――シリーズを通して、アムロにとってもっとも影響力が大きかったキャラクターは誰だと思いますか?
古谷 女性で言うならマチルダとララァじゃないですかね。マチルダは初恋の相手であり、結果的には自分を守って命を落としてしまったわけですよね。それがアムロにとってはショックだったろうし、また彼女の婚約者であるウッディ大尉がまた素晴らしい大人だったんですよね。アムロは男として敗北を感じたと思うし、そのふたりが結婚するというのは、アムロにとっては理想のカップル像だったんじゃないかと思うんです。自分もああいう大人になりたいという感じですよね。そして、ララァは運命の人ですね。運命の女性でありながら恋愛対象ではないというのが面白い点ですが、僕の中でもあのシーンを演じるときにそういう意識はなかった。ララァを殺してしまったときですら、愛する人を手にかけたという意識では演じていなかったんですね。でも、その感覚のズレがシャアとの因縁につながっているんじゃないかということは、今回あらためて掘り下げてみて実感しました。新しい発見というか、誰も言及しなかった点だと思う。
そして、アムロにとってもっとも影響力があったキャラクターは、もちろん、シャア・アズナブルですよ。シャアの存在があったからこそ、アムロのニュータイプへの覚醒があったのは明らかです。最終的に目指すものは一緒だったにせよ、その手段が違ったことで対立することになるわけですが、そこにララァという要素が絡んできたことで最後まで敵対関係になってしまう。シャアはアムロより年上で軍人としても優秀という姿が、僕にとっての池田秀一さんと重なるところがあったんですよ。子役としては大先輩ですが、声優としては僕のほうがキャリアは上だぞという意識があった。だから役作りとしても池田さんとは少し距離を置いていたし、どこかライバル意識みたいなものをずっと持ち続けていたように思います。僕が池田さんとごく親しくなったのは『機動戦士ガンダム』の20周年くらいのときで、僕がお酒を飲めるようになってからなんですよ。作品の外でのお仕事が増えて、イベントや取材などが終わったあとで一緒に飲みに行くようになってから親しくお話をするようになりました。でも、そうやってお話をさせていただけるようになって、この業界で自分の立場を本当にわかってもらえる声優は池田さんしかいないと思うようになりました。新しい仕事の依頼が来たときに「僕がやってもいいんでしょうか」と相談をさせていただいたり……やっぱり『機動戦士ガンダム』の主役を演じるということは、アニメ業界の中でも特別なことだと思うんです。これだけ長く愛されて、多くのメディアで演じる機会に恵まれたのは本当に強運だったと思っているんですが、それを共有できる人が池田さん以外にいないから、唯一無二の戦友のように感じているんです。作品の中では敵同士ですけど(笑)、僕にとっては飲み友達であり、いい兄貴分であり、唯一無二の戦友でもあるのが池田秀一さんなんですよね。
- 古谷徹
- ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
- 次回予告
- 一年戦争後、疲弊したアムロ・レイを再起させた功労者でもあるベルトーチカ・イルマを演じた川村万梨阿さんとの特別対談をお送りする。古谷徹をして「苦手なキャラ」と言わしめたベルトーチカだが、当時の現場ではどんなエピソードがあったのか。また、クェス・パラヤの役作りなどについても語っていただく。