重い十字架を背負った者の12年越しの「リベンジ」
「協力してくれタケミチ。今度は俺がマイキーを……佐野万次郎を救いたい」
羽宮一虎という人物をひと言で表現するのは難しい。こと「血のハロウィン」の決着に至るまで、彼の行動は矛盾の連続だからだ。暴走族「東京卍會(以下、東卍)」の創設メンバーのひとりである一虎は、中学1年生の頃、佐野万次郎(以下、マイキー)のためにCB250T(バブ)を盗もうとしてマイキーの兄・真一郎を殺害。少年院に送られ、2年間を塀の中で過ごした。そのあいだに“自分が苦しんでいるのはマイキーのせい”と考えるようになり、退院後は反東卍勢力をまとめ上げ、半間修二とともに暴走族連合「芭流覇羅」を結成。組織のNo.3の座に就き、マイキーを殺すために東卍に抗争を仕掛ける――その抗争こそが「血のハロウィン」である。
一虎はマイキーを「敵」と言い放っていたが、真一郎を殺害したのはほかでもない彼自身。少年院に送られたのも犯した罪を考えれば当然のことだ。マイキーに対する憎しみの感情はまったく理にかなっておらず、逆恨みとしか言いようがない。さらに「血のハロウィン」では、長いあいだ自身に寄り添ってくれた盟友・場地圭介のことも刺傷。稀咲鉄太や半間修二の策略で場地が裏切り者であると思い込まされていたとはいえ、理解不能な一虎の行動に驚いた視聴者も多かったことだろう。
なぜ一虎はマイキーに憎むようになってしまったのか? 東卍設立当初、一虎にとってマイキーはとても大切な存在だった。幼い頃、父の家庭内暴力に苦しめられていた一虎に、マイキーは「オマエはオレのモンだ、一虎。だからオマエの辛ぇのとか苦しぃのとか……全部!オレのモンなんだ」と手を差し伸べてくれた。それゆえマイキーを深く敬愛していた一虎は、マイキーを喜ばせようととった行動で逆にマイキーの兄を死に追いやってしまった自責の念に耐えかね、心が崩壊。自らを肯定するためにマイキーを「敵」と思い込むしかできなくなり、そのままどんどん思考が歪んでいったのである。
そんな泥沼の中から彼を引き戻してくれたのが、かつてともに東卍を立ち上げた仲間たちだ。一虎に負い目を感じさせないため、そしてマイキーとの和解の道を残すために、自ら命を絶った場地。「自殺して詫びようなんて許さねぇかんな!?」と、生きて罪を償うよう背中を押した龍宮寺堅(以下、ドラケン)。一虎の犯した罪を許し、ドラケンを介して「これからも一虎(オマエ)は東卍の一員だ」という言葉を伝えたマイキー。それらが一虎に「いちばん大事なもの」の存在を思い出させ、再起を促してくれたのだった。
その後、自身の罪から目を背けずに生きてきた一虎は、 「血のハロウィン」後に2017年へとタイムリープした花垣武道(以下、タケミチ)の前に再び姿を現す。12年の時を経た彼は、松野千冬と力を合わせ、東卍の暴走を止めようと奔走していた。かつて自分が傷つけてしまったマイキーを、今度は自分が救うために――。
巨大化した東卍や巨悪と化したマイキーに立ち向かうことは、当然身の危険が伴う。それでも一虎が立ち上がったのは、彼の心の中に東卍創設時に場地が言っていた「一人一人がみんなの為に命を張れる。そんなチームにしたい!」という言葉がなおも息づいているから。東卍の幹部として腐敗していた2017年のタケミチを厳しい言葉で叱咤し、奮い立たせた一虎。「オレ達の東卍を取り戻すぞ」と語るその目には、もはや矛盾は一切ない。これが、重すぎる十字架を背負いながらも仲間の存在によって救われた一虎の、12年越しの「リベンジ」なのだろう。