タイムリープする者としての責任
「今度こそ逃げねぇ。これはオレの人生のリベンジだ!!」
花垣武道(以下、タケミチ)という人間をひと言で表すのならば、信念の人、意志の人だろう。何があっても、周囲の未来を好転させるために次の一手を考える。たとえ自身が傷ついても、恋人や仲間のために尽くす。それが過去と現代を行き来でき、過去での行動次第で現代の改変が行えるタイムリーパーとしての 「責任」であるかのように。
タケミチを象徴する、折れない心の根幹となっているのは、「愛する人の死を阻止したい」という強い思いである。そもそもタイムリーパーとなったのも、かつての恋人である橘日向(以下、ヒナ)と、その弟・直人(以下、ナオト)の死を知り、直後に自身も電車のホームから何者かに線路へと突き落とされたことが大きな要因だった。
タケミチは、ヒナの死に大きく関与している暴走族「東京卍會(以下、東卍)」で成り上がることを目指してタイムリープを繰り返す。そのたび、人の運命に大きな影響を与える責任を自覚し、しかしながらしっかりと背負う決意を固めていく。それはタイムリープ時にある一定のミッションを成功させても、ヒナや中学時代の盟友であったアッくん(千堂敦)が悲劇的な死を迎えてしまう事態を回避できなかったからだ。だが、タケミチは「次」の過去に歩みを進めていく。より強く、より戦略的に――。
もちろん、運命や宿命としてその死を受け入れ、あきらめるのもひとつの選択肢であるが、タケミチはそれを選ばなかった。いや、選ぶことを許されなかったとも言えるかもしれない。過去に介入できるタイムリーパーであれば、定められた運命(=死)を変えられるのではないかという希望がなくなることはない。また、中学時代に恋人であったヒナがタケミチに寄せていた素朴で深い愛情など、タイムリープを重ねることで知ることができた感情に対して応えたいという思いも、彼を支えていたはずだ。
そして過去へのタイムリープにより、信頼の置ける仲間も増えていく。圧倒的な強さとカリスマを兼ね備えた東卍の総長 「マイキー」こと佐野万次郎や、マイキーを支える心優しき副総長「ドラケン」こと龍宮寺堅、そしてタケミチがタイムリーパーであることを告白するも、それを受け入れた壱番隊副隊長・松野千冬……。ヒナやナオトの未来を守るためのミッションが、いつしか、東卍の未来も丸ごと背負うミッションへと変わっていったのである。
喧嘩は弱く、泣き虫。大きな失敗を重ねながら、それでも前を向くタケミチ。東卍が引き起こした事態のすべての黒幕と睨(にら)まれる稀咲鉄太や、これまでとは違う「強さ」を持つ柴大寿(しばたいじゅ)など、目の前に現れる敵もさらに強力に、狡猾になっていく。眼前でその凄みを見せつけられるたび、折れそうになるタケミチ。だが、悲劇的な死から仲間を守りたいという気持ちが、すぐにその考えを打ち消していく。タイムリーパーであることは、タケミチにとって、未来を、ヒナを、そして東卍をあきらめないということと同義なのである。