TOPICS 2024.01.26 │ 18:00

日常×麻雀アニメ
『ぽんのみち』誕生秘話をプロデューサーが語る!

現在放送中の『ぽんのみち』は、広島県・尾道を舞台に女子高生たちがゆるく麻雀を楽しむ日常系アニメだ。キャラクター原案を『五等分の花嫁』で知られる春場ねぎが手がけたことや、講談社による初のアニメオリジナル作品ということでも注目を集めているが、なぜ「日常系で麻雀」という異色のジャンルを選択したのか? 企画の成り立ちや制作の舞台裏を、プロデューサーの立石謙介に聞いた。

取材・文/本澤 徹

「箱庭型の日常系」に「麻雀」をプラスした

――講談社がコミック原作ではないアニメを作るにあたって、「日常系×麻雀」というジャンルを選んだ理由をお願いします。
立石 以前から、講談社のコミックにあまりないジャンルをアニメオリジナルでやってみたくて、その条件に当てはまるものとして、いわゆる「日常系」はどうだろうと思っていたんです。そんな話を『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』の打ち上げでしたら、1週間後くらいに打ち上げで一緒だったMBSの亀井さんから「あの話、やりませんか?」という連絡をいただけたので、企画がスタートしました。
――日常系が、麻雀より先にあったんですね。
立石 そうです。麻雀を軸にしたのは箱庭型、つまり外部の干渉がない限られた空間の中で物語が進むという方向を考えていたので、その範囲内で何か盛り上がれるものが必要だったからです。
――麻雀作品としては、手牌作りなどの描写が少ないと感じますが、あくまでも日常の部分がメインという意識だからでしょうか?
立石 その通りで、特殊能力を見せたり、勝ち負けにこだわる話にするつもりは最初からありませんでした。「ただ何かをしているのが楽しい」という感じを出したくて、その「何か」に麻雀を持ってきたということです。あとは、麻雀のマンガってダークなものが多いので、明るく可愛い麻雀を軸に話を作ったら新しいかな、というのもありました。

――近年、明るく楽しく打つ麻雀がブームになっている印象ですが、そこは意識しましたか?
立石 企画が動き始めたのは3年くらい前で、当時は今ほど麻雀が話題になっていなかったので、完全に偶然です。時流にうまく乗れたというか、いい流れが来てくれたという感覚ですね。
――一方で、麻雀作品のオマージュやイカサマの紹介など、変化球的なネタはけっこう入っている印象です。
立石 「麻雀をやり始めの頃ってよくマンガの真似したりしますよね」という話題が出たことがあって、その感じを表現したくてオマージュの描き方になったのかなと思います。「中ビーム」とかもそうなんですけど、友達同士や家族で麻雀をしているときって、くだらないことというか変わったことをよくしている人が多かったです。最近は配信等でプロの対局とかを見られるので、真剣に麻雀をしている場面だけを見てきた人はあっけにとられると思いますが……(笑)。「みんなでくだらないことをしながら打つ麻雀も楽しい」という感覚を少しでも表現できればと思いました。
――あと麻雀ネタでは、アプリの『雀魂』がそのまま劇中に登場しますね。
立石 今の麻雀事情を調べると、4人が集まっていても、実際の牌は使わずアプリでやるのが主流みたいなんです。今回、登場人物も世界もリアリティを感じられるものにしたかったので、現実の潮流をストーリーに取り入れようかと。とはいえ、架空のアプリ画面をゼロから作るのは大変だし、実在のアプリを使えばリアリティが出るということで、『雀魂』さんにお話を持っていきました。

収録現場はリアル『ぽんのみち』!?

――リアリティ重視というのは、背景の描写にも表れていると思いますが、なぜ尾道を舞台に選んだのでしょう?
立石 作品の性格上、日常の風景がアニメ映えする場所が欲しかったというのが理由です。企画打ち合わせをしていたメンバーの中に旅行で尾道に行った人がいて、とても良かったという話をされていたので、調べてみたら映え要素もあってバッチリで。尾道は普通の街並みが絵になるし、海も山も近いから絵作りがしやすいんです。地元の方にはロケハンしながらご説明したのですが、心温かく受け入れていただけました。しかも、商店街や市役所が自主的に等身大パネルを置くなどして応援してくださって、本当に感謝しています。尾道市長に、なしこ役の前田(佳織里)さんと一緒に講談社を訪問していただくという企画まで実現することができました。
――『ぽんのみち』というタイトルは「尾道」とかけているんですよね?
立石 そうです。だから、麻雀のポンの発音で「ぽ↑ん↓のみち」ではなく、「ぽ↓ん↑のみち」が正解です(笑)。声優さんも、当初「ぽ↑ん↓のみち」と言っていて「すみません、尾道の発音なんです」というリテイクを出させていただきました。
――なしこが広島弁キャラですが、監修はどのように?
立石 監修というより今回は「等身大」ということを意識しました。まず、広島県で育ったという声優の孫悦さんに台本のセリフを読んでもらって、それを元に前田さんが勉強して収録に臨む、という段取りを取っています。孫さんなりの話し方を学ぶということで、前田さんは大変だったと思います。

――声優さんはどういう基準で選んだのでしょう?
立石 基本的には、僕らがイメージしているキャラクター像にハマることだけを基準にチョイスしました。あとは、こういう作品をやる以上、仲のいい収録現場になってほしかったので、年代が近い人で固めるといったことはある程度意識しました。実際の仲の良さとか空気感って、フィルムに出ると思うんですよね。結果、狙い通りになってくれたかと思います。たとえば、最初は前田さんだけが『雀魂』をやっていたんですけど、アフレコ後に他の声優さんもダウンロードして、その後もけっこうみんなでやっているという話がありまして……。
――リアル『ぽんのみち』ですね。
立石 そうそう(笑)。そういう風になってくれたのは、うれしかったですね。皆さんとてもよく役を理解してくれていてアフレコもスムーズでしたし、声優の皆さんには本当に感謝しています。
――チョンボ役に大塚明夫さんを当てているのが目を引きます。
立石 じつは当初、僕らが挙げた声優さんの候補に、大塚さんは入っていませんでした。でも、事務所を通じて候補者のやり取りをしていたら、送られてきたテープになぜか大塚さんが入っていたんです。話を聞いてみると、麻雀がお好きで、麻雀の作品と聞いて「出たい」と言ってくださったそうで。テープを聞いてみたらチョンボにぴったりだったので、お願いすることにしました。

気楽に見てキャラクターを愛でてほしい

――監督に『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』の南川達馬氏を起用したのは、先ほど言っていた打ち上げからの流れでしょうか?
立石 それもたしかにありますが、『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』のとき、すごく見やすいフィルムを作る方という印象を受けて、キャラを動かす日常系アニメは得意だろうと感じていたんです。あとは「(ご自身で)脚本を書く」と言っていただけたのも大きかったですね。監督と脚本が同じ人だと、作品のすべてを理解している人が全体を見るかたちになるので、やりたいことを表現しやすいんです。
―――キャラクター原案に『五等分の花嫁』の春場ねぎ先生を起用した理由もお願いします。
立石 当初は、オリジナル企画らしさを出すために講談社で連載していただいている作家さん以外から起用することも検討したのですが、議論を重ねた結果、僕らがこの作品にいちばん合うと感じるのは春場先生、という結論に達したんです。大変お忙しい中でしたが、先生がキャラクターデザインの仕事に興味があるということで、引き受けていただけました。原案以降のデザインはすべておまかせいただいたのですが、最初のPVが出たときに先生が「春場ねぎの絵だ」とツイートしてくださって、すごくホッとしました。

――原案をアニメのデザインに起こしているのは、大田謙治さんですね。
立石 キャラクター原案があるアニメでは、絵柄が似ているかどうかでデザイナーを選びがちなんですけど、日常系って、可愛い仕草や走り方などをうまく描けることが大事だと思うんです。そこを重視して、動かしたときの絵が抜群にいい大田さんにお願いしました。画力がある方なので、春場先生の絵にも近づけていただけて、思っていた以上にピタッとはまった感じがします。
――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
立石 「キャラクターをずっと見ていたい」という気持ちになってもらえれば、という思いで作っています。基本的には寝ころびながら気楽に見られる作品を目指していますし、そんなに心を揺さぶられることもなく落ち着いて見られる、見たあとですぐ眠りにつけるような作品だと思っていますので、未視聴の方も気軽にご視聴いただければと。あとは、これを機に麻雀に触れる人や、尾道に興味を持つ人が増えたらうれしいですね。尾道のプロモーションかな?と思うくらい、いろいろな場所やイベントも登場しますので。endmark

立石謙介
たていしけんすけ 講談社ライツ・メディアビジネス局アニメ・ゲーム事業部次長。『炎炎ノ消防隊』や『進撃の巨人』など、数多くの講談社作品の映像化(アニメ・実写)、商品化を手がけている。
作品情報

TVアニメ『ぽんのみち』
2024年1月からMBS/TBS/BS-TBS
“アニメイズム”枠、RCCにて放送中!

  • ©IIS-P/ぽんのみち製作委員会