Febri TALK 2021.11.24 │ 12:00

神前暁 作曲家/編曲家/音楽プロデューサー

②アニメ沼にハマった
『ふしぎの海のナディア』

『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズや『〈物語〉シリーズ』など、数多くのヒット作品で音楽を担当する作曲家・神前暁が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の2本目は、庵野秀明監督やガイナックスなど、クリエイターやスタジオの名前を意識したきっかけの『ふしぎの海のナディア』。

取材・文/岡本大介

「人間vs神」が織りなす 深い人間ドラマに感動

――『ふしぎの海のナディア』の放送当時は、神前さんは高校生ですね。
神前 たしか高校1年生だったと思います。NHKのこの枠のアニメはずっと見ていたので、その流れで視聴しました。最初は世界名作劇場のようなちょっと牧歌的な雰囲気で始まったので、そういう感じかと思っていたらすっかりダマされました(笑)。

――1本目で挙げた『トップをねらえ!』と同じく庵野秀明監督で、こちらも本格的なSF作品です。
神前 僕の場合はこの作品を見たことで初めてクリエイターの名前に興味を持つようになったんです。調べてみたら中学生のときに見て衝撃を受けた『トップをねらえ!』と同じ監督さんで、どちらもガイナックス制作ということもわかって。これはすごいクリエイターとスタジオがあるぞと思い、さかのぼって『王立宇宙軍 オネアミスの翼』も見ました。

――『ふしぎの海のナディア』に関してはどんなところが面白かったですか?
神前 ナディアやジャン君をはじめ、ネモ船長やエレクトラさん、敵のガーゴイルに至るまで、キャラクターたちの複雑な人間ドラマがとても好きでした。それと同時に世界の真相もしだいに明らかになっていくじゃないですか。人間ドラマとSF設定のシンクロが絶妙で、全体としてすごくワクワクしながら見ていました。

――グランディス一味など、本筋には絡まないキャラクターもみんな個性的でしたね。
神前 グランディス一味なんて最初は完全にタイムボカンシリーズの三悪だったのに、それがあそこまで活躍することになるんですから(笑)。たしかにどのキャラクターもみんな魅力的でしたね。

――とくに好きなキャラクターはいましたか?
神前 サンソンが好きでしたね。キザでダンディなんだけどムードメーカー的存在でもあって、最後にはマリーと結婚までしてしまう。『新世紀エヴァンゲリオン』でいうところの加持リョウジっぽいんですよね。それでいうとネモ船長は碇ゲンドウですし、彼に恋心を抱くエレクトラさんは赤木リツコなんですよね。このふたりのドロドロした大人の恋愛関係は、そのまま『エヴァ』に継承されていると思います。

――エレクトラのネモ船長に対する感情は、愛してもいるし憎んでもいる、まさに愛憎入り混じった感情ですよね。
神前 エレクトラさんがネモ船長の子供を身ごもっているのにはビックリしました。高校生だった当時の僕には、ふたりの関係は正確には理解できていなかったと思います。

――主人公のナディアに関しては、どんな印象をお持ちですか?
神前 ナディアはとても面倒くさい人なんですけど、振り回される感じが男の子にとっては楽しい気もしますし、僕自身も当時はすごく魅力を感じました。先ほどの『エヴァ』への置き換えでいえばアスカでしょうか? たしかに僕は『エヴァ』ではアスカ派だったので、当時はアクティブなヒロインが好きだったんでしょうね。今思うと「どこが良かったんだろう?」って感じですけど(笑)。

ナディアはとても

面倒くさい人なんですけど

当時はすごく魅力を感じました

――世界観やメカニック的な視点ではいかがですか?
神前 『トップをねらえ!』が「人類vs物理学」の話だとすれば、『ナディア』は『エヴァ』と同じく「人類vs神」の話なんですよね。『ナディア』では自分たちを作った存在への畏れみたいなものも描かれていて、そこは高校生ながらすごいなと感動しました。メカニックに関しては、本作には『トップをねらえ!』に登場するヱクセリヲンやヱルトリウムといった宇宙船の名前がたくさん登場するので、まずはそういうところでオタク心がビンビン刺激されました。「裏設定としてふたつの世界はつながっているんじゃないか?」とか、オタク友達と盛り上がっていました。それに個人的にはロボットよりも宇宙船や戦艦のほうに萌えるタイプなので、そこも興奮しましたね。

――とくにお気に入りのシーンなどはありますか?
神前 第36話から最終話までの4話が好きですね。一気にギアチェンジした感じで、N-ノーチラス号の怒涛の反撃はなんとも言えないカタルシスを感じます。いろいろな要素がギュッと凝縮されている最高のクライマックスだと思います。

――劇伴は鷺巣詩郎(さぎすしろう)さんですが、音楽面の印象はいかがでしたか?
神前 僕からすると、鷺巣先生は人間とは思えないほどの天才ですね。田中公平先生が「陽」の頂点とするなら、鷺巣先生は「陰」の頂点といいますか。とくにネオ・アトランティス側の楽曲群は、ガーゴイルのテーマ曲(「ガーゴイル」)をはじめ、聞いていて本能的な恐れの感情を喚起させます。

――わかります。ゾクゾクする感じですね。
神前 でも、それでいてとても美しいんです。圧倒的に振り切った感性と天才的な発想力に加えて、難解かつ技巧的でもあって。あのようなダークで危険な雰囲気の楽曲は僕にはとても作れないなと思いつつも、だからこそ強烈に憧れる気持ちもあるんです。

――いちばん好きな楽曲は何になりますか?
神前 なかなか決められないですが、敵の原子振動砲でノーチラス号が絶体絶命に陥った時の曲(「バベルの光」)はすごく好きですね。この曲はのちに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』でも使われているんですけど、そういうところもオタク的には胸アツでポイントが高いです。endmark

KATARIBE Profile

神前暁

神前暁

作曲家/編曲家/音楽プロデューサー

こうさきさとる 1974年生まれ。大阪府出身。大学卒業後、ナムコ(現バンダイナムコスタジオ)を経て、2005年にMONACA(モナカ)に所属。主題歌や劇伴を担当したアニメは『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、『らき☆すた』、『〈物語〉シリーズ』、『WORKING!!』『STAR DRIVER 輝きのタクト』『Fate/EXTRA Last Encore』『BEASTARS』など多数。実写映画やアーティストへの楽曲提供など、活躍は多岐にわたっている。

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