――神谷さんも『キン肉マン』や『シティーハンター』などで明るい演技をしていますが、それまでは王道のヒーローキャラが多かったですね。
古谷　たしかにそうですね。僕の場合は『ストップ!! ひばりくん！』（1983年）の坂本耕作役くらいかなあ。あとは『ハイスクール！奇面組』（1985年）の春曲鈍とか……。ただ、そういうギャグアニメでも「本人は一生懸命やっているのに、傍（はた）から見たら面白い」という役割だったから、キャラクター自体が崩れた芝居をするようなことはなかった。古川さんは舞台をやっていらしたから、いろいろな役を演じた経験がおありですよね。そういう経験が活かされている、ということもあるんじゃないですか？

古川　爺さんの役から何からいろいろな役を演じ分けてナンボみたいな世界でしたから、舞台演技の経験は大きな影響があるでしょうね。だからそういう意味でも、カイは演じやすいキャラクターではありました。むしろ『ガ・キーン』の主人公のほうがやりにくかった。今見ると恥ずかしいんだけれど、すごく低い声で演じているんです。つまり、少年の声の出し方がわかっていなかったんでしょうね。それに比べると、カイは地声よりも少し高い声質で演じているような感じです。僕の場合、ピッコロ（『ドラゴンボール』）みたいな低い声だけの役は難しい。低くて良い声の声優さんは他にいくらでもいらっしゃるのに、なんで僕なのかなと思いました（笑）。

――TVシリーズの放送終了後、すぐに『機動戦士ガンダム』の劇場版が始まります。
古川　劇場版のときはそれほど時間もあいていなかったから、演技そのものについて考えることはなかったです。そのあと『特別版』で再録したときのほうが、当時の演技を再現できるだろうかと考えましたが、声質そのものは大きく変化していなかったから、そこまでは不安でもなかったかな。
――当時の収録現場での思い出などがあれば、ぜひ聞かせてください。
古川　休憩時間には先輩方ともお話ししましたけれど、永井一郎さんは飄々として素敵な方でした。京都大学出身の秀才ですから、演技論を話しても「ベクトルがね……」とか難しい言葉を使う反面、街をブラブラ歩いているときには「なんぞエエことないかいな～」なんて口ずさんだりね（笑）。スタジオでもスキーのフォームを練習したりしていたな。
古谷　スキーは僕もよくご一緒させていただきました。あとはフラメンコギターがお上手だったり、油絵がとても上手だったり、本当に多才な方でしたね。

――これまでのお話から、古谷さんと古川さんの間にあるバンド仲間という人間関係が、そのままアムロとカイの関係性に現れているようにも思えます。
古谷　言葉にしなくてもどこか通じているような感覚というか。
古川　でも、徹ちゃんとのプライベートな関係では「言わずもがな」という感覚がたしかにある。僕の徹ちゃんに対する認め方というのかな、「年下なのにあっぱれだな、スゴイ人だな」と思っていましたし、自分がその年齢のときにどれだけできていたかということをいつも考えていました。どこかでそういう関係性が、役柄の演技にも現れているのかもしれないですね。