路」)。アニメであんなに腹を抱えて笑ったのは、あの回が初めてで。とにかくサンソンが叫んでいて「道なんてものは、俺様の通ったあとにできるものだ!」って。あのセリフにとにかくシビれました(笑)。
――樋口(真嗣)さんのコンテ回ですね。
田中 なんというか、悪ノリで遊んでいる感じがすごく楽しそうというか(笑)。メカ的なものも含めて、やっちゃいけないことにギリギリ踏み込んで遊んでいる感じがあったんですよね。「ああ、こういうことで笑っていいんだ」みたいな場面がいくつかあって、そのうちのひとつとして印象に残っています。
ガチャガチャしている中にもたくさんのアイデアが入っている
錦織 さっき田中さんの話に出てきた「いとしのナディア」(第34回)なんかは、一度上がってきた脚本やコンテをまったく使わずに、PVものとして構成し直したそうですね。そんなこと普通はできないじゃないですか。スケジュールも限られているなかで編集だけでも大変なのに……。
田中 あれはあれで頭を使いますよね。
錦織 そうそう。総集編だからといって楽をしているわけじゃない。追い詰められた状況のなかで、こういう方法を選んで作り切るところはスゴイなあと、大人になってから見ると思いますよね。当時はただ楽しく見ていて――ちゃんとミュージックビデオっぽくなっているから、すごく好きな回なんですけど。『ナディア』にはそういういろいろな回があるというか、制作上の都合なり、参加しているスタッフの個性なりがあって、ガチャガチャしている中にもたくさんのアイデアが入っている。そのあたりはあらためて見てもスゴイなって思いますね。
――バラエティ感が強いですよね。田中さんは大人になってから見直したりしましたか?
田中 けっこう前になるんですけど、DVD-BOXが出たときに買って、久しぶりに見返しました。面白いのは、シリーズが進むにつれて筆がノッてくるというか、いい絵になっていく感じがあるんですよね。これがTVシリーズを作るっていうことなのか、みたいなのは感じました。絵って、どんどん変わっていくもんなんだなあ、って。
錦織 とはいえ、記号がしっかりしているから、『ナディア』ってあまり絵がブレている感じはしないですよね。ナディア自身のキャラクターはずっとブレているんですけど(笑)。
田中 まあ、ブレていること自体がナディアのキャラクター、みたいなところはあるよね(笑)。とりあえず、女の子は不思議な存在、みたいな。実際に、どこまで狙ってああなったのかはよくわからないところですけど。
錦織 今となっては普通な気がするんですけど、当時はあのわがままな女の子を許す男の子っていう存在自体、珍しかったよね。どうしてジャンは怒らないんだろう?みたいな。
田中 思った思った。だって急に癇癪を起こすじゃない。なんで急に怒ってるの、そこで?って。
錦織 そうなんだよね(笑)。
――素直な男子中学生の意見って感じがします(笑)。
田中 そうそう。だから女の子のことを全然知らないピュアな自分がそこにいたな、って感じがしますね(笑)。ところで『ダーリン・イン・ザ・フランキス』には、サンソン役の堀内賢雄さんに出演していただいたんですよね(フランクス博士役)。自分が参加する作品に賢雄さんが出ているっていうのは、なんか胸熱な感じがありました。
錦織 あとはエレクトラ役の井上喜久子さんにも、少しだけ出ていただいて。
田中 そうそう。キャスティングを決めるときに、どういう声優さんにお願いしたいかって話をしたんですよね。で、「喜久子さんに出てもらえないかな」とか。
錦織 そういう点でも、『ナディア』は僕らの共通体験なんですよね。
- 田中将賀
- たなかまさよし 1976年生まれ。広島県出身。原画、作画監督、キャラクターデザインと幅広く活躍するアニメーター。キャラクターデザインを務めた代表作は『家庭教師ヒットマンREBORN!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』『空の青さを知る人よ』など多数。
- 錦織敦史
- にしごりあつし 1978年生まれ、鳥取県出身。アニメーター・監督。2011年放送の『THE IDOLM@STER』で初監督を務めた後、初のオリジナル作品『ダーリン・イン・ザ・フランキス』を発表(2018年)。最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にも総作画監督として参加している。