じつは「かわいい」バス江ママ
――バス江ママらしさを表現するために、特別に意識していることはありますか?
斉藤 「かわいさ」ですね。監督から「かわいいおばあちゃんでいいんですよ」と言われたとき、最初はちょっと意外だったんです。でも、「スナックバス江」は長年続いているわけで、とすると明美ちゃんひとりの魅力だけでは成り立たない。やっぱりママもすごくチャーミングな人なんだろうなと、監督の言葉で気づいたんです。
――見た目はエキセントリックですし、言動もときどき弾けますけど、本質は「かわいい」んですね。
斉藤 そうそう。あともうひとつ意識しているのは「そこにいなきゃいけない」ということですね。セリフをしゃべっていないときでも、バス江ママはカウンターに座って、明美ちゃんやお客さんの話を聞いているんです。だから私も同じく、そこに座って、ちゃんと聞くようにしていました。つい台本を見て「あ、次、私のセリフ」と備えてしまいそうになるんですけど、ずっとバス江ママの状態をキープし続ける。ギャグだからこそ、勢いでセリフが出てしまうことの怖さを感じる現場でしたね。ちゃんとそのセリフまでの流れがあって出てくる言葉にしたいと思っていました。
――会話と会話の連続性が大事な作品なんですね。
斉藤 本来はどの作品でもそうなんですけどね。でも、コメディでそれをやるのは、本当に難しいことで。第1話のテストでは「斉藤貴美子が思うバス江」がバーっと勢いで出てしまったんです。「ギャグのお芝居こそ難しい」と、この作品で実感しています。「笑わせてやろう」「この言い方は面白いだろ?」ってセリフを投げかけたら、絶対につまんないんですよ。
――そんな中で「このセリフはインパクトがあったな」というものはありますか? 強いフレーズだらけの作品ですが……。
斉藤 「しかし…あわよくば!?」ですね(笑)。あんなことをあの状況で言われたら、もう相手はたじたじでしょう。
――少々意外なセリフが。
斉藤 あれはバス江ママとしては、本気で思っているんですよ。「このセリフを言えば、相手は引いて逃げていくだろう」なんて計算はしていないんです。相手に「そうじゃない」と言われても、本人は「お前じつは『あわよくば』って思ってんだろう」って本当に考えている。だから私も本気でやりました。「全力で来な!」という気持ちで。そのインパクトが描けるから、フォビドゥン澁川先生は天才だなと思うんです。
「やっぱり声優の仕事は面白い」と思えた作品
――共演者のお芝居で、思わずうなったものはありましたか?
斉藤 最初からいるレギュラー陣のすごさはもちろんなのですが、途中からレギュラーに加わるキャストがもういきなり「スナックの住人」という雰囲気を持って現場に入ってくるのに驚きました。
――なじみ方がすごい。
斉藤 そう。小雨ちゃんなんか「昔からずっとバイトでいたよね?」みたいなお芝居を宮本侑芽ちゃんがパッと出してくれましたし、各話のゲストの方もそうなんですよね。この作品ではたったひと言、ふた言のために「嘘だろう!?」と思うほどの豪華なキャストの方がいらっしゃるんですけど、皆さん本当にずっとこの世界で一緒にお酒を囲んでいたような空気を出される。そうした方々の音声が入ることで、原作を読んでいて、ちょっと苦手だなと思っていたキャラクターが愛せるようになったりもするんです。典型的なのは、風間先輩とか。
――福島潤さんの。
斉藤 本当に風間先輩にはぜひ注目していただきたい。声を聞いていたら、不思議となんだか憎めなくなっているんです。原作を読んだときは、ちょっとウザいと思っていたのに、小学生のまま大人になっちゃった、悪意がない人なんだなと感じて、むしろ大好きなキャラクターになりました。「やっぱり声優の仕事って面白いわ」とすら思いましたね。芝居でここまでキャラクターの印象が変わるんだって。
――各話のエンディングでは、そんな素敵な声優さんたちのカラオケまで楽しめてしまうという。
斉藤 そうなんですよね。「俺は普段、歌の仕事は断ってんだよ」なんて言いながら素敵な歌声を聞かせてくださった先輩もいて、本当にうれしかったです。ぜひ全話、楽しみにして、聞き逃さないでいただきたいですね。バブみを感じておぎゃりたくなるチャーミングなバス江ママ、お客様にいつも初球直球どストライクな頼もしいチーママの明美ちゃん、かわいいけれどちょっと天然なバイトの小雨ちゃん、3人揃って皆様のご来店をお待ちしておりますので、ぜひご覧ください。よろしくお願いします!
- 斉藤貴美子
- さいとうきみこ 2月12日生まれ。長野県出身。青二プロダクション所属。主な出演作に『ONE PIECE』(ボア・マリーゴールド、カタリーナ・デボン役)、『ゴールデンカムイ』(ソフィア役)の他、『クリミナル・マインド』(ペネロープ・ガルシア役/カーステン・ヴァングスネスの吹替)、『レディ・プレイヤー1』(ヘレン・ハリス役/リナ・ウェイスの吹替)など、洋画吹き替えの出演も多数。