終わりに~子供と向き合う覚悟
細田 今回の展示を見ていて、富野監督作品にはどれも思い入れがあるんですけど、僕は『機動戦士ガンダムF91』が好きなんです。本編中でシーブックのお父さんが「私はお前たちをちゃんと育てたよ」というセリフがあるのですが、そんなことを言える親って素敵だなあと感じました。『F91』はとくにいろいろな家族の形が描かれていますよね。セシリーの実の父親が違う人だったり、ロナ家の内部抗争劇みたいな部分もあるし、いろいろな角度から家族を描いて、そういうなかで子供がどうやって育っていくのかということが描かれています。しかも、1991年の当時に「家族」というコンセプトをロボットアニメというか、『ガンダム』の世界の中で明確に表現しています。ひょっとしたら、僕が今、家族についての作品を作るときに、シーブックのお父さんみたいな親でありたい、と思っている部分があるのかもしれない。僕は長年、どうしてこんなに『ガンダム』に惹かれるんだろう、なんで富野監督の作品に惹きつけられるんだろうと思っていましたが、今日のお話で、富野監督の作品には、他にはない切り口やものの見方があるということが見ている人たちに届いていること、そして監督ご本人の口からお話を聞けたことは本当に幸せでしたし、とても満足です。
富野 そういう風に言っていただけるのは本当にありがたく思いますし、年寄りに優しい後輩を手に入れることができてうれしく思っています(笑)。であればこそ、図に乗って言わせていただくならば、自分自身が死ぬまできちんと暮らしていくためにどうするかと考えたときに、やはり拠るべきものを探し続けたわけです。自分の能力はこんなものなのだからということを、僕は自己卑下をして話したつもりは一切ありません。自分が調べられるようなことであれば調べてみて、やる。そういうことに気をつけてやってきました。最後にひとつだけお話をします。子供向けのアニメーション作品を作るうえで、作り手が気をつけなければならないことは何か? 子供というのは大人が全身全霊を込めて教えようとしたことは、それがどういうことなのかとずっと考えてくれる。だから、子供に向けて作るものほど、全身全霊を込めて作らなければならないんです。それまでの僕は逆に、もっと簡単にやさしくすべきだと考えていました。でも、それは手抜きにつながっていたんです。子供というのは大人が全身全霊を込めていなければ、それを見抜いてしまって、この人は嘘を言っているとは言わないまでも舐められてしまうんです。僕にとっては、これが現在に至るまで教典となっています。これはつまり、子育てというのは親育てでもあるということです。子育てをされた方は自覚があると思いますが、今の自分がこういう仕事をしていられるのは息子や娘がいたからではないか。子供という口実があったからやっていたと言いながら、この子たちがいなかったらどうなっていただろうか。それはつまり、あなたたちが親になるために子供たちに教えられていたということです。これをおぼえておけば、死ぬまではなんとかなるんじゃないかと思えます。
- 富野由悠季
- とみのよしゆき 1941年生まれ。神奈川県出身。アニメーション監督、演出家。原作となる小説あるいは脚本を執筆することもある。主題歌などの作詞を手がけることもあり、多方面での活躍が知られる。代表作に『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』などがある。現在は劇場版『Gのレコンギスタ』(全5部作)の制作に携わっており、シリーズ第3作目となる劇場版『Gのレコンギスタ Ⅲ』「宇宙からの遺産」が2021年7月22日に公開。
- 細田 守
- ほそだまもる 1967年生まれ。富山県出身。アニメーション監督、演出家。東映アニメーションを経て、自身のアニメーション映画制作会社スタジオ地図を設立。代表作に『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』などがある。自身が原作・監督・脚本を手がけた最新作『竜とそばかすの姫』が2021年7月16日に公開され、3週連続で週末動員ランキング首位を獲得、8月26日現在現在動員390万人、興行収入54億を突破している。また、9月10日(金)より、最高峰の音響と映像が楽しめるドルビーシネマ上映も決定!
富野由悠季の世界
第7会場 新潟市新津美術館
〒956-0846 新潟県新潟市秋葉区蒲ケ沢109-1
会期/2021年9月17日(金)~11月7日(日)
主催/新潟市新津美術館、UX新潟テレビ21
第8会場 北海道立近代美術館
〒060-0001 札幌市中央区北1条西17丁目
会期 2021年11月17日(水)~2022年1月23日(日)
主催 北海道放送株式会社、北海道新聞社
※新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大状況により、展覧会の内容等が変更されることがあります。詳細は、各美術館の公式サイト、ツイッターなどでご確認ください。
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