自分の出発点でもある子供向けアニメへのチャレンジ
――大森監督にとって『すみっコぐらし』のような子供向けのキャラクター作品は久しぶりかと思います。本作を手がけるにあたっての心境はどのようなものでしたか?
大森 たしかに近年は『夏目友人帳』や『デュラララ!!』など、中高生以上に向けた作品を多くやらせていただいています。でも、僕がアニメ業界に入ったきっかけは『ムーミン』シリーズだったりするんです。中学生の頃に読んだ『ムーミン』の原作小説は、子供向けに書かれていながら、裏に非常に深い意味が隠された作品でした。いつか自分もああいう作品を作りたいと思ってアニメ業界に入り、念願かなって『楽しいムーミン一家』に原画として参加し、演出も何本かやらせてもらいました。監督業を始めてからも、子供向けの作品にいつかチャレンジしたいという気持ちはずっと持ち続けていたんです。だから、今回のオファーをもらったときは「どうして僕に!?」と驚きつつも、前作が非常に奥の深い作品だったこともあって、こういうものを作ることができるのならやりがいがあると思って、お引き受けしました。
――作品の方向性はどのように練っていったのでしょうか?
大森 前作は日本の昔話という誰もが知っているモチーフをベースに作られていたため、『すみっコぐらし』になじみがない方でも楽しめるという、非常に賢い作り方をされていました。その一方で、原作で描かれているすみっコたちの普段の生活については描写があまりなかったので、本作ではもう少し原作寄りの内容にしたかったんです。とくに原作の2作目で描かれている、とかげがおかあさん(スミッシー)に会いに行くお話はファンの間でも非常に人気が高く、竹内文恵プロデューサーからも「映画の2作目は、ぜひこのお話を中心にしたい」というお話がありました。ただ、それだけだと、とかげのお話だけで終わってしまうので、映画の軸となる要素が他にも必要でした。そこで原作であるサンエックスさんのデザインチームや脚本の吉田玲子さんを交えて相談をするなかで、「すみっコたちの夢」という要素が提案されたんです。すみっコたちはそれぞれいろいろな夢や希望を持っているんですが、その夢をかなえていく話はどうかと。でも、夢がかなってしまったら「すみっコらしさ」がなくなってしまうんじゃないか、ということで、この案はいったん取り下げになりました。ただ、そのあと考え直しているうちに「夢を失う」ことは「自分らしさを失う」ことでもあるんだ、と気づいたんです。すみっコたちが大切なものを失ったらどうなってしまうのか? 原作では描かれていないその要素は、映画のテーマとしてふさわしいのではないか、と。それで「夢」が物語の主軸となることが決まりました。