――当時の収録現場で印象に残っていることはありますか？
古谷　映画の収録は1～2日で終わってしまうことがほとんどですから、共演者といってもそれほど触れ合う時間があるわけではないんですよ。池田秀一さんや鈴置洋孝さんのようにずっと共演している方々はともかく、他の演者さんはもちろん、ましてや新人の場合ですと声もなかなかかけづらいと思います。だから、山寺宏一くんや佐々木望くんの印象があまりないということになってしまうんだけど、それは彼らへの評価が低いとか、そういう意味ではないんですよね。あ、でも、当時の収録現場で思い出したことがある。榊原良子さんと佐々木望くんと僕の三人で、一緒にランチに行ったんですよ。なんでその三人なのかはわからないんだけど、なぜかアフレコの合間にランチに行くことになったんです。

――アムロとナナイとハサウェイは、ランチでどんなお話をするんですか？（笑）
古谷　青銅聖闘士チームならまだしも（笑）、そのメンツだと想像できないよね。そこで、榊原さんは格闘技がお好きだという話が出てびっくりした記憶がある。行ったのはスパゲッティ屋さんだったと思うけど、どうしてそんな話になったのかはおぼえていない。格闘技もプロレスだったかなんだったか、とにかく本格的なものだったような気がする。榊原さんといえばとてもお洒落で美人ですし、ファッションとかそういう方面に興味があるのかと思っていたけど、格闘技がお好きとは意外でしたね。

――本編のお話に戻りますが、チェーンが戦死していることをアムロが察知していたのかどうか、古谷さんはどうお考えでしょうか？
古谷　たしかに戦闘中にサイコ・フレームの試料が飛んできた瞬間に「チェーンか!?」というセリフがありますね。でも、このときにチェーンが死んでしまっているかどうかは、アムロはわかっていないんじゃないかと思う。アフレコ台本には「チェーンの試料が流れ込んでくる」と書いてあって、修正前のセリフも「チェーンが来るのか!?」になっているから、おそらくアムロはチェーンの死を知らないだろうね。それにチェーンが死んだことを知っていたら、アムロは怒っていただろうし、シャアに対してももっと感情的に攻撃していたんじゃないか。あのコックピットを潰していたんじゃないかと思いますよ（笑）。シャアにとってはララァをアムロに殺されたかもしれないけれど、アムロもチェーンを殺されたとして憎悪に囚われてしまったかもしれない。

――アムロとシャアの決着については、前々回、燃え尽きたと語っていただきましたが、以降の作品で、シャアやアムロは残留思念という形で登場することになります。この考え方についてはどう思いますか？
古谷　沖田艦長と同じというか、もう生死は関係ないよね（笑）。でも、ララァも似たような存在として登場しているし、魂というかそういうものとして作品世界の中で存在が許されるというのは富野監督の考え方なんでしょうね。その後の『機動戦士ガンダムＵＣ』でもシャアが残留思念として生きている人物に影響しているし、ララァもアムロも同じような存在としてラストシーンに登場しますから、これからもそんな扱いで登場するのでしょう（笑）。でも、アムロやシャアはそれだけ影響力のあるキャラクターなのだろうと思います。

――最後になりますが、この時代のアムロ・レイを演じるコツを教えてください。
古谷　大人っぽく演じるということに尽きるんだけれど、この大人っぽさというのが難しいところですよね。まず、この映画が上映された1988年の29歳と、2022年現在の29歳ではその印象が大きく違う。88年の29歳と言えば、れっきとした大人だったし、中年の入り口に差し掛かったと言ってもいいくらいの年齢です。でも、今の29歳というと、まだまだ若造というか、社会人になって数年しか経っていないという印象ですよね。アムロは階級も大尉で部下もいるし、感情のままに生きられるわけじゃない。だから、かなり抑制をきかせた演技をしていたと思います。それと自分の地声に近いということもあって、僕の中では役作りを意識せずにいちばん自然に演じられるのが『逆シャア』のアムロかもしれないです。