TOPICS 2021.08.27 │ 12:00

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』特集(全3回)
プロデューサー・村瀬亜季インタビュー

夏に差し掛かっても底抜けの明るさと楽しさで視聴者を引っ張り続ける『トロピカル~ジュ!プリキュア(以下、トロプリ)』。歴代シリーズでも類を見ない「陽(よう)のプリキュア」はどのようにして生まれたのか。今回は、作品の起点を担う東映アニメーション・村瀬亜季プロデューサーのインタビューをお届けしよう。

取材・文/編集部

繊細さが求められたローラ役と、満場一致で決まったまなつ役

――キャラクターのデザインや性格を設定していくうえで、とくにこだわった部分はありますか?
村瀬 主人公まなつの変身後(キュアサマー)を「ピンク一色にしたくない」ということは明確に伝えていました。パッと見たときの配色のイメージをこれまでのシリーズから変えたかったので、白をベースにいろいろな色を入れたいとお願いしました。性格的な部分で当初決まっていたのは、監督が挙げていた「ちょっとおバカで愛されるキャラクター」あたりですね。そこからはシナリオを作りながら、設定が固まっていくのを都度デザインに反映してもらう流れでした。

――ローラに関しては横谷さんが「きつい性格に見えないように注意した」と言っていたのですが、このあたりのバランスについてはいかがですか?
村瀬 ヘタをすればイヤな子になってしまうかも、というくらい、きわどいところを攻めていたので、最初はセリフを一言一句、話し合いながら調整していました。キャストの選定も「このセリフを言っても問題がない、逆に魅力的に聞こえる、そんな方にやってもらいたい」と話していたんですが、今はもう日高里菜さんに安心してお任せできる、と思っています。

――ローラも含めて、メインキャラクターのキャストについて、決定した経緯などを教えてください。
村瀬 満場一致度が高かったのは、まなつ役のファイルーズあいさんですね。キャラクターの性格上、誰にも負けない声がほしくて。あとは何をしても「陰」にいかない「陽」な声は、私がまなつにずっと持っていたイメージで、そこをスパーンと出してくださったので、聞いた瞬間に「これだ!」という雰囲気でした。

――先ほども少しうかがいましたが、ローラ役の日高さんについては?
村瀬 どんなセリフでも安心して任せられる声の魅力、巧みで繊細な演技と、あとはかわいさの中に強さや芯がある方だったので、ローラ役は私の中ではすぐに決まりました。あと印象的だったのは、さんご役の花守ゆみりさん。オーディションのときは、さんごのイメージがスタッフの中でもまだ固まりきっていなくて、いろいろな方の名前が挙がっていました。ただ、オーディションの前に演者の方々に作品について説明するタイミングがあるんですけど、聞いてくださっている花守さんの相槌の打ち方が、まさに思い描いていたさんごそのもので「あ、さんごがいる!」と(笑)。それからお芝居を聞いて、女の子のかわいらしさをすごくナチュラルに演じてくださる方だなあと思って、とくに記憶に残っていますね。

――上級生組についてはいかがですか。
村瀬 みのりもいろいろな方の声を聞いて、みなさんと意見を出し合いました。感情があまり表に出ない子なんですけど、決して暗いわけではないですし、プリキュアなのでやはりプラスのパワーを持ったキャラクターとして描きたくて。そういう要素をきちんと声の中に持っていて、淡々と話す中に優しさとか温かさを込めてくださるのは石川由依さんならではだな、と感じています。最初の頃は「一緒に作らせてください」とお願いして、細かく相談したキャラクターでもありますね。

――最上級生のあすかは?
村瀬 瀬戸麻沙美さんは本当に声のイメージがピッタリではあったんですけど、実際にご本人とお話ししていると、あすかと近いなと感じる部分が多くて。立ち振る舞いも凛とされたカッコよさがあったり、とにかく海がお好きということで、『トロプリ』に参加してくださってうれしいなあという要素がたくさんあったので、これは本当にご縁だなと思っています。

――メインキャラクターなのかは微妙ですが、くるるんがひたすらかわいだけの存在になっていてとにかく和みます(笑)。
村瀬 最高の褒め言葉ですね(笑)。今回はいわゆる「妖精」の役割をローラが兼ねていたのですが、マスコット的にほっこりする存在がほしい、セリフも「くるるん」だけでいい、というところで、とにかく癒やしに徹したポジションを確立しているキャラクターになります。

「あとまわし」の正体が「あとまわし」な理由

――敵陣営のキャラクターですが、今回、彼ら同士で仲がいいのが印象的です。
村瀬 これも土田監督が初期から「敵の陣営も仲よく和気藹々としているチームにしたい」とおっしゃっていて、横谷さんも賛同されたので、自然とできていった方向性ですね。私としても、ターゲットのお子さんが敵を怖がってしまう年齢層なので、あまり怖くしたくないという大前提はありました。収録でも敵陣営のキャスト同士で「今日もここは平和ですねー」なんて話をしていて、収録現場でも仲よく穏やかです(笑)。

――そのあたりも、ある意味「新しい風」ですね。
村瀬 そうですね。横谷さんが「敵陣営がシリアスになりすぎると、プリキュア側も日常生活を送れないんじゃないか」とよくおっしゃっているんです。あとまわしの魔女が何を「あとまわし」にしているのか、なかなかわからないのもそういった理由で、相手の本当の狙いがわかってしまったら、まなつたちも学校で部活をやっている場合じゃないんじゃないかと。

――そうか、はっきりとした目的意識ができてしまうんですね。
村瀬 「目の前のことに全力で生きる、それがいちばん大事」というシリーズなので、そこは「あとまわし」にしている……と言ったら、怒られてしまうかもしれないですけど(笑)、いちばん大事なことをやるために、そこはちょこっと後ろに持っていこう、という方針でやっています。

――プロデューサーとして中盤以降、注目してほしい点などを挙げると?
村瀬 前半は人魚のローラがプリキュアに変身するところをピークにエピソードを積んできたので、ここからは他のキャラクターたちのお話や、学園生活を掘り下げていくタームとして『トロプリ』にぴったりな夏を盛り上げていけたらと思っています。後半は後半でまた新たな展開を用意しているので、そこも想像しながら楽しんでいただけたらうれしいです。

――このタイトルで秋や冬になったらどんなお話になるんだろう、というのは気なります。
村瀬 そこはもう期待を裏切らない感じにしていこうと思っているので(笑)、どうぞお楽しみに。endmark

村瀬亜季
むらせあき。2016年に東映アニメーションに入社。設定制作やアシスタントプロデューサーとして『プリキュア』シリーズに参加し、映画『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』で初めてプロデューサーをつとめる。TVシリーズとしては『トロピカル~ジュ!プリキュア』が初のプロデュース作となる。
作品情報

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜08時30分より放送中。

  • ©ABC-A・東映アニメーション