TOPICS 2022.08.04 │ 13:24

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第4回(前編)

第4回 『機動戦士Ζガンダム』のアムロ・レイ

TVシリーズ『機動戦士ガンダム』でアムロ・レイという役について出し切ったという古谷徹。その後に総集編となる劇場版『機動戦士ガンダム』三部作を経た数年後――1985年に放送が始まった正統続編となる『機動戦士Ζガンダム』は、主人公にカミーユ・ビダンという新世代の少年を据えてのスタートとなった。アムロ・レイは劇中において、戦いに疲れた脇役として描かれるのだが、古谷徹はそれをどう捉え、どう演じたのだろうか。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

こんな不甲斐ないアムロなんてやりたくない

――再登場したアムロ・レイですが、過去の姿とはだいぶ印象が異なります。
古谷 もはや別人でしたね。こんな不甲斐ないアムロなんて、やりたくないなって正直思いました(笑)。23歳になった大人のアムロだけれど、ニュータイプは危険分子であるという理由で地球連邦軍に幽閉されている。表舞台というか戦いからは遠のいて、ある程度の自由はあるけれど監視されている身分だと伝えられました。ニュータイプとして活躍したけれど、一年戦争で受けた心の傷もあるんだろうと思っていたというか、まず大人の男だろうと思っていたんです。それははっきり言うと、女性を知った男だろうという意味です。個人的な意見であって設定的な裏付けはありませんが、それこそが昔のアムロとは大きく異なる点だと感じていました。あとはララァを自らの手で殺めてしまったという事実を背負っているのは、やはり大きいと思う。そのトラウマがアムロを宇宙に行かせない理由だし、そういうしがらみやトラウマを忘れかけている時期なんだろうとは思っていましたね。この監視されてはいても不自由のない生活を享受してしまうと、誰でも気持ちが萎えてしまうだろうと。きっとエゥーゴやカラバの情報は、アムロのもとにも入ってきていたと思うんです。でも、それを見過ごしてしまうほどのぬるま湯に浸っていたのかなと。

――その違いは、芝居としてはどう表現しているのでしょうか?
古谷 自分の思いをはっきり言葉にできている。15歳のアムロなら口ごもるところが、そういうためらいを見せることはないですよね。7年という時間で成長しているのはもちろん、一年戦争での経験が自分自身への自信にもなっているんじゃないかと思えます。戦争を乗り切って、皆を守り抜いたという自負。その気になればできるという気持ちとニュータイプであるという自覚こそが自信につながっているんじゃないかな。アムロが登場する回(第13話「シャトル発進」)でカツに煽られるシーンがあるけれど、まだ戦場に出向く気持ちはなかった。カツに「地下にモビルスーツを隠してあるくらい言ってください」なんて言われても、行動に移すそぶりはないんですよね。でも、その次のエピソードでは、カツを伴って監視を脱してエゥーゴに合流してみせる。悩みは深いけれども行動に移すときには迷いがないし、決断したらあとは素早いところは昔のアムロにはない姿でもあると思うんです。

――その一方で、シャアはあまり変わらずに好きに生きているように見えます。
古谷 好きに生きていると言えばそうかもしれないけれど、正直に言うとアムロがシャアと味方になって共闘するというのも釈然としなかったんですよ(笑)。宇宙に上がるのが恐いと語るシーンで、クワトロ(シャア)に「ララァに会うのが怖いのだろう」と言われるんですが、そこでアムロは「しゃべるな!」と憤慨する。でも、それは図星だからなんです。そういう萎縮してしまった前作の主人公というのは、『ガンダム』ならではというか富野監督の作品らしいリアリティなんだろうと理解できます。でも、僕もアムロには前線に出てモビルスーツに乗って戦ってほしいと思っていたし、それだけのスキルもあるわけだから、序盤の頃の不甲斐ない姿のままではいてほしくないですよね。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。