TOPICS 2022.01.06 │ 12:00

『戦闘メカ ザブングル』40周年 湖川友謙インタビュー②

富野作品としては珍しいギャグ調の明るい作風で知られる『戦闘メカ ザブングル(以下、ザブングル)』だが、そこで描かれるギャグは湖川友謙氏が目指す理想の姿ではなかったという。そこで具体的にはどこが『ザブングル』のギャグなのか、湖川氏本人に解説してもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/篠部雅貴

ギャグのための作画と印象に残る作画

――アニメーション表現でのギャグは実現できなかったということでしたが、キャラクターデザインとしてのギャグ的な要素はどの辺に込められているのでしょうか?
湖川 ジロンの顔が丸いということくらいで、キャラクターデザインの見た目でギャグだとわかるような要素はないと思う。本当はもっと見た目でわかるような、ヒジがない腕にしようとか考えたんだけど、あんまりやりすぎても作風に合わないものになるだけだから。

――ヒジがない……というと、ドラえもんみたいな。
湖川 そうじゃなくて、柔らかいという意味だよ(笑)。面白い動きをさせるための腕――長く伸びたりするのもアリというデザインをやりたかったということだね。だから、もっとわかりやすいキャラにすれば良かったんでしょうけど、まあ、当時の自分にはその力がなかったということなのでしょう。

――人間から離れるという意味でしょうか?
湖川 いや、そうじゃないんだ。『ザブングル』で初めてやったんだけど、たとえば、ジロンが腹を殴られたときに、相手の拳がジロンの背中側にグーンと出てくるというか、ジロンの身体が伸びるんです。たった1コマだけの絵なんだけど、それを挟むと見た人の印象に残る。そういうことをやりたかったと言っているんです。

――そういう表現って『ザブングル』が最初なんですか?
湖川 海外を含めたらわからないけど、たぶん最初だと思う。『ザブングル』だからやったというのもあるんだけど、もっとリアルなキャラクターでもこういう表現はやるべきだと思う。これはギャグ調だけでなくリアル調でもできる表現で、むしろ印象を増すためには取り入れてもいい作画だと思います。もうひとつ例を挙げると、人が振り向くときは顔が長くなるんだよ。

――ハイ?
湖川 わからないか(笑)。図を見てほしいんだけど、ゆっくり振り向くときは普通にそのまま描けばいいんだけど、バッと素早く振り向くときは途中の顔が見えないよね。そういうときは縦に潰れたように横長の顔を描くと、残像現象が見えるようになる。これはバイクの車輪もそうだし、なんでもそうなんだけど、動きを描くときの基本なんだ。ただ、キャラを似せて描くことに現在のアニメ業界は捕らわれすぎていて、基本を忘れている。本当に大事なのは原画じゃなくて動画なんだよ。原画がおかしくても動画で直せるからね。

――そのジロンがオープニング冒頭で振り向くシーンがありますよね。あそこではこのお話にあった技法は取り入れているんですか?
湖川 やってないよ。

――えええええ。
湖川 いや、オープニングではやっていないんだけど(笑)、こんなことはずっと考えていたからどこかでは取り入れているはずだよ。というか、この話って見ている人には認識できない部分だから、あくまでも感触でしかないんだよ。視聴者の感触として残ればいいと思っていたから、パンチが背中に抜けるようなギャグとして成立する。この振り向きの中間に変形した顔を入れるというのはギャグじゃないから、そこは技術論になってしまう。

――ギャグとそうではない作画の判別が難しいです。
湖川 『ザブングル』では極端にしてしまったから少しズレてしまうけど、たとえば200メートル先まで数コマで行けてしまうということはやった。これは極端にしないと視聴者にもわからないだろうと思ったからそうしたんだけれど、今だったらというか本来ならそうはしなかった作画なんだよね。そういえば、思い出したけど、吉川惣司さんは脚本で参加していたのに、その回を一度も作画していないんだ。吉川さんと一緒に仕事できなかったのは残念だったな。

オープニング/エンディングに隠された真実

――エンディングでジロンが走っている途中でコケるじゃないですか。あれはギャグですよね。
湖川 いや違う。あれは当たり前の作画。あそこは1コマで描いているんだけど、『ザブングル』っぽく転んでいるという描き方をしているだけなんだよ。誰だって走っている最中に躓(つまづ)いたらああいう風になるはずだし、あれをギャグとして描いていたら頭がふたつに割れているよ(笑)。

――つまり、作画上ではギャグとして捉えていないわけですね。でも、絵コンテ上ではギャグとして演出されていると思うのですが。
湖川 そういうことか。たしかに主人公が転ぶっていうのはあまりやらないはずだよね。でも、記憶が定かではないけど、絵コンテでそうなっていたはずなんだよ。自分でああいうことを入れたりはしないと思うから、演出でそういう描写になっていたと思う。だから、映像の意図としてはギャグなんだろうね。

――もうひとつ当時から気になっていたんですが、後期オープニングの最後にアイアン・ギアーの足元にザブングルとウォーカーギャリアが降りてくるカットがありますよね。あそこのギャリアの着地位置がザブングルにものすごく近いのが当時から気になっていたのですが、あれはギャグ的な意図があったんですか?
湖川 あそこはギャグというよりは自己顕示欲が強いのかもしれない。ザブングルよりギャリアのほうがカッコイイだろうという(笑)。でも、あの着地の仕方は良かったと思っているんだけど、そうは思わなかったということ?

――いえ、超カッコイイんですけど、なんというか寂しいというか。主役メカの交代に慣れていなかったせいもあるのでしょうが、そんなに前に出なくてもいいじゃないかと。逆にアニメを見ていて初めて作り手の意図を感じた瞬間だったかもしれないです。なぜ、こういう風にしたんだろうか、と。

湖川 ああ、そうなんだ(笑)。『ザブングル』に関してそういう感想を聞いたのは初めてかもしれないな。子供の発想って柔軟で素晴らしいので、そういう印象を受ける子供もいたんだね。オープニングのそのシーンをやったのは俺だから、責任は俺にあるんだけど、あのシーンの意図としては交代する主役メカをどうやったらカッコよく印象的に描けるだろうかというところから発想したと思う。だから、あのカットは前期のオープニングからの流用じゃなくて完全に新規作画で起こしたんじゃないかな。アイアン・ギアーからカメラがパンして着地するまでのタイミングが違うから、ギャリアだけを追加するのではダメだったような記憶がある。思い出してきたけど、とにかくザブングルのデザインが作品世界にあっていないと感じていて、それを覆い隠したいという気持ちも働いていたように思う。これは大河原邦男さんのメカデザインが悪いとかいう話ではまったくなくて、企画が二転三転してしまったせいなんだけれど、主役メカ交代を機にギャリアを前に出したかったんだろうね。でも、考えてみたら、これまでずっと言っていたギャグ的なものはメカでは試していなかったかもしれない。作品全体としてはそういう印象だったかもしれないけど、俺が考えていたギャグ的な動画はメカシーンではやっていなかったのは意外かもしれないね。endmark

湖川友謙
こがわとものり アニメーションクリエイター。1950年生まれ、北海道出身。彫塑家を志して上京するも、なぜかアニメーション制作会社へと就職する。その後はアニメーターとして活躍し、1980年代には富野由悠季総監督によるサンライズ作品にキャラクターデザイナー、アニメーションディレクターとして数多く参加、『無敵鋼人ダイターン3』『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『重戦機エルガイム』などで一世を風靡した。
商品情報

戦闘メカ ザブングル

Blu-ray BOX
2022年3月発売予定

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