ヴィヴィに託された希望は「創造性」
――物語の終盤では、作曲という「創作物」を作ったヴィヴィが、AIたちにとっての希望と見なされることになりました。人間とAIの最大の違いを「創造性」に置いた理由を聞かせてください。
梅原 企画を始める最初の段階で「AI」と「歌」というお題をいただいたときから、僕たちの間では「主人公が歌姫なら、最終的には歌で世界を救わなければいけない」という共通認識がありました。それが「AIと歌」の物語としての終着点でもあるし、ヴィヴィの成長物語の集大成でもあるはずだろうと。「創造性」は、そのラストを成立させるためにどうすればいいかを考えていった結果生まれたものでした。
――物語は、ラストに「主人公が歌で世界を救う」というところに結実するように作っていったのですね。
梅原 そうですね。作劇上の逆算ではありますが、考えた順番としては、AIが反乱を起こしたときに「新たな人類」としてヴィヴィに託す希望は何だろうか?これまで「人間にはできたけれどAIにはできない」と思われていたことは何だろうか?と考えていって、作品としてのアンサーでは、「創造性」ということにしました。ヴィヴィが「歌を作る」のもそこからの発想です。
――物語では、アーカイブの一部(α)が、人間と同様に「創作」をしたヴィヴィを「新たな人類に最も近い」として、ヴィヴィが選ぶ未来を見てみたいと伝えます。
梅原 これはあくまでも『Vivy』という物語において、ですが。「人間とAIの違いは何なのか」というのは、技術が発達している今は、本職の研究者の方々が答えを求めていろいろ考えてくださっていると思います。だから、人間とAIの違いはクリエイティビティにあるんだとか、クリエイティビティがないのがAIで、あるのが人間なんだみたいなことを僕らが強く訴えたいわけではないんです。ただ、人間とAIの違いの定義をお客さんに委ねるのではなく、作品のなかで明確に言おうとは決めていました。
――AIと人間の差を「作中での定義」として出したのですね。作劇上の逆算ということでしたが、創作物やヴィヴィが歌を作ることに結びつくのは、腑に落ちたところでした。
梅原 AIと人間のメンタル的な違いは、『Vivy』ではあまり明確にしなかったところではあるんです。作劇上、人間とAIを大きく分ける必要性もなかったし、むしろ物語の世界観としては、100年の間にAIが進化して、人間とAIの区別が曖昧になっていった、という書き方をしていきました。
長月 技術が進歩して、より人間に近づくことで、人間的な感情を持ったAIも登場しますよね。アントニオがそうで、オフィーリアの歌を多くの人に聞いてもらえるようにするのがサポートAIである彼の使命なのに「オフィーリアには自分のためだけに歌ってほしい」という感情を持ってしまい、使命と願いがコンフリクト(衝突)を起こしてしまった。AIが願いを抱いてしまった、というのがアントニオの悲劇だと思うんです。
人間の代表、垣谷は「こじらせた男」!?
――物語を通して反AI集団・トァクの垣谷という人間が登場します。彼が登場した理由を聞かせてください。
長月 垣谷は、『Vivy』における人間の代表として出しました。100年間のお話をやりましょうとなったときに、AIたちが出会う人間が、時間が経過すると成長したり老いていったりと、前に会ったときとは違う姿になっている光景があるといいなと思いました。それで100年間で何度も衝突することになるトァクを設定して、組織の代表格として遭遇する人物に、人間とAIの時間の流れの違いを見せる役割を委ねるのはどうだろうと。そして作中にはAIに対して好意的な人間が多いなかで、「AIが進化することによって、不幸になる人間もいるんだ」と問題提起をする人物が必要だと思ったんです。……それとは別に、垣谷に関しては「こじらせている男」という俺の個人的な趣味も詰め込んでみました(笑)。
――こじらせている男……?
長月 彼がテロリストとなった動機がすでに、こじれたものなので。子供の頃にAIの先生にピアノを教わっていた垣谷少年は、先生のことをすごく尊敬していた。だけど、その先生が「音楽の教師として生徒を導く」という使命を果たすために、交通事故で人命救助をして、その結果死んでしまった。その先生の葬儀で、残っていたデータによって先生の最期が暴かれてしまう。繊細な垣谷少年は思ったんですね。「AIだった先生がAIらしからぬ人間みたいな行動をした結果、人間のように苦しんだ可能性がある。なんで先生がそんな苦しみ方をしなきゃいけないんだ。そうだAIならAIらしく生きていれば、先生は苦しまなくてもよかったんじゃないか……」と考えすぎてしまい、反AI組織に誘われたことをきっかけに、過激な思考に傾倒してしまった。
――垣谷が反AI集団に入ったのは、先生のことを思い詰めた結果だったのですね。
長月 人間だった自分が先生の死で傷ついたことと、AIだった先生が人間のように苦しんだ可能性があるということの両方が受け入れられなかった。だからAIはAIらしく、人間は人間らしく棲み分けるのが互いにとって良いことである、という思想に至ったのだと思います。
――垣谷は、ヴィヴィに食ってかかったりと、回を追うごとに執着がエスカレートしていきました。
長月 ヴィヴィは、第2話の相川議員襲撃のときに、身を挺して敵対勢力である垣谷の命を助けた。垣谷は、AIである彼女がまるで先生みたいに不合理な行動をとったことが許せなかったんです。挙句、「私の使命は、歌で人を幸せにすることです。そのために、あなたには生きていてほしい」と先生と同じことまで言い出した。40年後、機械の身体になってまでヴィヴィに執着するようになったという。彼女なら、先生が最期に苦しんだかどうかを聞けるんじゃないかと、それが言葉にならない垣谷のモチベーションだろうなと思います。……もうね、俺は「女に人生を狂わされる男」というのがすごく好きなんですよ。オフィーリアに執着するアントニオもそうなんですけど、垣谷も、完全にヴィヴィに人生を狂わされているので(笑)。
梅原 それ、けっこう言いますよね、長月さんね(笑)。
Vivy -Fluorite Eye’s Song-
BD/DVD Vol.03は2021年8月25日発売
- ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO