陽芽のかわいらしさは天性のもの
――『わたゆり』という作品に触れた印象について聞かせてください。
小倉 コンセプトカフェという舞台や登場キャラクターたちの個性など、独特の世界観や設定に強く惹かれました。陽芽と美月さんそれぞれの性格や過去が「百合」の要素にうまく結びついているのが、『わたゆり』ならではの面白さにつながっていると思います。
上坂 百合作品といえば、美しさと儚さが魅力だと思いますが、原作には百合作品のそういった素敵な部分が詰まっていました。その一方で、読み進めていくとシリアスな人間関係や、お年頃の女の子ならではの悩みが描写されていて。きらびやかな「百合」の要素と、不思議なリアリティが同居している作品だと感じましたし、コンセプトカフェにもがぜん興味が出てきました。
――本作の主人公である陽芽についてはどんな印象でしょうか?
小倉 本人はしっかり者のつもりでも、やる気が空回りしちゃうところがあったりして、誰からも愛されるキャラクターだなと思いました。ただ、「本音」と「外面」を使い分けるという部分は、一歩間違うと裏表のあるイヤな子に見えてしまうかもしれません。ですから「本音」の部分と「外面」の部分、どちらの場合でも陽芽のかわいらしさが伝わるように演じました。
小倉 最初は感情の起伏を少し抑えめにお芝居していたんですけど、アニメの絵のタッチがポップでカラフルかつコメディチックでしたし、収録時に音響監督さんから「もっとやっちゃっていいよ!」と指示していただいたので、思いきりメリハリをつけるようにしたんです。そうしたら、いい具合にオンオフの差がつきましたし、「外面」の部分もコメディタッチになって、かわいさがより引き立つようになりました。
上坂 陽芽ちゃんは何事にも器用で、なんでもこなせるように見えるんですけど、「メニューがおぼえられなーい!」みたいに意外とポンコツなところがあって。「外面」では抜け目なく振る舞っているつもりでも、けっこう抜けていて憎めない子ですよね。なにより美月にキツく当たられても「あれえええ!?」と心の中でうろたえるだけで、悪意を向けたり貶(おとし)めたりしない。そういったところはまわりに愛される天性の才能ですし、抱きしめたいくらいかわいい子だと思います。
純粋すぎるがゆえに不器用な美月
――美月の人物像について、おふたりはどのようにとらえていますか?
上坂 「リーベ女学園」では才色兼備のお嬢様として振る舞っていますが、それはあくまでも「芝居」に過ぎません。美月の素の姿は、陽芽ちゃんとは対照的にまったく「外面」を作れない、不器用で言葉が足りない人なんです。「リーベ女学園」の面々とはなんとかうまくやっていますが、円滑な人間関係を築くのが苦手で、いつも損ばかりしてしまう。どうにかしたいと思っても、自分をなかなか変えられない。そんな不器用さが魅力的に見えるように意識しながら演じています。
上坂 心の中ではいろいろと考えているのに、出てくる言葉がそれなの!?という部分が、陽芽ちゃんのツッコミと相まってコミカルに表現されているところが面白いですよね。
小倉 美月さんは物語序盤では、陽芽に対してずっとキレているじゃないですか(笑)。だから最初は正直、とっつきにくい人という印象がありました。でも、その内側には彼女なりの考えや、やさしさといった人間的な感情がちゃんとあるんです。どこまでもまっすぐで純粋な一面が見えてくると、美月さんを愛おしく感じると思います。
陽芽と美月の共感できる部分
――おふたりは陽芽と美月のどんな部分に共感をおぼえますか?
小倉 私は『わたゆり』のアニメ化とキャストが発表されたときから「陽芽に似ている」とよく言われていまして……(笑)。声優というお仕事をしている以上、お芝居をしているときと素に戻ったときのオンオフはきっとありますし、自分ではしっかり者のつもりでも傍(はた)から見るとそうではないところなどは、ちょっと共感できますね。
上坂 美月は他人からは「余裕と自信に満ちあふれたお姉さま」と思われるくらい、落ち着いていて頼もしく見えますが、顔に出ないだけなんです。私も小さい頃からおっとりしていると思われがちですが、実際ははしゃいでいたり緊張していたりします。そういう部分は、美月と近いものがあるなと感じます。
――このあと『わたゆり』のキャスト登壇先行上映会がありますが、顔に出ていないだけで緊張しているのでしょうか?
上坂 いえ、トークイベントなどは意外と緊張しないんです。それよりも、アフレコやオーディションに向かうときに人知れず緊張しています。一度、自分がどれだけ顔に出ないのか、こっそりお手洗いで写真を撮ってみたら、通常時の顔と変わりませんでしたね(笑)。
- 小倉唯
- おぐらゆい 8月15日生まれ。群馬県出身。スタイルキューブ所属。主な出演作は『最強陰陽師の異世界転生記』(ユキ〈管狐〉役)、『異世界召喚は二度目です』(シロネコ)、『ウマ娘 プリティーダービー』(マンハッタンカフェ)など。
- 上坂すみれ
- うえさかすみれ 12月19日生まれ。神奈川県出身。ボイスキット所属。主な出演作は『六道の悪女たちブッチギレ!』(向日葵 乱奈アキラ〈白〉役)、『うる星やつら』(ラム役)、『スパイ教室』(ティア役)など。