原型は銭ゲバ少女&元気少女のコンビだった!?
――まず、『神クズ』誕生の経緯について教えてください。
肘樹 もともと私は『KING OF PRISM』や『アイドルマスター』などのアイドル系作品が好きで、それを知っていた担当編集さんから「アイドルを題材にしたマンガを描いてみませんか?」とお声がけいただいたのが、そもそものきっかけですね。
――無気力なクズアイドルの仁淀ユウヤと、幽霊になった神アイドルの最上アサヒを組ませるというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
肘樹 私が中学生から高校生の頃、「お金のためにアイドルになる」という銭ゲバな女の子キャラを妄想していたのですが、企画当初はその子とアサヒちゃんのような元気娘のコンビを主人公にしようと考えていました。でも、構想が進むうちに「無気力で目が死んでいるけど、生きている男の子」と「性格は元気いっぱいだけど、死んでいる女の子」という、あらゆる点で真逆のふたりを組ませたほうが面白くなると考えて路線変更したんです。アサヒちゃんを幽霊にしたのも、彼女が憑依することで「無気力仁淀」と「神仁淀」の2パターンが描けるので、面白いギミックとして使えるなと思いました。
やる気はないけど悪気もない仁淀の善性
――主人公の仁淀は極度の面倒くさがりやですが、彼の魅力とは?
肘樹 仁淀はファンの前でもやる気をまったく見せないのでクズっぽく見えますが、能動的に人を傷つけようとする人間ではないんです。何事に関しても無気力で、その結果、周囲の人に迷惑をかけることはありますが、彼からすると悪気はないんですよ。だから、目の前に困っている人がいたら「誰か助けてあげないかな」と一応は考える。そんな無気力なりに必要最低限の優しさを持っているところが、数少ない仁淀のいいところなのだと思います。ただ、面倒くさいので自分からは助けにいかない。だから、どうしても「悪いヤツではないんだけどね……」という感じになるところが、仁淀らしさなのかなと(笑)。
――これまで見たことがないタイプの主人公像ですよね。
肘樹 毎回、仁淀を描くときに気をつけているのは、彼のやる気の塩梅(あんばい)です。積極的に他人に関わらせると能動的すぎるし、かといってあまりに行動しないとお話が動かない。そして、言葉がきつすぎるとイヤな人になってしまうけれど、マイルドにしすぎると仁淀らしくなくなってしまう。そのさじ加減は、いまだに難しいです。セリフのひとつひとつにしても、「仁淀ってこういうこと言うかな……」と自分の中で確認しながら書いています。
アサヒはアイドルとしては100点だけど……
――では、アサヒについてはどうでしょうか?
肘樹 アサヒちゃんは元気で明るくて、素の姿がそのままアイドルとしての在り方につながっている子で、私にとっての「アイドルの理想像」を詰め込んだキャラクターですね。どんなときも前向きでファンのことを大切にしていて、アイドルとしては100点なんだけど、アイドル活動のことしか頭にないから人間関係について意外とドライなところがある。アイドルとしては輝いているけど、彼女も他人に対して興味を持てないところがある点で、アサヒちゃんと仁淀は似た者同士なんです。
――似た者同士の仁淀とアサヒは四六時中一緒にいるのに、まったく「男女の仲」には発展しませんね。
肘樹 『神クズ』で「恋愛要素を描かない」ことは、絶対に譲れないポイントなんです。そもそも仁淀は「恋愛とか面倒くさい」というタイプだし、アサヒちゃんはアイドルのことしか考えていない。先ほど言ったとおり、ふたりとも基本的に他人に興味がないので、恋愛方向に感情が動かないんですよね。
――たしかに、ふたりが恋愛関係になるところは想像できません。
肘樹 私はある意味、ふたりを「きょうだい」のような関係として描いています。ふたりともひとりっ子ですが、仁淀は自分が兄、アサヒは自分のことを姉だと無意識下で認識している感じなんです。
吉野は献身的すぎて怖い……!?
――「ZINGS」で仁淀のパートナーである吉野カズキは、本作でも数少ない常識人だと思いますが……?
肘樹 逆に吉野くんの善人ぶりってちょっと怖くないですか?(笑) 仁淀に対する献身ぶりもすごいし、いい人すぎて逆に「この人、大丈夫……?」と思ってしまうというか。でも、読者の方々から「吉野くんがすごく好きです」というお声をたくさんいただいて、思った以上に吉野くんは人気があるんだって驚きましたし、人間としての深みもある子なんだと再認識したんです。それで、吉野くんのことをさらに掘り下げたいと思って、彼の献身性は自分に対する自信のなさからきていることを明らかにしつつ、それを克服しながら仁淀との関係性を深めるエピソードを3巻~4巻で描きました。仁淀は吉野くんがいないとダメな人ですが、吉野くんもひとりでは立っていられないタイプで、お互いに支え合うことで「ZINGS」は成り立っているんですよね。
- いそふらぼん肘樹
- いそふらぼん・ひじき 愛媛県在住のマンガ家。『月刊コミックゼロサム』で『神クズ☆アイドル』を連載中。食材のひじきが好きで、小学生の頃から「ひじき」と呼ばれていたのと、よく磯をフラフラしていることから、このペンネームをつけたとのこと。
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- ©いそふらぼん肘樹・一迅社/「神クズ☆アイドル」製作委員会