「限界オタ」たちのモデルは自分や友人
――河川敷やしぐたろ、ツギコといった「仁淀オタ」たちのセリフ回しは「毎回よくそんな言い回しを思いつくな」というくらい面白いですが、彼女たちのモデルや発想の元になっているものはあるんですか?
肘樹 強いて言うなら、モデルは私や趣味の友人たちでしょうか。「限界オタ」たちのセリフも「こういうことを言わせたら面白いんじゃないか」などと考えているわけじゃなくて、原稿を描いているときに私が思ったことを素直に描いているだけなんです。それ以外にも、ライブや舞台を見たあとのファンの方が書いているブログをよく拝見するんですが、その日のことが事細かに書かれていて参考にすることもあります。
――自然体であの面白ワードの数々が出てくるのはすごいですね。ご自身も、友人たちと「仁淀オタ」のようなやりとりをしているのでしょうか?
肘樹 ここ最近はコロナ禍でなかなか集まれないのですが、飲み会ではどれだけふざけられるかの戦いになって「面白いことが言えないと負け」みたいになりますね(笑)。あと、ライブや舞台を見て受けた衝撃を言葉にすることで、自分の感情をたしかな形で認識するというか。いろいろな言葉を繰り出し合って、自分の心の内を探りつつ、感動を反芻(はんすう)するという感じです。
瀬戸内はもともとアイドルという設定ではなかった
――アイドルグループ「Cgrass」のリーダーである瀬戸内ヒカルは、どのようなキャラクターとして構想したのか聞かせてください。
肘樹 もともと瀬戸内はアサヒちゃんのファンというだけの存在で、今のようなアイドルではなかったんです。でも、人気アイドルという設定を加えると、二面性が出て面白いと思って改変しました。表では人気アイドルグループのリーダーとして頑張っているけど、素の部分はかなり重めなアイドルオタであるという。
――「ZINGS」のライブにも毎回ほっかむりをして参加しているところが、またすごいですね。
肘樹 端から見ると完全に不審者ですが、基本的に「ZINGSオタ」たちはステージ以外のことに興味がないので、周囲の誰もツッコまないんです(笑)。
由良の登場で「ZINGS」だけでなくアサヒのことも深掘りできた
――瀬戸内と同じくアサヒに対して強い執着を見せ、アサヒと同じグループに所属していた由良チカゲは、どのようなキャラクターとして構想したのでしょうか?
肘樹 かつてアサヒちゃんと同じグループに所属していた女の子を出したいと思って、由良というキャラクターを構想しました。今のアサヒちゃんと絡むなら感情の振れ幅が大きく、ひとりの人に対して重い愛情を持つ、いわゆる「クソデカ感情」を持っている子がいいだろうと思いましたし、私も担当編集さんもそういう愛が重いキャラが好きなので、その方向に特化した女の子になりました。トップアイドルでありながら、ファンよりもアサヒちゃんに目が行きがちだったという子で、アサヒちゃんが急死してからはその情熱の行き先が迷子になっていましたよね。3巻以降は吉野くんの話を掘り下げたいと考えていたのですが、由良の登場で「ZINGS」だけでなくアサヒちゃんのことも深掘りできました。
――コミックス5巻から登場する「黒騎士アイドル」七瀬ヤクモについてはいかがでしょうか。
肘樹 「ZINGS」と彼らを支えるオタたちは「アイドルとファンの理想的な関係性」を描いているのですが、七瀬とそのファンはそれとは違った形の関係性を描きたいと思って構想しました。七瀬は、ファンの期待に応えたくて活動の幅を広げようとするんですが、必ずしもすべてのファンがそれを望んではいなかったという。現実にもそういうケースは珍しくなくて、好きなアーティストの方向性が変わってしまって悩んでいる子もいるんですよね。推しの変化をポジティブに受け入れるか、文句を言いながらもついていくのか。それとも受け入れられなくてファンを辞めてしまうのか……。そんな「ZINGS」やアサヒちゃんでは描けなかったアイドルとそのオタたちの悩みに触れていただきたいと思います。
仁淀が動いて歌って踊っている姿に軽くショックを受けた
――現在、TVアニメが絶賛オンエア中ですが、アニメに期待していることは?
肘樹 やはり、マンガでは描くことができない「ZINGS」の歌やステージ演出ですね。アニメ化が決まったと聞いたときも驚きましたが、「ZINGS」が歌うということが想像できなくて。しばらくの間「えっ、ZINGSって歌うんですか? というか、仁淀は歌えるんですか!?」なんてことを言っていました(笑)。じつはこれまで、仁淀がどんな歌声で歌ったり踊ったりするのか考えたことがなかったんですよね。それで、実際にアニメで使われる歌や動きを見せていただいたときに、軽くショックを受けたんです。たとえるなら、私が小さい子供の母親だったとして、保育園の先生に「うちの子、ぜんぜんおしゃべりとかしないでしょう?」と言ったら「いえ、保育園では元気にお遊戯していますよ」と言われて「えっ! 私にはそんな一面見せたことないのに!?」みたいな(笑)。
――ものすごく具体的なたとえですね(笑)。
肘樹 仁淀や吉野くんの創造主である私が、全然知らない彼らの一面を見せられたというのが、新鮮で面白い経験でした。
――最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
肘樹 『神クズ』が、アニメ化という晴れ舞台に立つことができたのは、読者の皆さんの応援のおかげです。TVアニメは仁淀たちが動いてしゃべっている姿を見られる、またとない機会ですし、私と『神クズ』と、そして皆さんの晴れの場です。でかい「夏フェス」だと思って、一緒に楽しんでいきましょう!
- いそふらぼん肘樹
- いそふらぼん・ひじき 愛媛県在住のマンガ家。『月刊コミックゼロサム』で『神クズ☆アイドル』を連載中。食材のひじきが好きで、小学生の頃から「ひじき」と呼ばれていたのと、よく磯をフラフラしていることから、このペンネームをつけたとのこと。
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- ©いそふらぼん肘樹・一迅社/「神クズ☆アイドル」製作委員会