全キャラ中、かなは感情の切り替えがいちばん難しい
――『【推しの子】』では、キャラクターそれぞれの演技もハマっているように思いました。演技におけるディレクションでこだわった部分はありますか?
平牧 感情の切り替えが速く、振り幅が大きい作品なので、切り替えが難しい部分はありました。そこは気をつけつつ……たとえば、会話のテンポ感にしても、退屈しないように考えました。
――たとえば、第6話~第7話で見せる黒川あかねの演技なども、繊細さの中に見える芯の強さが、のちの彼女の存在感につながっていくと感じました。
平牧 石見(舞菜香)さんはお上手ですし、彼女がアイ化するのは原作を読めば把握できることなので、物語の展開も含めてあまり細かいことは言いませんでした。「もうちょっと明るく」などの調整をお願いしたくらいですね。それは有馬役の潘(めぐみ)さんもMEMちょ役の大久保(瑠美)さんも同じです。オーディションのときに皆さんの声の特徴とキャラクター性を考えて選んでいるので、想定から外れることはなかったです。それでも、有馬かなは難しかったと思いますが――。
――芸能界を視聴者に説明するようなポジションでありながら、感情の振り幅も広いですよね。
平牧 感情の振り幅があそこまで広いと、一般的な演技論では対応できないんです。先ほど感情の切り替えが難しい作品と話しましたが、全キャラクターの中でもかながいちばんですね。たとえば、テンションが上がると声のトーン高くなるので、必然的にかわいく聞こえるのですが、かなはかわいく聞こえないように調整してもらいました。これはアカ先生のこだわりでもあります。他にも、かわいく話していたかと思えばいきなり声を沈めるということもあって。最初のうちは、そうした声のトーンとかわいらしさの関係性を突き詰めていきましたが、今はもう有馬かな=潘さんなので、おまかせしています。
――ルビー役の伊駒ゆりえさんも、そのあたりのディレクションは丁寧に行ったのでしょうか?
平牧 いや、伊駒さんはもうオーディションの段階から「ルビーだね」とスタッフの中で意見が一致していました。演技もうまいですし……本人に迷いや疑問があったときに、こちらでフォローすればいいだけでした。
――第1話で高橋李依さんが演じた、アイが事切れるシーンのアフレコには、別収録だった伊駒さんと大塚剛央さんが見学にきたそうですね。これはそういう要望を出したのでしょうか?
平牧 いや、あれは本人たちの意思です。伊駒さんと大塚さんが、あの場面の高橋さんの演技を聞いておく、ということは役者としては正しいことだと思います。アイが死んでしまうシーンに居合わせるということが土台にあってアクアとルビーは成長していくので、いないとおかしいですよね。それが言わずとも伝わる現場だったということも含めて、役者やスタッフたちがみんな同じ方向を向いていたと言えるかもしれません。
――そこは原作の力や、プロデューサーたちの力が大きかったのでしょうか?
平牧 当然ながら、みんな原作が好きだから同じ方向を向いたというのもありますが、これは狙ってできるものではないですし、僕の力でもないです。ひと言で言えば、運です(笑)。もちろん、監督として計算はしますが、個々の意識が自然と揃っていくのは強制できないことなので。
原作の時事的なエピソードをアニメで描く意味
――第1期が終了し、第2期の制作が発表されましたが、この先を楽しむためのヒントを教えてください。
平牧 すでに第2期の制作を進めている最中ですが、もし、先の物語を知りたいのであれば原作を買って読んでいただければうれしいですし、アニメだけで追いたいという方は、読まないほうが楽しめると思います。アニメを制作している側としては、原作も相乗効果で盛り上がって、売上も伸びてもらえばそれに越したことはないので、たとえば今のうちにマンガを買っておいていただいて、アニメでそのエピソードが放送されたら読む、というのもひとつの手かもしれません(笑)。アニメとマンガを同時に堪能できると、より深く楽しめると思います。
――原作とアニメのタイムラグをどのように楽しむかもひとつの醍醐味になるかもしれませんね。
平牧 『【推しの子】』の原作は、時事的な問題をリアルタイムで取り入れているところがあると思います。たとえば、あかねに起きた炎上も、今だったらあそこまでならないと思うんですよ。
――たしかに、ああいう追い詰め方にはならないかもしれません。
平牧 アニメで描かれているSNSの空気は今とは少し違うけれども、「こういうことがあったよね」という意識自体は視聴者の根底にあるはずなんです。なので、少し時期がずれているアニメがもう一度それを描くことで、原作よりも落ち着いた心境で見られる部分はあると思います。
――なるほど。
平牧 この先も原作通りの展開が続いていくなかで、群像劇としてどのように展開していくかを見ていただけると面白いのかなと思います。
――そこには芸能界の裏側や闇だけじゃなくて、希望を映していきたいという思いはありますか?
平牧 原作の段階で希望は入っていますからね。裏側や闇も……描きたくて描いているわけではなく、実際にこういうことがあったけれども「嫌だよね」という拒絶する気持ちは一貫しています。だから、闇を暴いてやろうと喧嘩を売っているわけではありません。映画でもドラマでも、芸能界の裏側を描くときにはどうしても闇がつきまといますし、そこを描いたほうが盛り上がるのは間違いない。ただ、僕たちがいるアニメ業界に置き換えてみても、芸能界同様、ちゃんとした人じゃないと生き残っていませんから。そこは、現実と『【推しの子】』の世界が明確に違う部分だと感じているので、作り手としても安心感を持ちながら制作できているところではありますね。
- 平牧大輔
- ひらまきだいすけ アニメ監督、演出家。監督作に『私に天使が舞い降りた!』『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』などがある。
TVアニメ【推しの子】
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INTRODUCTION
「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」 地方都市で働く産婦人科医・ゴロー。 ある日”推し”のアイドル「B小町」のアイが彼の前に現れた。 彼女はある禁断の秘密を抱えており…。 そんな二人の”最悪”の出会いから、運命が動き出していく―。
STAFF
原作:赤坂アカ×横槍メンゴ(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載) 監督:平牧大輔 助監督:猫富ちゃお シリーズ構成:田中 仁 キャラクターデザイン:平山寛菜 アニメーション制作:動画工房
CAST
アイ:高橋李依 アクア:大塚剛央 ルビー:伊駒ゆりえ 有馬かな:潘めぐみ 黒川あかね:石見舞菜香 MEMちょ:大久保瑠美 ゴロー:伊東健人 さりな:高柳知葉 アクア(幼少期):内山夕実
- ©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会