TOPICS 2021.09.10 │ 12:00

富山県美術館「富野由悠季の世界」展 富野由悠季×細田守 スペシャル対談①

2020年11月28日に富山県美術館にて開催された『富野由悠季の世界』において、特別企画として、富野由悠季監督と細田守監督による対談が行われた。ごく限られた観客を前に語られた富野監督の本音、そして細田監督の富野作品への思いを3回にわけてお届けする。

構成/富田英樹 協力/富山県美術館、北日本新聞社 富山会場主催/富野由悠季の世界 富山展実行委員会(富山県美術館、北日本新聞社)

アニメはサブカルから本流のカルチャーへ

細田 それくらい『ファンタジア』という作品は技術のかたまりというか、圧倒的な技術で見せるアニメーション表現ですね。でも、少し強引かもしれませんが、今回の『富野由悠季の世界』展も公立の美術館で行うということに意味があると思うんです。アニメのイベントとして大きな東京の会場でやるというのではなく、普段から美術品に触れている学芸員の方たちが、アニメーションをどのように扱うのだろう、どのような切り口で展覧会を見せるのかという初めての試みだと思います。これはまさに先駆けですし、何事も初めての試みというのは富野監督の作品で行われると感じるんです。富野監督の作品が歴史上初めてということは数多くあって、たとえば「アニメ新世紀宣言」もそうです。かつて新宿で宣言されたことで、アニメは子供のためだけのものじゃないんだという意識の変化をもたらしました。それを見た僕らの世代が人生に大きな影響を受けたということもあるわけです。富野監督は自らが先駆けであることが多いという点を、どうお考えになっているのでしょうか?

富野 僕の能力程度でも、自分をよくやったと褒めてやることはできます。ただ、それらは自分が意識して仕掛けたことではないんです。周囲の状況からやらざるを得なかった。でも、要求のままにやるのも嫌だった。それはつまり、アニメという作品は、物語を伝えることができる性能を持っていると考えていたし、『機動戦士ガンダム』で言えば、おもちゃ屋さんのコマーシャル番組でしかないのだから、おもちゃの売り上げを伸ばすだけの作品であればいいという条件を無視したということもあります。もちろん、おもちゃを売るという条件は飲み込むんだけれど、せめてお話だけはこちらで作らせてくれよという気持ちです。ガンダムという巨大ロボットのおもちゃを登場させながら、物語を作ってみせるということをやった。ある意味では利用をさせてもらっているわけですから、自分が全部を作り上げた環境でやらせてもらったということではないんです。一般論的に言うところの絵描きや美術家が自ら仕掛けていく芸術の表現、自分の作品はピカソを超えただろうというものではなくて、僕の場合はすべてスタジオワークなんです。

つまり、アニメーションは何十人もの人が集まって「動く絵を使って物語を作っていく」という映画的な媒体だから、これはひとりでは不可能なんです。スタジオワークという作業が自然なものとして発生して、経済的な理由からもそれが発展・拡大していくなかで、スポンサーやテレビ局の要求どおりではなく、こういう作品の作り方もあると考える、僕のような人が何人か出てきたことによって、サブカルチャーからメインカルチャーになっていったんです。ここ10年くらいの間にその傾向は強まって、近年では、実写映画では歯が立たないレベルで興行収入を上げてしまう。さらに重要なのは、売り上げだけではなくて作品の評価も一般的に認められています。つまり、アニメーションというものは社会性を身につけてきたということです。富野の仕事はそういうものの先鞭をつけるものだったという評価は、これは本当にうれしいこととして受け入れられます。ただ、ひとつ喜べないのは、僕は『ガンダム』を作らなくなって20年経ちます。だから『ガンダム』の富野はもうとっくに死んでいるはずなんです。そして、次のものをこの20年作れていない富野は、とても情けない人間なんだと思っています。その悔しさを死ぬまでになんとかしたいと思うし、そう考えないとボケてしまう。ボケてしまうのはいちばん怖いから、こういう場所で皆さんがいる前で、富野、お前は応えて見せろと考えます。ということで日夜がんばっておりますので、新企画の話が聞こえてきたら応援よろしくお願いします。わぁい! 終わっちゃった(笑)。

富野作品には「自分を疑って突き詰める」という考えが表れている

細田 いきなり締めっぽいお話でしたけども(笑)。でも、まさに富野監督らしいお話でしたし、ロボットアニメという制約のなかで作品を生み出してきたとおっしゃっていましたが、美術絵画の世界でも、パトロンであるとか依頼者の意向があって描かれているわけです。だから、必ずしも内的必然性のみによって芸術作品が生まれているわけではないという点を付け加えておきます。それから、美術とアニメーションがヒエラルキー的な区分をされていた過去について言うと、西洋美術史的価値観というのか、キリスト教美術の権威主義的なものが1700年近く続いているわけですよね。そういう価値観の下に、美術というのは偉大であるとか尊いものであるという反面、アニメーションは子供のものだという考えがあったと思うんです。それが現代になって変容してきている。それまでの価値観から新しい価値観へと移行している時期で、富野作品を多くの人が支持したことがそのような流れのきっかけのひとつになったと思えます。

富野監督はロボットアニメなんてとおっしゃるけれど、僕は富野監督作品の特徴としては「自分が正解ではないかもしれない」とか「自分が善ではないかもしれない」というメッセージ性にあると思う。『海のトリトン』にせよ『無敵超人ザンボット3』にせよ、もちろん『機動戦士ガンダム』もそうです。ジオンが敵で地球連邦が味方という単純な構造にはなっていませんよね。この善悪をはっきりと決めないというスタンス、つまり物語を作る者の態度として「自分を疑って突き詰める」という考えが作品に表れているから、僕らはその目線に心打たれるのではないかと思うんです。

作品情報

竜とそばかすの姫

7月16日の公開から3週連続で週末動員ランキング首位を獲得、8月26日現在動員390万人、興行収入54億を突破し、大好評上映中!
また、9月10日(金)より、最高峰の音響と映像が楽しめるドルビーシネマ上映も決定しました。ぜひご鑑賞ください。

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