中盤の曲は単体で聞くと自分でも怖いと思います
1.「うつくしいひと」
――「うつくしいひと」という曲名もrionosさんがつけたものなのでしょうか?
上田 そうですね。今回、自分で作詞した「プランクトン」以外、曲名はすべて考えていただいたものです。
――「その人から見た上田さんを」というオーダーで「うつくしいひと」というタイトルがついてくると……照れませんか?
上田 照れます(笑)。rionosさんには「ポジティブな面だけを出そうとしている自分の姿を描いてほしい」とお伝えしました。だから、ネガティブな心情やモヤっとした思いをどこかに抱えつつも、きれいなところだけ見せようとしている。そういう意味で「うつくしいひと」というのは納得のタイトルだと思います。
――「うつくしいひと(だけど)」みたいなニュアンスがあるんですね。
上田 歌詞にもちょっと寂しげな部分があったりもするのですが、歌自体は「うつくしいひと」であるために、できるだけやわらかく、たとえばラジオなどでしゃべっている発声に近い歌い方をしています。嘘をついているわけではなく、「私」なんだけど、どこか少しパッケージングされた「よそ行き」の雰囲気がある曲ですね。
2.「白昼夢」
――「白」はこれまでの上田さんの曲でも何度かモチーフとして出てきた色ですが、「正しさ」の象徴として使われているのは初めての気がします。
上田 もやっとしたものを外から見たり、聞いたり、自分の中でも感じたりするけど、「うつくしいひと」であろうとする理性がまだはたらいていて、自分にも自分のまわりにも「おだやかであれ」と祈っているような曲です。過去の曲と比べるとちょっと大人なんですよね。「白」という色に託しているものが。
3.「Poème en prose」
――『Empathy』でもインスト曲が印象的な使われ方をしていましたけど、とにかく生々しさがみなぎった曲ですね。
上田 嫉妬とか怒りのような感情が生まれる前の、何かに傷ついている自分がいて、その状態をイメージして作ってほしいとお願いしました。ここで何かがプツンと切れてしまうような、場面転換にあたる曲です。
4.「scapesheep」
――メロディは抑制が効いた感じなんですけど、ところどころでドキッとするポイントがあります。アウトロ(編注:楽曲の終わりの部分)で歌詞には入っていない「鏡よりも気持ち悪い」とか。
上田 心のシャッターを降ろしている状態で、何かにショックを受けている自分を守ろうと怒りが渦巻いているんですけど、それをぶつけられる対象も見つからない。だからずっとブツブツとつぶやいている中で急に衝動的な気持ちが吹き出してきて、でもまた落ち着いて……が繰り返すカオスな感じで、このあたりの曲は単体で聞くと自分でもすごく怖いなと思います。
――3~4曲目はTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDさんの曲なんですけど、メンバーの松井洋平さん個人としては参加していないので、となると『RefRain』『Empathy』『Nebula』のすべてに参加している方がじつはいないんですね。
上田 「scapesheep」も詞は松井洋平さんに書いていただいているんですけど、松井さん個人の名義ではないので、そういえば3作全部に参加されている方はいないですね。
――田中秀和さんも前2作は参加しているのですが、今回はお休みです。
上田 そうですね。秀和さんは『Empathy』で「Walk on your side」をお願いしたように明るくて甘い曲のイメージがあって。今回はよりほの暗くビターな曲が『Nebula』に合うんじゃないかと思ったんですよね。
真っ暗闇で収録してみたら「これはあかんかも」
5.「アリアドネ」
――心の整理がつかない状態を操り人形に見立てた曲ですが、上田さんのソロ曲ではわりとストレートなモチーフの扱い方かなと思いました。
上田 うん。比較的わかりやすいですね。キャッチーというか。滑稽さがすごく出ていて面白いなと思います。
――とはいえ、メロディはクネクネとうねっている曲ですが、歌っていて大変でしたか?
上田 この曲はそれほど大変でもなかったですね。悩みながらアルバム制作をしていた時期だったので、不安定さが曲と重なって気にならなかったんだと思います。いちばん難しかったのは「白昼夢」ですね。自分の体内時計でリズムを取ることがぜんぜんできなくて、どこの音を聞けばいいんだろう?と苦戦しました。次の「デスコロール」も苦戦したといえばしたんですが……。
6.「デスコロール」
上田 じつは「デスコロール」は、曲の途中まではプリプロ(編注:事前レコーディング)の音源を使っているんです。リズム的にちょっと後ノリ、というギリギリのラインがプリプロのほうがうまくできたなと思って。本番では照明を落として、プリプロ以上に暗い空間で座って録るというチャレンジをしてみたんですけど、そうするとリズムも取れなくなるし、あまりに絶望感が強すぎてしまって「これはあかんかも」と(笑)。
――この曲を暗い空間で録ったら本当に真っ暗闇ですよね(笑)。
上田 そうなんです。だから後半の「咲いてしまう/壊れそうな」のブロック以降は座って録ったテイクなんですけど、その前まではプリプロの音源を使っています。そういった意味では、これも苦戦した曲ではありますね。
――アルバムの中で「底」の状態まで落ちちゃった曲なんですけど、妙に安心感がある曲ですよね。
上田 わかります。テンションが低いときに聞くとすごく落ち着くなと思います。ここまでジェットコースターのように感情がしっちゃかめっちゃかになる構成だったのが「いったんもう全部手放そう」という状態になるので、ゆったり聞けるのかもしれません。
――上田さんは昔「ほとんど物がない部屋に住んでいた」と言っていましたけど、ひょっとするとこの曲のような雰囲気だったのかなと思いました(笑)。
上田 たしかにそうですね(笑)。今のおうちでこの曲を流すよりも、前のおうちで流したほうがハマる感じがするので、そのイメージはだいたい合っていると思います(笑)。
上田麗奈『Nebula』
品番/LACA-15884
価格/3,300円(税込)
発売日/2021年08月18日
〈収録曲〉
01.うつくしいひと
作詞・作曲・編曲/rionos
02.白昼夢
作詞・作曲/ChouCho 編曲/村山☆潤
03.Poeme en prose
作曲・編曲/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
04.scapesheep
作詞・作曲・編曲/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
05.アリアドネ
作詞・作曲/山田かすみ 編曲/Saku
06.デスコロール
作詞/良原リエ 作曲・編曲/Babi
07.プランクトン
作詞/上田麗奈 作曲・編曲/広川恵一(MONACA)
08.anemone
作詞/Annabel(siraph) 作曲・編曲/蓮尾理之(siraph)
09.わたしのままで
作詞/Annabel(siraph) 作曲・編曲/照井順政(siraph)
10.wall
作詞・作曲・編曲/コトリンゴ