ベテラン勢の気遣いで現場の雰囲気に溶け込めた
――当時の『機動戦士Ζガンダム』の収録現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?
飛田 第1話からシャアというかクワトロ大尉は登場しますから、それはもう緊張しました。それと物語自体がシビアな展開でしたから、和やかなシーンがほとんどなかったんですよね。幼なじみのファ・ユイリィともツンケンしているし、母親は目の前で死ぬ、父親も戦場で死ぬということで、本当に台本と役に集中するしかなかった。それこそ休憩時間におしゃべりをするとか、そんな余裕は全然なかったです。むしろ池田秀一さんや鈴置洋孝さんから話しかけていただいて、それこそ気を使ってくださったんだと思います。
©創通・サンライズ
古谷 そうだったんだ。
飛田 いろいろ質問もされました。全話を通して出演しているのはほとんど僕だけなので、飛び飛びで出演される池田さんや鈴置さんが「これは人? それとも機械?」とか(笑)。「俺、いまどこにいるのかな」とか「俺とハマーンは仲がいいの? 悪いの?」っていうように質問されるんですよ。
古谷 それを飛ちゃんに聞くんだ(笑)。
飛田 でも、逆にそれで助かりました。現場が和むというか、緊張がほぐれましたから。今、当時の映像を見返してみると、やっぱり若いなというかしゃかりきになって演じていたなと思いますよね。
古谷 シャアとアムロが再会したシーンが飛ちゃんとのちゃんとした初共演だと思うんだけど。
飛田 徹さんと初めてお会いしたときは、ずっと聞いていた声の本物が目の前にいる!という感覚ですよね。第14話「アムロ再び」でアムロの口からシャアの名前が出て、クワトロ大尉(シャア)の口からアムロの名前が出たときには聞いていてゾクッとしました。
古谷 僕はこのときに、カミーユというか飛ちゃんの声が個性的だなと思ったんですよ。いわゆるロボットものの主人公をやるタイプの声とはちょっと違う、少しハスキーですよね。でも、それがカミーユという役柄のルックスにはぴったり合っていて、過激なキャラクターの芝居をよくこなしているなという印象だったな。
飛田展男は根がカミーユなのか⁉
――カミーユは感情表現の起伏が激しいキャラクターですね。
飛田 意外とそれは難しいというよりも、自分の中ではすんなり受け入れていましたね。僕がすごいなと思ったのは、カミーユは自分の母親のことを「あなた」と呼ぶんですよ。人質になっているお母さんに対して「あなたは何をやってるんです」というセリフを読んだときに、ああこの感覚はよくわかるなと感じました。共感というのとは少し違うんだけど、まったく異質な感覚ではないというのが多かったと思います。
古谷 それはもう、根がカミーユってことなんじゃないの?
飛田 いやいや。たぶん、富野監督が意識して描かれているんでしょうね。でも、自分とは遠い、まったく理解できない存在ではないというのも事実です。たとえば、ブライトさんやエマ中尉に対して去り際に悪態を吐くシーンがあるじゃないですか、ああいうのは本当によくわかるんですよ。
古谷 やっぱり根がカミーユなんだよ(笑)。
飛田 カミーユの持つ不安定さというのは、台本の中にしっかりと書かれているんです。その感情のテンションも映像によって表現されているから、僕はそれに乗っかって芝居をすればいい。とくに序盤は急展開する状況にただただ翻弄されるだけですから、このシーンの演技はどうすればいいとか、この感情はどう表現すればいいということは考えずに直感的に飛び込んでいく感じだったと思います。僕にとってカミーユは、本当にどこにでもいる普通の少年なんですよ。どこにでもいるというのは語弊があるかもしれませんけど、誰の中にもいる、普遍的な存在だと思います。だから、富野監督からも「カミーユはこういうキャラだから、こう演じてほしい」と言われたことは一度もありません。新訳劇場版のときにも「とにかくカミーユはピュアな子なんです」ということだけでした。それが具体的にどういうことなのかの説明は一切なかったですし、自分も「こういう子だから」という考え方はしてこなかったというのが事実なんですね。
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――自然に演じられたということでしょうか?
飛田 自然体ではないんです。何も考えずに演じられたかというとそうではない。常につま先立ちをしているような、追い詰められた状況での芝居でもあるんですよ。カミーユと同じような状況だった、と言えばものすごくキレイにまとまるんですけど、それだけでもない。
古谷 必死だった、ということなんだよね。
飛田 そうなんです。それこそアムロさんが本格的に参戦してきて、クワトロ大尉と会話をしたらカミーユが出る幕なんかないんです。ミライさんが登場してハヤトさんやカイさんが絡んできたら、それだけで物語ができてしまう。僕の中では「最後まで生き延びる」という、それに尽きるんです。最初のミーティングのときに富野監督が「この番組はオリジナルですから、それぞれのキャラクターが生き延びるかどうかは皆さんのオーラの強さにかかっています」とおっしゃったんです。「それが弱いキャラは、必然的に落とされていきます」と。
古谷 なるほど、そうやって脅されたんだね(笑)。
飛田 普通だったら主人公ですから、まさか消えることはあるまいと思うんですが、富野監督の作品ですからね。しかも主役をスイッチできるキャラクターはいくらでもいるわけですから、これはのほほんとしていたら危ないぞという強迫観念のようなものが常にあった1年間でしたね。
- 古谷徹
- ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
- 飛田展男
- とびたのぶお 11月6日、茨城県生まれ。少年時代から声優という職業に憧れを持ち、大学進学での上京をきっかけに声優への第一歩を踏み出す。劇団などを経て現在はアーツビジョンに所属。1985年の『機動戦士Ζガンダム』での主演をはじめ『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』『機動武闘伝Gガンダム』などガンダムシリーズにも多数出演している。古谷徹とは『名探偵コナン』(1996年)での共演が人気を呼び、同シリーズには欠かせないキャラクターになった。
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