TOPICS 2021.10.28 │ 12:00

YouTubeで異彩を放つ癒やし系CM 『スナックミーのりっす』って知ってる?

ほどよく脱力した「ばり、ぼり、ばり、ぼり」というボイスから始まるCM動画『スナックミーのりっす』は、YouTubeを見ている人なら一度は目にしたことがあるのではないだろうか? 配信元は、おやつの定期便サービス「スナックミー」。動画の制作は、同社のキャラクターデザイナー・中村日向子(なかむらひなこ)がほぼひとりで担っている。当インタビューでは、りっすの独特な雰囲気のヒミツや、CM動画が配信されるまでの流れを紹介しよう。

取材・文章/犬地リコ

シナリオからアフレコまで、制作のほとんどはひとり作業

――制作作業はどのような流れなのですか?
中村 まずはお話の内容を文章で書いた「字コンテ」を用意します。台本のようなものですね。作品の長さによってはそのあとに絵コンテを描くこともあります。それをもとにAdobe Illustratorというソフトでキャラクターや背景の素材類と、カット数やより具体的な動きの指示を書き込んだ「指示書」を作成します。アニメーションの動きをつける作業は外部のスタッフにお願いしているので、素材と指示書を送り、動きをつけた動画が戻ってきたら私のほうで編集し、音声・SE(効果音)・BGMを入れる作業をして完成です。

――字コンテを制作する前にお話の内容を誰かに相談したり、内容を決めるために社内でミーティングを開くことはありますか?
中村 「スナックミーの楽しみ方_リクエスト編」など、スナックミーの説明がメインだったり、CM色の濃い動画のときは字コンテを代表に提出して内容を打ち合わせています。「スナックミーの楽しみ方_リクエスト編」については、りっすがスナックミーの仕組みを説明するだけのシンプルなお話も提案して相談した結果、今の動画の内容に決まりました。字コンテの段階で表現がわかりづらいとか、誤解を招きそうという指摘をもらって内容を直しています。

「リクエスト編」の絵コンテ(一部)

――アニメオリジナルのエピソードを考えるときに意識していることや大事にしていることはありますか?
中村 癒やしを求めて見てくださる方が多いので、できる限り平和でわかりやすいお話になるよう心がけています。ただ「わかりやすい」の加減が難しくて、視聴者に内容が伝わるようにしなくてはいけないけれど、セリフで説明しすぎるのもよくないし、その辺はつねに手探りですね。動画の完成間近になって、やっぱりわかりづらいかもしれないと思ってストーリーから練り直すこともあります。

――とくに制作が難航したエピソードはありますか?
中村 「『文通~届いてるかな?~』by スナックミーのりっす」の動画ですね。オトナのりっすと子供の頃のりっすの違いが伝わりづらいかもしれないとか、セリフがほんとんどないのでわかってもらえるかなとか、字コンテの段階から悩みつつの制作でした。あと、りっすの友人であるくろねこの説明をするお話を現在作っているのですが、その制作が少し停滞しています。今までくろねこがどういう存在なのか描かれていなかったというのもあって、説明がクドくなりすぎているんじゃないかなと感じてしまって。うまくまとめられるよう頑張っています。

――アニメーションの動きをつけるのは外部のスタッフにまかせているそうですが、動画のテンポやりっすの動きについてはどの程度コントロールしているのですか?
中村 ずっとシッポとほっぺが動いていますとか、このぐらいの速度ですとか、作品全体に通じる基本的なことは伝えていますが、それ以外の動きは先方に基本おまかせしています。事前に細かく指示を出すことはなくて、まずは指示書と素材を渡して、作ってもらった動画を見てフィードバックしてすり合わせて行く感じです。毎回かわいい動きをつけてもらえて助かっています。動画全体のテンポは私の編集作業で調整しています。

――自分のイメージよりもかわいく仕上がったなというシーンはありますか?
中村 「モーニングルーティーン」(「スナックミーのりっす_第6話」)というエピソードで、りっすがクッションに座るシーンですね。一度飛んで、着地するときにほっぺたが上にボヨンとなるんですよ。私だと絶対にしない動きなので、好きなようにやってもらってよかったなと思いました。

――動画が完成したあとは編集と音入れの作業があるわけですが、音声収録で気をつけていることは?
中村 音声は私のひとり暮らしの自宅で収録しているんです。ベッドの上にパソコンを置いて、床にマイクを置いて、正座をして声を録っています。絵にするとけっこうシュールになりますね(笑)。防音設備がないので、空調は切るようにしています。

中村さん直筆の音声収録風景

――CMでおなじみの「ばり、ぼり」もそうですが、りっすの声はとても印象に残ります。声を出すときに意識していることはありますか?
中村 りっすの声は私がすごくやる気のないときの声なので、頑張ってテンションを下げてやる気のない感じを出しています(笑)。演技的に意識していることはそれぐらいで、最近はノイズを減らすためにマイクやプラグインを購入して処理をするようにしています。CMの「ばり、ぼり」はちょうどいい効果音がなかったので、じゃあ自分でしゃべっちゃおうという感じで録音したんです。

――SEは自作しているものもあるそうですね。
中村 「りっすとチョコレート工場」(第3話)のくるみがたくさん落ちてくるシーンの効果音は自作です。「くるみがたくさん落ちてくる音」なんてマニアックな音源はないので、社内の工房に行って「殻つきピスタチオ」を袋から袋に移す音を録音して使いました。あとは「かきごおりっす」(第6話)のかき氷を食べる音は、自宅で正座してアイスを溶かしながらシャリシャリと混ぜて作りましたね。

――舞台裏ではいろいろな試みが行われているんですね。
中村 アニメ制作のプロの現場のような環境はないので、毎回試行錯誤を繰り返しながら作っています。

――今後、りっすでやってみたいことはありますか?
中村 私個人の目標としてはりっすの横顔をかわいくすることですね。りっすを3D化したいと考えていて、360度どこから見ても成立する、立体的なかわいさを追求するのが直近の野望です。『スナックミーのりっす』全体の目標としては、ユーザーさんたちに一緒に楽しんでもらいながら、キャラクターとしてりっすらしく成長していくことでしょうか。りっすはスナックミーというサービス発祥のキャラクターではあるのですが、そこだけにとどまっているわけではない、少し変わった立ち位置のキャラクターなんです。ロールモデルがいないのがもどかしいところではあるのですが、りっすの持つ可能性や未知の部分を見守っていただきつつ、コンテンツとしての広がりにもご期待いただけるとうれしいです。endmark

作品情報

「スナックミーのりっす」YouTubeにて配信中

  • @snaq.me