TOPICS 2023.01.31 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第8回(中編)

第8回 アムロ・レイと女性たち

今回はアムロ・レイ(あるいは古谷徹)の目線から、それぞれの女性キャラクターの印象を聞いていく。中編ではアムロの人格形成に大きな影響を与えた母カマリア、そして運命の女性であるララァとの意外な関係性について語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

アムロは年上で母性を感じさせる女性が好き

アムロは同年齢の少女にはさしたる興味を示さないが、年上の女性については何かと気にすることが多い。今回はアムロにとっては初恋の人となるマチルダ、そして年上を好む原因となった母、カマリアなどについて聞く。

■マチルダ・アジャン(CV 戸田恵子)

古谷 マチルダはホワイトベースのクルーたちよりも年上で、完全に大人の女性ですよね。アムロにとっては憧れの存在で、初恋の相手だったと思います。だからアムロはマチルダとの会話になると、いつも以上にしどろもどろになるんだけど、その演技については意識していました。言葉でどもりを表現するのではなく、息でどもるというのかな。言いよどむ感じです。そういう意味では、星飛雄馬のほうが言葉でどもっていたと思いますよ。たとえば、「と、父ちゃん!」みたいな。感情が先走りすぎて言葉が追いついてこない場合はそういう芝居をしますが、アムロの場合は少し違うんですね。

戸田恵子さんとも『機動戦士ガンダム』が最初でしたけど、当時は声優としては新人だったと思います。『機動戦士ガンダム』は新人声優が多く起用された作品で、鈴置洋孝さんや池田秀一さんですら声優としてのキャリアはほとんどなかったのが特徴でしたね。でも、戸田さんはマチルダよりも若かったし、ご本人もマチルダほど大人の女性って感じでもなかったかなあ(笑)。

■クラウレ・ハモン(CV 中谷ゆみ)

古谷 マチルダさんに少し近いですが、母親以外の大人の女性ということですよね。敵の女性としては珍しく面識があるので、なおさらアムロにとっては思い入れの深い相手と言えるかもしれない。ランバ・ラルとハモンという大人たちは敵であるアムロに優しかったわけで、大人というものがどういうものかをアムロに見せてくれた人たちですよね。自分の両親が見せてくれなかった、大人の側面というのかな。そうして「可愛い坊や」と呼んでくれたのに、ランバ・ラルの仇を討つために執拗に追いかけてくる。敵であっても話ができる相手だったし、それでも敵対しなければならないというところが戦争の悲しさで、アムロにとっては成長につながった出会いだったんじゃないかな。

■カマリア・レイ(CV 沢田敏子、倍賞千恵子)

古谷 アムロは母親と幼い頃に別れて暮らしていたこともあって、年上の大人の女性に憧れる傾向がありますよね。アムロは母親と離れて暮らしたことが原因でマザコン気味になったと思いますが、フラウがいてくれたおかげで重症にならずに済んだ。ただ、どこかで年上の女性の中に母性を感じることがあったと思うし、それがマチルダやハモンに通じるところがあるんじゃないかなと感じます。アムロのセリフに「母さんは、僕を愛してないの?」というのがありますが、アムロの心情はこれに集約されていると思う。アムロはこのセリフで最終確認をしたことで親離れをしたし、だから一年戦争が終わったあとも母親には会いに行っていないのだろうと思います。あの砂丘での別れが今生の別れになったのだろうと思えるし、あそこでアムロは内向的な少年から一段階成長もしたのだろうと。これは推測にすぎないのだけど、あの時点で母親に男がいたことを察知していたんじゃないかな。何の説明もないけど、画面にも登場しているし(笑)。

カマリア・レイを演じたのはTVシリーズが沢田敏子さんで、劇場版は倍賞千恵子さんですが、僕の中ではやはり沢田敏子さんの印象が強いです。野戦病院でのアムロとのやり取りであるとか、そのセリフや芝居がとても印象に残っています。倍賞さんもハートで芝居をする素晴らしい女優さんで、劇場版でも何の違和感もなく入り込めたんですが、個人的には沢田さんのカマリア・レイなんですよね。沢田さんとはアニメ以外でも吹き替えの仕事で共演することが多かったから、その印象もあるのかもしれないですね。