コロナでイベント中止……推しに会えない!
コロナ禍でもっとも打撃を受けたのは、ライブや舞台など大勢が集まるステージものでした。さまざまなステージが延期になり、特に声優、アイドル、2.5次元キャストなど「実在の推し」を持つファンの活動は困難を極めました。実在の推しを持つ女子・カツオさん(仮名)もそのひとりです。カツオさんの推しは2.5次元俳優とアニメやゲームなどの声優も務めるキャスト。「推しは2020年2月末に舞台があったのですが、公演期間の途中から客降り(※1)がなくなって、そのあとに公演自体が打ち切られ、本来の千秋楽の日までたどり着けなかったんです。つい2カ月前のステージでは「ファンサ(※2)」ももらえていたのにショックでした。それ以降も公演がいくつも延期や中止になり、チケットの払い戻しも4~5回ありました」(カツオさん)
- ※1 きゃくおり。キャストが客席通路を歩くなどの演出。
※2 特定のファンに向けて、目を合わせたり、ポーズやハイタッチなどのコンタクトを取ってくれること。ファンは推しにしてほしいこと(「こっち見て」など)をうちわに書いたりする人も多い。
会えない推しに途切れぬ応援
「2.5次元系のジャンルは、チェキ会、握手会とかの小規模イベントもあって、キャストとファンの距離が近いのが醍醐味。だけどコロナのせいで、推しと直接会うイベントは全部なくなってしまいました。推し自身も、ファンと会えないことでメンタル面に影響が出ていないかと心配になりました」(カツオさん)。推しのメンタルやお仕事を心配するカツオさん。ステージがないので、「お預かりプレゼントボックス」にお手紙を入れることもできなくなったそうです。そんな時期に始まったのが、推しの(SNSを利用した)動画配信。「推しの配信が始まって、事務所にお手紙を送るようにしました。配信があったら必ず見て、その感想を必ず書く。レターセットがめちゃくちゃ減りました! お手紙を送るのは、事務所に対しても『推しには熱心なファンがついているぞ~』というアピールにもなると思うんです(笑)。クラウドファンディングにもお金を投じました」(カツオさん)。8月は久々に舞台公演があり、推しを生で見られた喜びはひとしおだったそうです!
忘れかけた日常の楽しさを思い出す推しの配信
さて、私のように2次元キャラクターを推す人も、声優さんによる作品イベントがなくなってしまい「現場」を失った喪失感は同様でした。とくに1回目の緊急事態宣言が発出した2020年4月から5月末までは、家からほとんど出られない日々を過ごしました。落ち込みがちな日々のなかで、希望の光は「推しの動画」! パッケージを買ったままの状態になっていた「積Blu-ray」をようやく開封。テレビや配信で流れる過去映像も拝むように視聴しました。各コンテンツ会社さんが、キャストのステージ映像を無料で流してくださったのが、本当にうれしくありがたい思いでした。そして声優さんによる配信! 昨年2月29日には私の推し声優さんが、スタジオからオンラインライブを世界配信。海外ファンからのコメントもあり、胸が熱くなりました。5月9日には、神企画「声優パジャマ会議」(AbemaTVにて配信)の第1弾があり、男性声優さんがZoomごしに自室からパジャマ姿で勢ぞろい! 彼らのわちゃわちゃした様子に、忘れかけていた日常の楽しさが感じられて、私も含めて見ていたファンは心が癒やされたと思います。私と友人も、「Zoom推し鑑賞会」をしようということになりました。どんな鑑賞会かというと、「公式が生配信する舞台動画を、各自自宅で同時視聴しながらZoomで応援上映的なコールをする」というものです。この企画はとても楽しかったのですが、以下が今後の課題となりました。
①つい推しの挙動に見入ってしまい無言になり、だんだんペンライトを振らなくなる
②「動画の視聴」「応援コール」「ペンライトの色替え」を3つ同時に2時間52分も続けると、脳の処理能力が追いつかず、PCなどのシステムよりも人間が先にダウンする
オンライン会議でも疲れるのだから、応援とペンライトを同時にやるのは相当疲れますね……!
オンライン推し会の意外なメリット
オンラインではもうひとつ大きな企画に参加しました。私は「メガネ男子萌え学会」というイベントを主宰しているのですが、学会運営スタッフの方が「推しを語り、プレゼンする会」を設けてくれたのです。題して「#メガネ男子萌え学会分科会 #マンガ読書会」。推しのプレゼン資料をPDFで作成し、Zoomで発表する会です。オンライン会議ツールは、リアル会場と同様に、スライドの画面共有ができるのがありがたし!
メガネ男子萌え学会分科会のプレゼン資料(写真提供 「メガネ男子萌え学会」みしんさん)
以前から学会員からのニーズが高かったオンラインでのイベントですが、ここにきてようやく実現することができました。うれしかったのは、海外在住のスタッフが参加できたことです。リアルトークイベントでは「遠方の参加希望者が来られない」という課題が大きいと思うのですが、オンラインなら、遠方でもみんなと同じ条件で参加が叶います。とはいえ、14時間も時差のある国に住む彼女は、「すみません、そろそろ限界です」と挙手して寝落ちしました。時差だけはどうしようもないですね……(笑)。
リアルの推し鑑賞会はやっぱり最高
6月から再び外出できるようになりました。2カ月ぶりにようやく会えた友達とは、推しの映像をカラオケ屋さんで見る「推し鑑賞会」をしました。リアル、やっぱ、最高! 大画面で歌う推し! キラキラしたペンライトと、キラキラした推し! マスクをしていても、広々とした空間で友達とペンライトを振るだけでブチ上がります!
マスクをつけたまま、ペンライトで応援する推し鑑賞会(写真提供 渡辺由美子)
じつはペンライトを持参するのを忘れてしまったのですが、カラオケ屋さんが無料で貸し出してくれました。そのほかにも、タンバリンなどのグッズ貸し出しもあり、店員さんも手慣れている様子でした。もしかして、カラオケ屋さんでは「鑑賞会」のニーズが増えている……?
「現場ロス」になったファンの願いを叶えた鑑賞会
アニメファンに人気の「カラオケパセラ」でも、鑑賞会に力を入れていました。パセラを運営する株式会社ニュートン営業推進室・緑川勝太さんにお話をうかがいました。「自粛期間が明けても『カラオケ』は引き続き休業要請の対象でした。加えて世の中の流れとして、大勢での集まりを控えるようになりました。そのため弊社でもカラオケ以外のコンテンツに注力することとなりました。鑑賞会もそのひとつです」(緑川さん)。もともとカラオケルームは大音量が出せる防音の個室空間。「以前から、全店舗で大画面のモニターやプロジェクタースクリーン、DVD&Blu-rayデッキを完備しており、鑑賞会としてのご利用がありましたので、お客様の「まわりを気にせず大きな音量で鑑賞したい!」というご要望に更にお応えできるよう、コンテンツの充実を図りました。営業を再開してからも、コロナ対策を入念に行っています」(緑川さん)。「鑑賞会」の流行は、「現場ロス」になった私たちと、声を出すカラオケが難しくなったカラオケ屋さんの願いが合致したものだったのです。
推しを表わす究極の概念「推しカラー」
パセラさんの鑑賞会には「推し会プラン」もあるとのことでした。「推し会プランを設けたのは、鑑賞会としてルームを使用しているお客様から、ペンライトの貸出希望や『パセラのハニトー』(パンをケーキのように装飾したもの)、ドリンクなどで『色』のリクエストが相次いだからです。アイドルやキャラクターには、メンバーやグループごとに『担当カラー』が割り振られているケースがあり、アーティストへの気持ちが強いお客様のために、『推しカラー』を前面に出したプランを作っていきました」(緑川さん)。「推し会」と言えば『色』へのこだわり……わかりみが深すぎる。最近のアニメ作品では「アイドルもの」以外でもキャラごとに担当カラーがあって、公式が出す缶バッジなどでも、各キャラの担当カラーが使われていたりします。色こそが推しを表す「究極概念」。ほかにもパセラの「推し会プラン」には「尊いボタン」という機材もあるとか。ボタンを押すと、\尊い!/\ここ好き~!/などの女性、男性のボイスが流れるようになっています。
尊いボタン(写真提供 株式会社ニュートン)
「お客様からは『推し』へのあふれる気持ちを体現したり、ライブに参加している気分になる演出へのご要望が多く、店舗スタッフのアイデアで、推しへの思いを代弁するツールとして『尊いボタン』を導入に至りました」(緑川さん)。大きな声が出せない今の私たちの代わりに、声を出してくれるアイテムはありがたいですね!
空間へのこだわりが「祭壇」を生む
そもそも推し会プランを使うお客さんは、男女どちらが多いのでしょうか? 「どの店舗でも圧倒的に女性のお客様です。お持ちのグッズを並べて飾りつけし、空間を活かした楽しみをされる方が多い印象です」(緑川さん)。持ち寄ったグッズで空間をデコる……こちらもわかりみが深い! たしかに我々は、自室でもコラボカフェのテーブルでも、推しのグッズを「祭壇」みたいに飾ります。「推し会プラン」にバルーン装飾があるのもそのためだそう。ちなみに取材後、個人でパセラさんに行ったところ、「マイデコキットハニトー祭壇」という、お客さんが自分で推しの祭壇を作るアクリルテーブルのレンタルも始まっていました。じつは、コロナで家にいる時間がとても増えたので、自宅でもこれまで集めたグッズを使った祭壇作りがはかどっています。パセラでもそうしたお客さんのために「おうちで推し会」という通販サービスを始めたそうです。ケーキの色は11種類(!)。ドリンク用のシロップは4色ですが、「自分で調合して推し色を作ろう」というコンセプトは、ふだん「推し色が微妙なニュアンスの色で、既製品のグッズがなかなか売っていない」という人にも喜ばれそうです。
通販サービス「おうちで推し会」で販売されているケーキ(写真提供 株式会社ニュートン)
オタクはオタクを鑑賞したい!
さて、首都圏では今年1月7日より二度目の緊急事態宣言が発出、自宅に籠もる日々が続いています(3月13日時点)。そんななか、1月には推しアニメ作品で「Zoom応援上映会」が行われました。映画館で声を出す応援上映ができなくなって、まる1年経ってしまいましたが、公式の粋な計らいにより全国のファンがオンラインで集結! ディスプレイには、アニメ本編映像のまわりに私たちファンも映し出され、何百人のファンが交互に画面に現れる仕様になっていました。自宅でグッズに囲まれている人もいれば、推しキャラのコスプレの人もいる。いつもは暗い映画館のなかで、声は聞こえど姿は見えずだったファンが、こんなにいるんだと胸が熱くなりました。応援コールも各地域の映画館ごとに違うので、関西のイントネーションで聞いたことがないコールも聞こえてきます。全国に散らばっているファンの、特色ある応援コールを初めて聞くことができました。応援上映的に一番映え(ばえ)ていたのは、作品内のおじさんキャラクターと同じ動きをして、スマホを割る真似をしていた男性ファンでした(笑)。やっぱり現場は最高です。みんな、推しを見たいだけでなく、まわりのお客さん=オタクが楽しそうな様子も見たいのでは!? 楽しそうなオタクを見ると、自分も楽しくなる。オンラインでの「オタクの鑑賞会」は、コロナが収束しても定期的に開催されることを願っています。