TOPICS 2021.06.15 │ 12:00

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト
監督・古川知宏インタビュー①

劇場ならではの圧倒的な音響&映像による刺激的なエンタメ体験を味わえる『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。ここではTVアニメシリーズから引き続き監督を務めた古川知宏氏にネタバレありのインタビューを実施。本作に込めた思いを、全3回の記事でお届けする。第1回は、作品に込めたテーマについて。

取材・文/岡本大介

少女☆歌劇 レヴュースタァライト
ブシロードが仕かけるアニメと舞台がリンクした新機軸のメディアミックスプロジェクト。2018年にTVアニメシリーズが放送され、2020年には劇場版総集編となる『少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』が公開。そして、2021年6月4日にファン待望の完全新作『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』がついに公開された。

TVアニメと同じく、個人的には反省点ばかり

――劇場版として完全新作を制作することになったときのお気持ちはいかがでしたか?
古川 TVアニメが終わった時点では、僕としてはやりきった感覚もありつつ、機会があればもう一度やってみたいと思っていたので、劇場版の話を聞いたときは素直にうれしかったです。キャラクターを演じているキャストさんたちも含めて、別れが寂しいというか、離れがたい感情もありましたから。

――TVアニメがキレイな形で終わっているだけに、その後の華恋たちを描くのは難しくなかったですか?
古川 いえ、僕としてはTVアニメは、わりと泣く泣く「エイヤ!!」って終わらせた感じなので(笑)。とはいえ、彼女たちのその先の姿を描きたいというよりは、キャラクターの感情をもっと描きたいという気持ちのほうが大きかったですね。9人のメインキャラクターを描ききるには1クールアニメではやはり足りないところがあって、TVアニメではやりたいことの6割は削らざるを得なかったんです。だから劇場版ではもっと振り幅のある映像で、彼女たちにさらに深く迫っていきたかったんですけど、なにせ尺が2時間しかないもので、結果的にはやりたいことの8割は削ることになりました(笑)。

――そうだったんですね。でも、劇場版ならではのスペクタクルなフィルムになっていると感じました。
古川 ありがとうございます。ですが、僕の力不足でスタッフやキャストの実力を引き出しきれなかったとも思っています。TVアニメを制作している際も同じ気持ちを抱いたんですけど、やっぱり自分はまだまだ未熟だと再認識させられました。

――監督はそうおっしゃいますが、鑑賞している側としては最高の時間を過ごさせていただきましたよ。映像と音響のシンクロもさらにパワーアップしていましたし。
古川 それならうれしいんですけど、それとは別に自分の未熟さは可視化されました。ただ、音楽に関してはTVアニメと同じくフィルムスコアリング(※編注:曲先行ではなく、映像に合わせて楽曲を作る手法)を採用しているので、そこは音楽チームの力が強かったと思います。これは音楽プロデューサーの山田公平さんが言っていたことなのですが、「この作品の楽曲は変態曲が多い」と(笑)。間奏が異様に長かったり、演奏が超絶に難しかったりと、とにかく普通のアニメで作る楽曲ではないんですよね。音楽を前面に出したアニメ作品というのは、ともすれば同じテイストの楽曲で固まりがちですが、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』に関しては本当に多彩で、しかもそのどれもがよくわからない曲ばかりで(笑)。そんなヘンテコな発注にもかかわらず、音楽チームが面白がってノリノリで作ってくれたのは本当にありがたかったなと思います。

「覚悟」の有無は、役者の本質でもある

――本作のテーマについてですが、TVアニメからさらに一歩進んで、舞台少女としての覚悟が問われる内容になっています。
古川 TVアニメの制作を通じて、あらためて「役者さんって本当に面白いな」と感じたんです。TVアニメのときは、舞台ごとに自分を再生産している様子にスポットを当てて「アタシ再生産」という言葉を作ったんですけど、劇場版になったときに何を描こうと思ったら、やっぱり一歩進んで「覚悟」の話なのかなと。それを端的に表現しているのが「貫いてみせなさいよ、アンタのキラめきで」というセリフです。

――ビジュアルの情報量が圧倒的なので混乱しがちですが、描きたかったことはとてもシンプルなんですね。
古川 めちゃくちゃ単純明快なつもりだったんですけど……表現が下手ですみません(笑)。ただ、もともとこのプロジェクトはストーリーよりもキャラクターを届けることに重点を置いていますから、レヴューシーンを削って説明セリフを増やすことはもちろんできるんですけど、それだと『レヴュースタァライト』っぽくないのかなとも思いました。

――おっしゃる通り、さまざまな解釈ができる余白を含めて、それがシリーズの醍醐味にもなっていると思います。
古川 これはTVアニメを作っているときから思っていることですけど、これまでのブシロードにはないフィルムを作って、それを既存のブシロードファンに対して届けたかった。

――それはどういうことですか?
古川 ブシロードのコンテンツってお客さんの層がすごく若いイメージがあるので、必然的に演出やストーリーは明快でわかりやすく作られていると思います。それはブシロード作品のいちばん良いところだと思うのですが、一方で僕は幾原邦彦さんとずっと仕事をしてきた人間なので、これまでの視聴者はもっと上の年代なんです。僕としてはそこで培ったノウハウを活かしつつ、それを若い世代にも届けられたらと思ってこの作品に取り組みました。

――なるほど。たしかに『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は若い世代から上の世代までが楽しんでいる印象を受けます。
古川 そうですね。それは言い換えれば、そのときの自分の環境や気分、年齢などによって受け止め方や感じ方が変わるようなフィルムにしたかった。一度見たあと、何年かして見直したら印象がガラリと変わる映画ってあるじゃないですか。今回の劇場版でもその気持ちは変わらず、むしろより意識して制作したところはあります。

トマトを食べるたびに彼女たちを思い出してほしい

――ストーリーとしては、愛城華恋と神楽ひかりが交わした「約束」を軸として、9人それぞれの卒業に向けた気持ちが描かれますが、転機を作ったのはまたしても大場ななでした。本作におけるななの役割は何だったのでしょう?
古川 そもそもTVアニメのななちゃんって、自分としてはごく自然に作ったキャラクターで、特別な子というわけではないんですよ。9人もいれば過去の再演に固執する人もひとりはいるだろうなと思い生まれたキャラクターで、ストーリーの本筋に絡むようなこともしていない。でも、TVアニメが放送されると、ななちゃんのことを特別視する人が思いのほか多くて、いつの間にか「ラスボス」と呼ばれるくらいの存在になっていました。僕にとってはかなり衝撃的だったんですけど、でも同時に「なるほど」とも思ったんです。お客さん的には物語には黒幕というものが必ずいて、主人公がラスボスを倒すことで初めて物語の幕を下ろすことができるんだなと。

――とくにバトル作品であれば「ラスボス」という存在は必須だと思います。
古川 そうですよね。それならいっそその作法に則ろうと思って、前作(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』)ではななちゃんをストーリーの語り部に据えたんです。それは本作でも同じで、物語を再び展開させるなら「再演」と結びついた彼女が適任だろうと思い、その役をおまかせした感じです。物語の導入部分として機能しやすい「役」を彼女に演じていただいたとでも言いましょうか。

――そうした経緯があったんですね。ともかく物語を大きく動かしたのは大場ななで、地下鉄の車両を舞台に、華恋とひかりを除いた全員を相手に大立ち回りを見せます。
古川 通常のレヴューシーンは一対一が基本ですから、ひとりvs全員というのはTVアニメにはなかった構図で、かなり特殊なことをやっています。最初のレヴューシーンでもあるので、見ている人を一気に引き込みたかったというのはありますね。

――走る列車を舞台に見立てたこのレヴューシーンをはじめとして、本作では一貫して「列車」が大きなモチーフとなっています。
古川 これも明確で、創作物において列車は人生のメタファーとして表現されることが多いですよね。今回やっているのもそれと同じで、注意して見ていただければわかりますが、キャラクターが次のステージや舞台に進もうとする過程では、必ず列車に乗っているんです。最初のレヴューシーンは、みんなで新国立第一歌劇団へ向かう途中に地下鉄が舞台に変形して、意訳すれば、ななちゃんから「お前たちは覚悟ができているのか?」と問われる。その他のシーンでも列車は随所に出てきますが、すべては人生の次のステージに向かうためのモチーフとして意識的に取り入れています。

――「トマト」や「列車」など、誰もがなじみのある日常の1コマを劇的に印象付けて昇華させる演出は、まさに古川監督らしい気がします。
古川 僕は作品を作るとき、見てくれた人の日常に食い込みたいと思っているんです。これから先、トマトを食べるたびに、あるいは地下鉄に乗るたびにこの作品のことを思い出してほしいし、そうすることでその人の人生が少なからず変容すると思っているんです。学校や職場はままならないことも多いけど、もしかしたらこの列車が次のステージに運んでいってくれるかもしれないとか、この先に何か素晴らしいことが待ち受けているんじゃないかとか。ほんの少しでも気持ちを前向きに変化させることができたなら、映像作品を作る意味も意義もあるんじゃないかと、僕はそう思っているんですよね。

――ありがとうございます。では、第2回はいよいよ本シリーズの華であるレヴューシーンについて詳しく伺いたいと思います。よろしくお願いします。
古川 よろしくお願いします。endmark

古川知宏
ふるかわともひろ。スタジオグラフィティ出身で、現在はフリーのアニメーター・演出家。『戦う司書 The Book of Bantorra』や『戦姫絶唱シンフォギア』など、多くのアクション作品にアニメーターとして参加。また『輪るピングドラム』では絵コンテと原画を、『ユリ熊嵐』では副監督も務めるなど、幾原邦彦監督作品においては中核メンバーとして携わっている。
作品情報

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

絶賛上映中

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