TOPICS 2022.10.28 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第6回(後編)

第6回 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のアムロ・レイ

古谷徹による『逆襲のシャア』の「アムロ・レイの演じかた」、後編となる今回もシーンごとの解説をお願いした。意外なメンバーによる収録の合間のランチタイム(!)など、当時の思い出エピソードも含めてお楽しみください。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

アムロとシャアの関係が平行線になるのは仕方ない

――ロンデニオンでのシャアとの再会では、生身で殴り合いをしていますね。
古谷 アムロは目的のために大量殺人を犯すようなことには否定的だし、そういう無益なことはしたくないと考えている。シャアは目的を達成するためなら手段を選ばない人だから、平行線になるのは仕方ないのかもしれない。このシーンでは、カットされたアムロのセリフに「政治の力で連邦政府を潰してみろ」というものがある。シャアのようにアクシズを落として寒冷化してしまえとは考えないんですよね。他にもシャアのやり方を学生のようだと評したり、現実的なやり方であるとは思っていない。こういう説明セリフをカットすることで多少のわかりにくさはあるけれど、よりストレートに互いの考え方が伝わるようになっているとは思います。

――アムロはその後、自分自身の経験を踏まえてハサウェイに無茶をしないように説得をしますね。
古谷 男の子はみんな女の子に振り回されて無茶をしますよね(笑)。アムロも自分自身の経験があるし、カミーユやカツの件もあって、そういうときに男の子が冷静でいられなくなるのを知っている。でも、アムロも、もう少し具体的に説明してあげてもよかったよね(笑)。僕のアフレコ台本にもクェスのところに「ララァと同じ」と書いてあるから、悲劇的な展開になってしまうのを予感していたのかもしれない。この「死人に引っ張られる」という言葉はカミーユにも言っていたから、ニュータイプならではの影響力を言いたかったのかな。

――νガンダムでの出撃時、「ガンダム、行きまーす!」の名セリフが登場します。
古谷 いわゆるファンサービス的なシーンでもあるのでしょうが、やはりアムロに言ってほしいセリフでもありますよね。ここではかなり強めのトーンで、台本上のメモにも「行くぞシャア!」と書いてあるから、気合を入れた感じにしています。アフレコ収録時の映像には劇伴などの音は入っていないから、このシーンでかかる音楽は映画が完成するまで聞いたことがなかったんですよ。アフレコ台本にはこのセリフに「M」という印があって、これは音楽がここでかかるから強めに発声し欲しいという指示があったのでしょう。音楽と映像がバッチリかみ合って、しかも「ガンダム、行きまーす!」のセリフだから、映画を見直してみると音楽に負けないようにかなり強めに言っているのがわかります。歴代の『ガンダム』シリーズを通してみても屈指のカッコ良さだと思いますね。

――ケーラの死を眼前にしたアムロが、珍しく感情を爆発させますね。
古谷 ファンネルが自衛のために反応しすぎたとはいえ、ケーラの死に対して叫んでいますからね。それほど信頼関係があったということなんでしょうが、台本には「人ひとり救えなかった」と書いてある。ある種、理想主義的なアムロでも実際には人ひとり救えないのが戦場なんだということでもあるし、その理想と現実で苦しんでいるのがわかる描写でもありますね。アムロは当然ケーラとアストナージの関係性も承知していたわけですから、そういう意味でも守れなかった責任を感じている。このケーラの死にまつわる一連のシーンでは、ギュネイ・ガスを演じた山寺宏一くんとの共演もありましたけど、新人だった頃の彼についてはあまり記憶がないんですよね(笑)。収録現場でもとくに会話をすることもなかったし……。でも、ギュネイの演技を見るととても自然に演じているように思います。今の山寺くんならもっと濃い印象になるのだろうけど(笑)、この頃は新人っぽさが残っているというか、ある種の初々しさがありますね。