TOPICS 2023.07.18 │ 12:01

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 最終回(前編)

最終回 これからのアムロ・レイ

これまでアムロ・レイを演じるということについて、さまざまな角度から追求・検証をしてきた。古谷徹はアムロ・レイと出会い、その成長を演じるなかで、何を得て何を失ったのか。最終回となる今回は、アムロ・レイの演じかたを総括しつつ、これからのアムロ・レイについても聞いていく。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

川村万梨阿さんとの対談でベルトーチカの印象が変わった

――いくつかの対談を経て、古谷さんがこれまで持っていた印象が変わったキャラクターはありますか?
古谷 自分が思っていたほどベルトーチカ・イルマというキャラクターが嫌いではないと気づけたことですかね。ベルトーチカを演じた川村万梨阿さんとあれだけ深くお話する機会もなかったから、彼女がどういう気持ちで役作りをしていたのか知らなかった。ベルトーチカの本質について彼女からあらためて聞かされたことで、ベルトーチカは損得だけでアムロに近づいたわけではなく、純粋に恋焦がれていたのかと。そういう女性であると知って、正直好きになりましたね(笑)。それまでなんで嫌っていたのかなというくらい、印象が変わったキャラクターです。

以前にもお話したとおり、『Ζガンダム』の当時はズケズケと人の心に踏み込んでくるベルトーチカが嫌いだった。でも、そんな気分ではダメだと思って、後の新訳劇場版では心を入れ替えて臨んだわけです。まず万梨阿ちゃんを好きになろうと考えたし、自分からのアプローチも変えようと考えた。でも、それでも僕はベルトーチカの本質を理解していなかったんですよ。だから自分の気持ちを強引に整えようとしたんだけれど、今回の対談でベルトーチカの本質についてお話ができたことで自然にそのキャラクターを好きになることができました。

『Ζガンダム』時代のアムロにとって必要な女性だというのは頭では理解していたつもりでしたが、それ以上にアムロはベルトーチカに心惹かれていたことを理解できたように思います。理解というよりは、納得できたというほうがより正確かもしれない。アムロ・レイを演じるということを40年以上も続けてきて、アムロについてはわかりきっているという自負があったんだけれど、こうやって新しい発見や理解があると「自分もこんな程度なのか、浅はかだったな」と思います。もちろん、僕がベルトーチカを演じているわけじゃないからそこまでの深堀りはしないんだけれど、役を演じることに対してもっと疑いを持たなければダメだと痛感しました。まだまだだね、僕も(笑)。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。