TOPICS 2022.08.09 │ 12:10

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第4回(中編)

第4回 『機動戦士Ζガンダム』のアムロ・レイ

かつての英雄アムロ・レイは、戦いに疲れた脇役として『機動戦士Ζガンダム』に登場した。卑屈になったアムロを演じることに乗り気になれなかったという古谷徹は、そんなアムロという人物をどう捉え、演じたのだろうか。また、ベルトーチカ・イルマというアムロの恋人についての個人的な想いも語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

劇場版『機動戦士Ζガンダム』当時の面白エピソード

――本日は『機動戦士ΖガンダムII A New Translation -恋人たち-』(2005年)のアフレコ台本を持ってきてもらっていますが、かなり細かくメモ書きがあります。
古谷 そうなんですよ。この当時になると雑誌などでの取材も多くなるから、演技についてのメモ以外にも、当時の共演者との裏話というか、面白かったことなんかを書き込んであるんですね。だから取り留めのない内容も含めて、かなり細かい話まで書いてある。ベルトーチカに関してだと「ベルトーチカに尻を叩かれながらも、ベルトーチカのお尻を追いかけているアムロ」と書いてある(笑)。

――この「お尻」という言い方について別のメモがありますね。
古谷 そうそう! アムロとカツの会話の中で「そう、女のお尻を追いかけているだけかも」というセリフがあるんですけど、この「お尻」というのが僕は違和感があって、アムロは「お尻」って言わないんじゃないかって。だから「尻」に書き直したんですけど、富野監督と池田秀一さんが「1940年代生まれはお尻って言うんだ」って(笑)。でも、鈴置ちゃんや僕は「尻って言うよね」って、世代間争いみたいな話になってしまって。でも、監督とシャアが強硬に言うから、結局は「お尻」にしたんですけど(笑)。

――次のメモは「池田さんがトチって疲れちゃった」とあります(笑)。
古谷 池田さんが言っていたんですよ、クワトロはセリフが多いから(笑)。あとは川村万梨阿ちゃんが「舌をカミーユ」って言ったとかね。今見ると面白いけれど、まあしょうもない話だよね。あとはミライ・ヤシマ役の白石冬美さんが「アウドムラ」を言えなくて「アウドラム」になってしまうとか。白石さんは「ミライ・ヤシマ」を「ミイラ・ヤシマ」って言ったこともあるんですけど、カタカナが苦手だったのかな(笑)。

古谷徹氏が個人で所有している『機動戦士ΖガンダムII A New Translation -恋人たち-』(2005年)のアフレコ台本。劇場版の『機動戦士Zガンダム』は三部作だが、その中でアムロ・レイの登場シーンがもっとも多いことから選んでいただいた。本文中にもある通り、作品の取材などに備えて演技などの注意点や当時のちょっとした出来事などについて詳細にメモが書かれていた。

――「1日だけ禁酒禁煙の池田秀一」とありますね。
古谷 池田さんは、初日の前日は禁酒禁煙してアフレコに臨んだんですけど、その日の収録終わりに僕と一緒に飲みに行っちゃった(笑)。だから一日だけ禁酒禁煙なんですね。劇場版のアフレコは2日くらいかかっていたと思うので、初日だけは乗り切ったんでしょうね。この当時の池田さんはご自身の年齢も含めて体調管理を気にされていて、大事な仕事の前には禁酒禁煙をするように心がけていらっしゃった。それはすごいなと思ったんですけど、すぐ飲みに行っちゃったという(笑)。でも、日本酒は飲まなかったと思う。池田さんは日本酒が大好きで、やっぱりどうしても酒量が増えてしまうから。たしかずっと焼酎の緑茶割りを飲んでいたと思うな。

――「ベテラン以外は1週間前にリハーサルをやった」というのも気になります。
古谷 ベテランというのがどの範囲なのかわかりませんが、カミーユ・ビダン役の飛田展男くんを含めて主要人物はやったみたいですね。僕と池田さん、鈴置さんはリハーサルはやっていないと思いますが、TVシリーズとはキャストもかなり違っていたから、そういう準備が必要だったのかもしれない。

――「カミーユはさすがにまっすぐ帰った」というのは?
古谷 そのときも飲みに行かなかったんだろうね(笑)。飛田くんは真面目な人だから。TVシリーズのときは収録スタジオが麻布に近いところで、昼間の収録だったから終わる時間も早くて飲みに行くような機会もほとんどなかったんです。このカミーユ・ビダンという主人公とアムロ・レイというキャラクターは全然違うタイプで、カミーユはとにかく尖っていた印象ですよね。アムロにはなかったラブストーリーもあったし、そういう意味でも新世代の『ガンダム』の主人公なんだと思えた。飛田くんのことは当時知らなかったんですが、共演したことで彼の演技とその実力は認めていましたね。僕にはないものを持っていて演技に対して真剣に取り組んでいるし、どんな役柄でもキッチリとこなす。彼は超真面目なのにAB型だからマイペースなところもあって、当時からほとんど飲みに行ったりしなかったから「さすがにまっすぐ帰った」なのかもしれない(笑)。今でこそ『名探偵コナン』でパートナーというか部下(※注:風見裕也/飛田男六)でもあるから、付き合いはかなり長いんですよね。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。